現代のハイテク産業、とりわけ脱炭素社会の象徴である電気自動車(EV)や風力発電においてレアアース(希土類)は、“産業のビタミン”として欠かせない戦略物資だ。

この資源を巡り、長らく世界は中国という巨大な供給源に依存してきた。しかし、地政学的な緊張が高まる2026年現在、その独占的な状況を打破する要のひとつとして、東南アジアのマレーシアがかつてない注目を浴びている。

日本や米国といった先進民主主義諸国、そして独占的な状況を維持したい中国は、なぜマレーシアを重視するのか。その理由は、単なる資源の埋蔵量にとどまらず、重層的な地政学的戦略に集約される。

まず、マレーシアがきわめて特異な地位を占める最大の要因は、中国以外で世界最大級のレアアース精錬拠点をすでに保有しているという事実である。

レアアースの供給網は、採掘、分離・精製、磁石への加工という段階を経るが、特に環境負荷の高い分離・精製の工程は、長年中国が世界のシェアをほぼ独占してきた。この中流工程の独占こそが中国の強力な外交カードとなってきたわけだが、オーストラリアのライナス(Lynas Rare Earths)がマレーシアのパハン州クアンタンに建設した精錬所は、その構図を根底から変える存在となった。

日本はこの重要性にいち早く着目。2010年代のレアアース危機以降、政府系機関のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などを通じて、同社を金融面で支え続けてきた。日本にとってマレーシアは、中国による意図的な輸出規制というチョークポイントを回避するための、事実上の生命線なのだ。

次に、マレーシア国内で台頭する資源ナショナリズムと、それを利用しようとする大国の思惑が交錯している点が見逃せない。

マレーシアのアンワル政権は、単なる未加工鉱石の輸出を禁じ、国内での精錬や磁石製造といった高付加価値産業の育成を目指す「マイン・トゥ・マグネット」(鉱山から磁石まで)戦略を鮮明に打ち出している。マレーシア国内には、最先端技術に欠かせない重希土類(ジスプロシウムやテルビウム)を含む、イオン吸着型鉱床が豊富に存在することが判明しており、これが各国の食指を動かしている。

中国は、自国が誇る世界最高水準の精製技術を供与することでマレーシアを自らの経済圏に引き戻そうと画策し、一方で日本や米国は、環境への配慮と技術移転をセットにした投資を提示することで、マレーシアを自由で開かれたインド太平洋の供給網につなぎ止めようとしている。

地政学的観点から見れば、マレーシアはマラッカ海峡という世界の海上交通の要衝を管理する国でもある。エネルギーや資源の運搬路(シーレーン)の防衛という観点からも、この地にレアアースの加工拠点が集積することは、日本にとって供給網の強靭化を意味する。

もしマレーシアの資源戦略が中国の影響を強く受けることになれば、東南アジアにおける西側の経済安保体制は根底から崩れかねない。そのため、日本は環境汚染への懸念を払拭する廃棄物処理技術の提供など、中国には真似できない質の高いインフラ投資を武器に、マレーシアとの戦略的パートナーシップを深めているのだ。