サイボウズが2月に発表した2025年12月期の連結決算によると、連結の売上高は前年同期比26.1%増の374億3000万円、営業利益は同106.4%増の101億100万円、親会社株主に帰属する当期純利益は同99.2%増の70億8100万円、1株当たりの当期純利益は104.3%増の153.17円だった。
同社は6月に営業利益の通期予想を84億3700万円から90億5100万円へと上方修正しているが、これも大きく上回る決算となった。非常に好調な結果に見えるが、執行役員 事業戦略本部長の栗山圭太氏は「喜んでばかりもいられない」と語る。
同氏の発言は何を意味しているのか。決算状況を振り返るとともに、SaaS is dead論の中での事業戦略、人材採用の方向性、グローバル展開の方針について聞いた。
「100億円の利益だが、手放しでは喜べない」サイボウズがそう語る理由
サイボウズが2025年6月に発表した業績予想では、売上高を従来予想の360億400万円から372億200万円へと引き上げたが、2026年2月、これを上回る374億3000万円で着地した。特にクラウド関連事業が当初の想定よりも好調な推移を見せた。
374億3000万円の売上に対し101億100万円の営業利益は、非常に好調な業績に見える。しかし、栗山氏は「本来はそこまでの利益を狙っていなかった。利益が出過ぎた状況」だと語る。
同社は1月から12月で区切った決算を発表しているが、同社はSaaSを主力サービスとしていることから、社内では24カ月や36カ月といった視点での継続率を重視しているという。
そのため、より中長期的な売上創出につながる投資に回すべきだった、というのが栗山氏の語る「手放しでは喜べない」という発言の真意だ。
「利益を投資に回さなければいけないとはわかっていたが、どの領域にどれだけ投資をすべきかの判断が遅れた」(栗山氏)
例えば、同社はノーコードで業務アプリを開発できる「kintone(キントーン)」にAI機能をベータ版として実装しているが、あくまでベータ版のテスト段階であることから大幅な投資には踏み切れなかったという。
また、コロナ禍に人材採用を強化した同社だが、組織作りや人材育成にも予想以上の時間を要したとのことだ。
栗山氏は「サイボウズが目指しているのは、チームワークあふれる社会を創るために、世界で一番使われるグループウェアメーカーになること。利益の大きさだけを追求するわけではなく、利益は次のさらなる投資につなげるものと位置付けている。そういう意味で、100億円超の利益を喜んでばかりもいられない」と話していた。
SaaS is dead論の中でサイボウズはどう戦うのか
続いて、AIエージェントの高度化により2024年末あたりから話題が尽きない「SaaS is Dead」論について質問してみた。SaaS is Dead論とは、AIエージェントがSaaSを代替することで、SaaSが不要になるのではないか、という議論だ。
栗山氏は「10年先のことは予測できないが」と前置きした上で、次のように語った。
「これから5年先くらいまでのことを考えると、特定の業務に特化したシンプルなアプリやソフトはAIで作れるようになるかもしれない。しかし、いくらAIエージェントが発達しても、日本全国の人がAIを活用して業務アプリを構築し、運用し、セキュリティを守る状態になるのは難しいだろう」
サイボウズが提供するkintoneの強みは、特定の業種や業務に特化したアプリ構築というよりは、広くどんな業務にでも対応できることだ。"アプリを作るためのSaaS"というkintoneのプラットフォーム的な立ち位置は、むしろAIエージェントと相性が良いのだという。
「業務アプリ開発の手段は、ドラッグ&ドロップ、ローコード、フルスクラッチといった違いにすぎず、AIエージェントの登場によって競合が変わったわけではない。作りたいアプリの概要をAIに伝えることでアプリを作れる機能は、kintoneと非常に相性が良い」と栗山氏は語る。
これまで「何を作ればいいか分からない」とkintone活用をためらっていたユーザーが、AIを活用しながら独自の業務アプリを作れるようになるため、AIの高度化はkintoneにとってむしろ追い風になっているとのことだ。
AIエージェント時代におけるサイボウズのAI戦略
kintoneが開発中のAI機能をベータ版として使用できる「kintone AIラボ」は、「検索AI」「アプリ作成AI」「プロセス管理設定AI」「スレッド要約AI」「レコード一覧分析AI」「アプリ設定レビューAI」の6つの機能を提供している。
このうち、最も使用されているのはチャット形式でAIと対話しながらアプリを作れる「アプリ作成AI」だ。同社は今後、さらにアプリ作成AIの機能を向上させるという。
具体的には、これまでにテクニカルサポートセンターに寄せられた問い合わせと、その回答内容を整理してAIに学習させる。これにより、実際にユーザーから挙げられた悩みや課題に基づいて回答するAIを実装できるわけだ。
また、「プロセス管理設定AI」も同様にユーザーが多いことから、機能のアップデートを図る予定だ。例えば、ワークフローの申請や承認・差戻しを仲介するようなAIエージェントが構想されている。
