岡山大学、名古屋大学(名大)、広島大学、京都大学(京大)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の5者は3月2日、タンタル、パラジウム、セレンで構成される「半金属」(セミメタル)でありながら極めて高い熱電性能を示す準一次元物質「Ta2PdSe6」において、電子と「プラズモン」(電子の集団的な振動)が結合した新しい準粒子状態「プラズモニックポーラロン」を初めて直接観測することに成功したと共同で発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院 先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所)の大槻太毅准教授、名大大学院 理学研究科の中埜彰俊助教(現・同・大学院 工学研究科 講師)、同・寺崎一郎教授、京大大学院 人間・環境学研究科の吉田鉄平教授、広島大大学院 先進理工系科学研究科の長谷川巧准教授、同・大学 放射光科学研究所の有田将司技術専門職員、KEK 物質構造科学研究所の堀場弘司准教授(現・量子科学技術研究開発機構(QST) 上席研究員)、同・北村未歩助教(現・QST 主任研究員)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の量子材料を扱う学術誌「npj Quantum Materials」に掲載された。
「プラズモニックポーラロン」を初めて直接観測
我々が利用するエネルギーを100%動力に変えることは極めて困難であり、現代の技術ではほぼ不可能といっていい。たとえば、自動車のガソリンエンジンは140年に及ぶ長い開発の歴史があるが、依然として燃焼エネルギーの半分以上が廃熱として大気中に逃げてしまっている。多くの家電に搭載されているモーターは比較的効率はいいものの、掃除機がその好例であるように、長時間の稼働や高回転によって熱を帯びる。これもまた廃熱であり、エネルギーをロスしている証拠にほかならない。
もし、こうした廃熱を再び電気に変換できれば、世界のエネルギー効率が劇的に向上し、環境負荷を減らすことにつながる。その廃熱を直接電気に変換できる技術が「熱電発電」であり、それを可能とする材料が「熱電素材」である。
しかし、優れた熱電素材を生み出すのは容易ではない。なぜなら、よく電気を流す材料ほど熱から電気を生み出しにくいというジレンマがあるからだ。高い電気伝導度と大きな「熱起電力」(温度差に比例した電圧が生じる現象)はトレードオフの関係にあり、両方を兼ね備えた材料の開発は長年の大きな課題となっている。
そうした中、長年にわたり熱電材料の候補としては適していないと考えられてきたのが“半金属”だ。半金属は、電気をよく流す金属と、一方向に流す半導体の中間的な性質を持つ物質であり、電気を運ぶキャリアとして、マイナスの電化を運ぶ電子に加え、電子の抜けた穴でありプラスの電荷を運ぶ準粒子の「正孔」も最初から持つ特殊な構造を特徴とする。このため、熱電発電で電子と空孔が同じ方向に動いてプラスとマイナスで打ち消し合ってしまうことから、半金属は熱電性能が小さいとされてきた経緯がある。
しかしそれに対し、発想の転換を図ったのが研究チームだ。半金属は電気伝導度が高いという利点を持つことから、電子状態さえうまく制御できれば、大きな熱起電力を生み出せるという点に注目。半金属でありながら高い熱電性能を示す物質「Ta2PdSe4」の詳細な分析を行ったという。
今回の研究では、放射光施設を用いて、電子の動きを直接観測できる「角度分解光電子分光」(ARPES)が実施された。その結果、一般的な半金属における電子と正孔の動きやすさは同程度だが、Ta2PdSe4では軽くて動きやすい正孔と、動きにくく散乱されやすい電子という明確な違いがあることが確認されたのである。さらに、電子が周囲の電荷の揺れと結びついた特殊な状態「プラズモニックポーラロン」が電子キャリアにのみ働くことも発見された。このプラズモニックポーラロンの形成が、電子の動きを抑制する主因となっていたのだ。
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ARPESにより観測されたバンド分散。カラースケールの強さは、そのエネルギー・運動量にいる電子が、光電子として検出された頻度を表す。(上)正孔バンドは明瞭で線幅が狭く、軽い有効質量と長い準粒子寿命を持つ。(下)電子バンドは顕著に線幅が広く、強い散乱を受けている(中央)。バンド分散をより明確にするため、強度が最大となるエネルギーと運動量をプロットした図(右)。両キャリアの性質が大きく異なる点が、Ta2PdSe4の重要な特徴である。(出所:岡山大プレスリリースPDF)
今回の研究により、半金属は熱電材料に不向きであるという従来の常識を覆し、電子と正孔の振る舞い方の違いである「電子状態の非対称性」を生み出す相互作用を活用することで、熱電変換の高効率化が可能であることが示された。これは、これまで見過ごされてきた半金属や低次元物質を新たな熱電材料として再評価する指針を与えるものとする。今後、低温で高効率に動作する次世代熱電材料の開発や、エネルギー利用効率の向上に貢献することが期待されるとしている。
