未来館の展示ゾーンの奥にある「研究エリア」で研究を行っているプロジェクトの1つ、身体性メディアプロジェクト「Cyber Living Lab」。このプロジェクトはこれまで、人の「カラダ」の感覚や機能を拡げる新しい技術や体験(メディアテクノロジー)を生み出してきました。その歴史は、前身となるプロジェクトを含めると、なんと10年以上にもおよびます。

2025年11月30日に行った研究者トーク&展示「ソウゾウしよう! 未来のメディアテクノロジー ~身体性メディアの、これまでと、これから」は、このプロジェクトが未来館で行ってきたこれまでの活動を振り返り、次の未来を描き出すイベントとなりました。その詳細はアーカイブ動画に譲るとして、このブログでは、イベントのなかでプロジェクトの研究者が発した言葉のうち私の印象に残っているものを起点に、イベントの様子をダイジェストでお届けしていきます。

約20種類ものメディアテクノロジーが勢ぞろいした展示会場の様子。

トークイベントの映像はこちらからご覧いただけます。

「もっと簡単に、手軽に、壊れても直せたり、交換できるくらいでないと、みなさんに使っていただくのは難しい」

南澤先生がまだ学生だった2007年に開発したデバイス「グラビティ・グラバー」は、指先につけた装置によって、空の箱のなかにまるで何かが入っているかのような感覚を生み出すことができます。会場では、開発当時と同じレトロなパソコンを使いながら来館者に体験していただきました。

「グラビティ・グラバー」。親指と人差し指の先につけた青と赤の装置によって、箱のなかにあたかもモノがあるかのような感覚が生み出されます。

このデバイスは、2010年に未来館で開催された特別展「ドラえもんの科学みらい展」にも展示されました。研究者トークではその裏話があったのですが、なんと展示を開始して20分くらいでデバイスのコードがちぎれるというハプニングが起こったとのこと。体験した子どもがつい楽しくなって、デバイスを思いっきり動かしたことで、コードがちぎれてしまったんだそうです。このような予想外の経験を経て南澤先生は、「研究でつくったものを社会のなかで多くの人に使ってもらうためには、いかに壊れにくいものをつくるかが大事」ということに気づき、それが新たなデバイスを生むことにもつながっていきました。そして生まれたデバイスの1つが「テクタイルツールキット」。簡単に触覚を伝えられ、壊れにくく、もし壊れても簡単に直せるこのデバイスは、研究室でつくったデバイスがすぐ壊れてしまうという経験があったからこそ生み出された、研究成果を「みなさんに使っていただく」ためのデバイスだといえるでしょう。

「テクタイルツールキット」。緑色の紙コップの振動が白色の紙コップに伝わるため、緑色の紙コップにビー玉や砂利を入れた感覚を白色の紙コップで感じることができます。

「たまたま未来館に来て、たまたま展示会を見て」

会場ではほかにも、タップダンスの足踏みとシンクロして床やクッションがふるえる「からだタップ」も体験してもらいました。このデバイスが生まれたきっかけは、一言でいうと「たまたま」だったのだそうです。

「からだタップ」。モニターに映っているタップダンサーが刻むリズムを、小さな丸い台に乗ると感じとることができます。

およそ11年前、手話をしながらタップダンスをするパフォーマー「しゅわップring」が「たまたま」未来館を訪れました。そのとき「たまたま」未来館に展示していたのが、南澤先生やプロジェクトメンバーの柴崎美奈先生が携わっていたメディアラボ第14期展示「まず! ふれてみよ – テニトルセカイ ツナグミライ」です。視覚や聴覚だけでなく、手や全身の触覚をつかったコミュニケーションが体験できるこの展示は、その当時しゅわップringのメンバーだったろう・難聴の方にとってわかりやすかったよう。そのとき「たまたま」館内の研究エリアに南澤先生や柴崎先生がいらしたのですぐにお連れし、「いっしょに何か作れないか?」という話を先生方に持ちかけたことでコラボレーションが始まりました。その結果として生み出されたのが、足踏みの音が聞こえなくても振動でリズムを感じられる「からだタップ」だったというわけです。

2015年11月29日、12月6日に実施したイベント「からだタップ -からだで感じるタップダンス!」。黄緑色の服を着たしゅわップringのパフォーマーが立っている床の振動が、来館者が座っている椅子やクッションに伝わります。

未来館の中に研究室があるからこそ、来館者が研究室に行っていっしょに新たなデバイスを生み出すことも、そうして生み出されたデバイスをほかの来館者に体験してもらうこともできる。こういったかたちでのコラボレーションは未来館のほかではなかなか生まれにくく、「未来館にラボ(研究室)を持つ価値を改めて感じた」と南澤先生は語ります。

