花粉症に悩まされる人は2人に1人との報告もあり、今や「国民病」とも言われる。そうした中、大気汚染物質である微小粒子状物質「PM2.5」に含まれるスズがスギ花粉症などのアレルギー性鼻炎の症状を悪化させる可能性があると名古屋大学などの研究グループが発表した。花粉症の人の鼻の中のスズの濃度は症状のない人の約3~4倍高く、スズが鼻腔(びくう)内に滞留することが症状悪化に関係している可能性があるという。
名古屋大学大学院医学系研究科の加藤昌志教授、田崎啓講師のほか、福井大学、名古屋市立大学も参加した研究グループによると、直径2.5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル以下のPM2.5にはスズが含まれる。加藤教授らは既に、同じく大気汚染物質である鉛がアレルギー性鼻炎の症状を悪化させると発表している。今回研究グループは、スズとの関係を明らかにするために、スギ花粉の飛散期に症状を訴えた44人と症状がない人57人の鼻腔内洗浄液のスズ濃度を調べた。
その結果、症状がある人の中のスズ濃度はそうでない人の3~4倍高かった。研究グループは次にアレルギー性鼻炎のモデルマウスを使った実験を行い、花粉症の人の鼻腔内量に匹敵する量のスズをマウスの鼻腔に投与したところ、マウスのアレルギー症状は悪化した。
さらに実際の飛散環境と同等量のスズをPM2.5に類似したエアロゾルにスズを含ませてモデルマウスに吸入させた。すると、鼻炎マウスの鼻腔にはアレルギーのないマウスの鼻腔より2~3倍多い量のスズが蓄積していた。アレルギー性鼻炎になるとPM2.5が鼻腔内で捉えられて多く蓄積することを示しているという。
研究グループはまた、マウスの病理組織の化学的解析と「元素イメージング」と呼ばれる分析法を組み合わせた研究を進めた結果、 鼻炎症状があるモデルマウスは鼻腔の粘液成分のムチンという物質が増加し、スズとムチンが67%という高い率で鼻腔内の同じ場所に存在した。そしてスズに曝露(ばくろ)することでムチンの産生が増えることも分った。
大気汚染物質がスギ花粉症を悪化する可能性は指摘されていたが、詳しい解明メカニズムは分っていなかった。加藤教授らは、スギ花粉でアレルギー性鼻炎の症状が出た個体がPM2.5由来のスズに曝露すると、アレルギー反応で増加したムチンがスズをつかまえて鼻腔内に長く滞留させる。そして滞留したスズがさらに症状を悪化させるという一連の悪循環のメカニズムが明らかになったとしている。
研究成果は2025年12月2日付で国際学術雑誌「アレルギー」にオンライン掲載された。
環境省と厚生労働省によると、個人差はかなりあるものの数年から数十年かけて繰り返し花粉を浴び、体内の花粉を異物(抗原)と認識した抗体の量が増加する。するとくしゃみや鼻水、目のかゆみといった花粉症症状が出る。症状がひどい場合の治療法は内服薬や点鼻薬、点眼薬などの対症療法のほか、スギ花粉に含まれる成分を含む薬剤を定期的に投与するアレルゲン免疫療法と呼ばれる方法もある。
スギ花粉は2~4月に多く飛散する。環境省の2025年12月の発表によると、毎年春に飛散するスギ花粉の量は前年の秋のスギ雄花の着花量で予測できる。着花量はスギの木が1年で付ける花粉の袋量で、25年度秋の着花量の調査では、北海道から山形、静岡、愛知、京都、大阪、奈良、鳥取、徳島までの9道府県で着花量は過去10年の平均値の2倍以上だったという。
政府は「発症等対策」「発生源対策」「飛散対策」を花粉症対策の3本柱にしている。このうち発生源対策では2033年度ごろにスギ人工林を約2割減少させる対策を進めている。
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