産業技術総合研究所(産総研)は3月13日、耐熱性が課題となっているペロブスカイト太陽電池において、その構成層の1つである「正孔輸送層」に市販の有機材料「2-フェニルピリジン」または「3-フェニルピリジン」を少量導入することで、85℃の高温環境下での2400時間に及ぶ耐熱試験後も初期変換効率を100%維持し、さらに、2025年6月から2026年2月の屋外暴露試験においても初期効率からの効率低下を防ぐことに成功したと発表した。

  • ペロブスカイト太陽電池の耐熱性および屋外耐久性の比較データ

    ペロブスカイト太陽電池の耐熱性および屋外耐久性の比較データ。※参考文献の図が改変されたものが使用されている(CC BY 4.0)(出所:産総研Webサイト)

同成果は、産総研 再生可能エネルギー研究センター ペロブスカイト太陽電池研究チームの神田広之主任研究員、同・村上拓郎研究チーム長らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

ペロブスカイト太陽電池は、基材のフィルム化による軽量化が可能なほか、従来のシリコン太陽電池と比べて曲げなどの歪みに強い特性を持つ。そのため、壁面や窓などの垂直面への設置や、電柱への巻き付けといった多様な活用が期待されている。しかしその実用化に向けては湿気、光、熱による劣化が課題となっている。

室内照明のような微弱な光でも発電可能なペロブスカイト太陽電池は、屋内の環境発電としても利用できる一方、太陽電池としての真価はやはり屋外での発電にあるといえるが、風雨や強い太陽光にさらされる屋外はペロブスカイト太陽電池にとって極めて過酷な環境だ。

直射日光を浴び続ける屋外では、光の強さだけでなく表面温度が70℃以上に達する熱の問題が生じることも珍しくない。従来のペロブスカイト太陽電池は、85℃の高温環境下ではわずか数十時間で初期性能の10分の1以下にまで低下する事例も確認されていた。この熱劣化は、構成層の1つである正孔輸送層の変質が主因とされており、実用化に向けて劣化しにくい同層の開発が強く求められていた。

ペロブスカイト太陽電池では、正孔輸送層の電荷輸送特性を改善するため、一般に「4-tert-ブチルピリジン」(4-tBP)などの有機材料が添加される。しかし、これらは高温下で正孔輸送層からペロブスカイト層へと熱拡散し、層内にボイド(空孔)を生じさせてしまうことが課題だった。そこで研究チームは今回、熱拡散を防ぎ構造劣化を抑制できる新たな分子構造の探索を行ったという。

従来材料の4-tBPは、窒素原子を含むピリジン環に対し、置換基であるtert-ブチル基が180度反対側に位置する直線的な分子構造を持つ。分析の結果、この構造が災いし、分子が窒素原子の方向へ動く際にペロブスカイト層へと容易に熱拡散することが判明した。

これに対して研究チームは、拡散方向に対して非直線的な構造の材料を用いることで、ペロブスカイト層への熱拡散を抑制できると考察。分子構造が拡散方向に対して非直線的なピリジン環と六員環からなる2-フェニルピリジンを導入したところ、耐熱試験後も正孔輸送層内にボイドは生成されず、極めて高い耐熱性を示すことが確認された。

  • 耐熱性向上の仕組み

    従来材料の課題と今回の研究で用いられた材料による耐熱性向上の仕組み。(出所:産総研Webサイト)

これにより、ペロブスカイト太陽電池の耐熱性を大幅に向上し、2025年6月(夏季)から2026年2月(冬季)にわたる長期の屋外暴露においても、高い耐久性が実証された。また、2-フェニルピリジンは、正孔輸送層の導電性を大きく上げることができるだけでなく、入手も容易な上、厚く塗布することが可能なため、塗布工程を容易にできることから量産化にも適しているとした。

  • ペロブスカイト層への添加剤の熱拡散のイメージ

    ペロブスカイト層への添加剤の熱拡散のイメージ。(出所:産総研Webサイト)

続いて、2-フェニルピリジン以外にも耐熱性を有する材料を探索するべく、さまざまな材料の検証が行われた。まず、構造が異なる36種類の分子を網羅的に選定し、分子の歪み具合、沸点、溶解性、分子量、ガラス転移温度といった物理パラメータがペロブスカイト太陽電池の耐熱性にどう寄与するのかが詳細に解析された。なお、ここでの分子の歪み具合とは、窒素原子の位置に対する置換基が何度の角度に位置するかを意味する。

検証の結果、耐熱性向上の鍵はピリジン環における置換基の位置にあることが判明。特に、ピリジンの窒素原子に対して置換基(フェニル基)が60度または120度の位置にある場合に高い耐久性を得られることがわかり、高耐熱性を備えたペロブスカイト太陽電池のための分子設計指針が確立されたとした。

  • 今回探索された材料の分子構造の一覧

    今回の研究で探索された材料の分子構造の一覧。(出所:産総研Webサイト)

研究チームは今後、多様な非直線構造を持つ材料での試験を進め、さらなる耐久性向上を目指すとのこと。耐熱性に加え、耐湿性や耐光性、長期屋外暴露試験による長期安定性の実証を重ね、さらに、ペロブスカイト組成の最適化や劣化抑制技術の導入などにより、寿命20年以上の高性能ペロブスカイト太陽電池の実用化を目指すとしている。