「このアイデアおもしろいね」

会場では、「あったらいいな、こんな『未来のメディアテクノロジー』」と題したワークシートを配付し、来館者が思い描くメディアテクノロジーを絵に描いてもらう取り組みを行いました。イベント終了後、壁一面に貼られたワークシートを見ているプロジェクトの研究者に、「描かれた絵にコメントをいただけますか?」と伝えて付箋を渡したところ、絵を眺めながら「この発想はおもしろいね」「こんなこともできそうだね」など、さまざまなアイデアが自然と飛び交っていました。

ワークシートを眺めながら自然と話に花が咲く、プロジェクトの研究者。

しばらくすると、絵にたくさんの付箋が貼られていました。たとえば、「遠くにいる人が食べた物、飲んだものを一緒に体験できる!」と書かれたワークシートには、南澤先生から「はなれていても一緒に食事ができると、心はつながったままでいられますね! 宇宙食と組み合わせれば、宇宙でも色々な食事を楽しめそう!」というコメントがついていました。「ここから宇宙というアイデアが出てくるのか!?」と私自身驚きましたが、こういった柔軟な発想から生まれるアイデアが次の研究を生むタネになることでしょう。

ワークシートに貼られた付箋の数々。来館者が思い描いたアイデアは、きちんと研究者のもとに届いています。

私自身これまで、このプロジェクトと何度もイベントを行ってきましたが、このように来館者の声を受けて研究のアイデアをふくらませる場面が数多くありました。さまざまな背景や経験を持つ来館者とふれあえることもまた、「みなさんに使っていただく」デバイスを生み出そうとしているプロジェクトにとって、「未来館にラボを持つ価値」なのかもしれません。

「特別なものじゃなくなっていくというのが、まさに未来になったということ」

ここまで研究者のさまざまな言葉を起点にイベントの様子をお届けしてきました。最後に、私が一番印象に残った言葉でこのブログを締めくくります。見出しにあるこの言葉は、研究者トークの最後に南澤先生からあったお話の一節です。

 

このプロジェクトが始まった10年以上前には、まだ私たちになじみのあるものではなかった触覚の技術。それが今では画面に合わせて振動するスマートフォンやゲーム機などさまざまなところに使われていて、私たちはそれを何の違和感もなく受け取っています。このように、新しい技術は「特別なもの」から始まり、それが社会のなかに溶け込んでいった未来では「ふつうのもの」へと変わっていくのです。そしてそのような変化を促しているのは、「特別なもの」を生み出した研究者だけというわけではなく、「特別なもの」にふれた私たちもだと、私は思います。展示開始20分でコードを引きちぎった子ども、偶然の出会いから新しいデバイスを共創したパフォーマー、「特別なもの」にふれて思ったことを研究者に伝えたり、ワークシートで未来のメディアテクノロジーを想像した来館者……。一つ一つは小さなできごとかもしれませんが、それが積み重なっていくことで、「特別なもの」が「ふつうのもの」へと変わり、未来が創造されていくことでしょう。

研究者トークで「未来のメディアテクノロジー」のアイデアをふくらませている、南澤先生(中央)と柴崎先生(左)。右は筆者。

南澤先生は現在、さまざまな企業とコラボレーションしながら、メディアテクノロジーを使って人の経験を共有したり、お互いの障害や違いを乗り越えたりしていける社会の仕組みづくりに取り組んでいます。まだ「特別なもの」のように思えるこのような社会の仕組みも、みなさんとの関わり合いのなかでいつか「ふつうのもの」になるのかもしれません。

 

身体性メディアのこれからに注目しつつ、自分にできるやり方で未来づくりに関わっていきたいと、イベントを振り返ったいま、私は考えています。

「身体性メディア」プロジェクトのさまざまな取り組みについては、こちらもご覧ください。

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科「身体性メディア」プロジェクト https://www.embodiedmedia.org/

内閣府 ムーンショット型研究開発制度 目標1「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」 Project Cybernetic being https://cybernetic-being.org

関連リンク

  • ソウゾウしよう! 未来のメディアテクノロジー ~身体性メディアの、これまでと、これから https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202511304317.html
  • 身体性メディアプロジェクト「Cyber Living Lab」 https://www.miraikan.jst.go.jp/lab/facilities/CyberLivingLab/


Author
執筆: 加藤 昂英(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、研究者との共同イベントやノーベル賞関連イベントの設計や実践などを担当。多様な人の意見を研究者に届け、ともに未来をつくっていくための取り組みを、人文・社会科学やデザインの知見も取り入れながら模索中。

【プロフィル】
高校でベンゼンという物質に一目惚れし、大学、大学院ではベンゼンが連なった物質の研究を行っていました。その傍らで科学コミュニケーションの実践活動も行い、「いま、ここにいる人にとっての、科学とのより良いかかわり方」という課題意識を追究するなかで未来館へ。化学、言語学、デザイン、日本酒、旅行、アイドル……などなど、学問も趣味も興味が広がってしまうタイプです。

【分野・キーワード】
物理有機化学、科学コミュニケーション論