申請を差し戻す際に、不足している情報や誤っている数字などをAIエージェントが指摘できるようになれば、承認者の負担軽減が見込める。また、AIエージェントが丁寧な言い回しや表現まで対応できるようになれば、差戻しをする際の心理的な障壁も低くなるだろう。
こうした点からも、業務アプリを現場で作れるというkintoneの特徴が、AIエージェントと相性の良いことがうかがえる。
kintone AIラボの提供開始から約1年が経過し、同社内ではAI活用の事例や内部的なコスト効率なども見え始めているそうだ。そこで、今年中の本格提供開始に向け、準備を進めている段階とのことだ。
「経営層としての視点では、AI機能の利用率よりも、AIを搭載することによる新規市場の拡大や解約率の低下をより重視している」(栗山氏)
サイボウズが再び採用を強化する理由
新型コロナウイルス感染症の拡大により緊急事態宣言が発令されたことから、在宅勤務やテレワークが半ば強制的に進んだ。特に自治体の感染者数報告や保健所の電話受付、ワクチン接種状況の管理など、従来通りの紙の業務では対応が難しい例も急増した。
こうした課題に、現場の担当者がノーコードで業務アプリを作成できるクラウドサービスのkintoneが適していた。2019年にLGWAN(Local Government Wide Area Network:総合行政ネットワーク)内でkintoneが使えるようになったことも影響し、一層の導入が広がった。
そのため、同社ではコロナ禍で人材採用を強化した。急速に変化する環境に対応し短期間でシステムを納品しサポートするためには、新規の人材が欠かせなかったのだ。
その後、コロナ禍が落ち着きを見せたことから、よい強固な組織づくりと人材育成のため、同社はコロナ禍と比較して採用を控えていた。そして現在は、2028年度の売上高500億円超を目指す目標を掲げて、今後はまた人材採用を強化する方針だ。
栗山氏によると、コロナ禍以降の組織づくりは想定よりも時間を要したという。
「ここ2~3年で本部長や役員の入れ替えと、それに伴う部長などマネージャー人材の入れ替えを進めてきた。比較的若い年齢のマネージャーも増えたので、この層が安定して稼働できるようになるまでは採用を抑えていた。そろそろ安定が感じられるので、また人材採用のアクセルを踏むタイミングを迎えている」と、同氏は語る。
テレワーク・リモートワークの拡大やクラウド化の後押しを受けて、「kintoneの知名度が上がれば、それに伴って導入してくださるお客様が増える状況」(栗山氏)だった。しかしある程度普及し、同様の戦略を今後も継続するのは難しい。
そこで同社は今後、単に広くkintoneの知名度を上げるだけでなく、業種・業務に特化したより具体的な事例や利点を、従来よりも狭い範囲で訴求する戦略を強化する。
kintoneのユーザーイベント「kintone hive」から派生した、自治体向けの新企画「kintone hive government」が2025年9月に開催されたが、より細かなセグメントを対象としたイベントやプロモーションを展開するとのことだ。
そのためには、細かなセグメントに合わせた企画やメッセージ発信を小さなサイクルで繰り返し、顧客と対話する必要がある。営業やプロモーション、カスタマーサクセスなどの人材を中心に、同社は組織を拡大する。
海外展開の次の焦点はマレーシア
サイボウズのもう一つの注目すべき戦略が、グローバル展開だ。これまで北米や中国圏、APACを中心に海外拠点を設立し、海外顧客の反応を探ってきた。
過去5年ほど、海外でkintoneが通用するのかを慎重に見極めてきた結果、「特に優れているとは言えなくても、全く使えない製品ではないことがわかった」(栗山氏)とのことだ。
kintoneは特定の業務に特化したサービスではなく、業務アプリを現場で開発できるサービスだ。そのため、言語や各国の規制に応じた認証への対応は必要であるものの、現地の商習慣への機能的な対応はほとんど不要で展開できるという。
「まずは注力している国でシェア1%を獲得する。1%のシェアがあれば、その国でユーザーの存在が確認できると言える。今はそこを目指したい。あと3年あれば、シェア1%を獲得して存在が認知されるソフトウェアメーカーになれる」(栗山氏)
そのような状況で特に同社が注目するのが、マレーシア。kintoneはマレー語への対応を開始したほか、動画放映をはじめとする広告キャンペーンを開始している。
現地パートナーの販売網を活用している国もあるが、マレーシアでは直販モデルが主流。そのため、市場規模が比較的小さいマレーシアでkintoneの認知度を高める施策をテスト的に展開し、その反応を探るのだという。
「タイではリコーとの協業により、パートナー販売モデルの効果を確認できた。このモデルはパートナー企業の販売網を活用できるので、知名度をそれほど高める必要はない。一方で、マレーシアでは直販モデルの中で認知度を高める施策を展開し、その反応を確認したい。この結果を他の国にも上手に展開できれば」と、栗山氏は今後の展望を語った。



