宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、IHIと共同で、航空機用ターボファンエンジン「F7」を使ったSAF(持続可能な航空燃料)の燃焼試験を実施。その排気中に含まれる“すす”などの詳細な計測に成功した。
昨今注目を集めている「SAF」は、国際民間航空機関(ICAO)が目標に掲げる“2050年の国際線航空機によるCO2排出実質ゼロ”に向けた有力な手段として期待されている。しかし、航空機が気候に与える影響は、CO2だけではない。
たとえば飛行機雲は、航空機が排出する“すす”などが生成にかかわっているとされるが、これらは「地球が太陽から受け取るエネルギー量」と「地球から宇宙に放出されるエネルギー量」のバランス(放射収支)に影響する可能性があると指摘されている。
これまで、SAF使用時に排出される「非CO2排出特性」(例:すすの粒子径分布・粒子数密度)に関する日本国内で得られたデータは限られており、気候影響を解明するため、基盤的な実験データの取得が課題となっていた。今回のJAXAとIHIによる研究では、飛行機雲などを通じてSAFが気候に与える影響の基盤的な実験データを取得し、この分野における計測ノウハウも獲得できたとしている。
JAXAとIHIによる共同研究の成果の詳細は、「第65回航空原動機・宇宙推進講演会」(会期:3月9〜11日、主催:日本航空宇宙学会)で報告される予定だ。
JAXA・IHIによる共同研究の詳細
JAXAとIHIは共同で、100%SAFと混合SAF、従来ジェット燃料(JetA-1)を用いた試験を2025年9月から10月にかけて実施。国内で前例の少ない、実機エンジンでの非CO2排出特性計測に成功した。また、100%SAF使用時の燃焼排気における粒子径分布や粒子数密度などの詳細な計測と分析も行った。
使用したSAFの詳細は以下の通り。
100%SAF(Neat SAF)
世界最大規模の国際標準・規格設置機関、ASTMインターナショナル(旧・米国試験材料協会)によって定められた、HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)と呼ばれる廃食油・獣脂・非可食植物油などの脂肪酸エステルを水素化処理することで製造された航空燃料のこと。今回は、三井物産エネルギーを通じて、海外サプライヤーから購入したものを使っている。
混合SAF
従来ジェット燃料と、HEFAにより製造したNeat SAFを混合した航空燃料のこと。今回の試験では、前者約70%、後者約30%の混合割合で、商用として販売されている航空燃料を利用しており、伊藤忠商事を通じて、海外サプライヤーから購入したものを使っている。
今回の試験で使った「F7-10」(F7)エンジンは、防衛装備庁(旧 防衛省技術研究本部)によって固定翼哨戒機「P-1」用に開発され、IHIによって設計・製造されている純国産ターボファンエンジン。哨戒機に求められる長時間飛行を実現するため、低燃費特性を高めながら騒音を抑え、民間旅客機でも広く使われる高バイパス比エンジンとして開発されたものだ。2016年12月14日には、防衛装備庁とIHIとの間で、JAXAへの販売を可能とする契約が締結されている。
試験における運転条件は以下の通りで、燃料種別による比較試験を実施している。
- 総運転時間:約42時間(総始動回数41回)
- 100%SAF:約16時間(始動回数18回)
- 混合SAF:約15時間(始動回数11回)
- 従来ジェット燃料:約11時間(始動回数12回)
分析結果は、先行研究で報告されている傾向とおおむね整合し、従来ジェット燃料と比べて、SAF燃焼時のすす排出を低減させる効果を示したという。JAXAでは「この計測・分析結果は、飛行機雲の生成特性や、その気候影響評価に向けた基礎的な理解に寄与するとともに、より一層のSAF導入に向け社会的な意義を持つ可能性がある」とコメントしている。
SAFによるすす低減効果は、燃料の化学組成やエンジンの特性に依存することが知られている。この研究成果についてはJAXAは、あくまで特定の条件下での実証結果であり、気候影響への定量的な評価や一般化については今後さらなるデータ蓄積と研究が必要とも指摘している。



