日本沿岸に生息するアカエイに複数の種が存在していることを、長崎大学の研究グループが突き止めた。このうち、九州の有明海で見つかった「アリアケアカエイ」を新種として記載した。江戸時代の後期、ドイツ出身の医師で博物学者のシーボルトらが日本各地で採集したアカエイが記載されて以来、長い間、同一種であると見なされてきたが、20年を超える地道な調査・分析によって分類を改訂した。

  • alt

    海を泳ぐアカエイ。アリアケアカエイが泳ぐ姿は未だ撮影できていないという(長崎大学提供)

長崎大学水産学部の山口敦子教授(魚類学・水産資源学)は、エイの生態を長く研究してきた。有明海にはアカエイとシロエイが生息していて、両者は体表の手触りや裏側の色などが異なる。20年ほど前、両者の中間的な特徴を持つエイの存在に気づいたという。

山口教授は当初、このエイはアカエイとシロエイが交雑したものだと考えていた。ただ、体内の酵素を詳しく分析したところ、交雑種とは明らかに違っていたことなどから、「これは雑種ではないのでは」と思うようになった。

ただ、エイには分類の目印となる特徴が少なく、専門家でも判別が難しい。山口教授が「アカエイの分類を調べている」とベテランの研究者に話したところ、「難しいから手を出さない方がいい」とアドバイスされたほどだ。それでも研究室に配属された学生とともに研究を続け、アカエイとは異なる特徴を持つエイが有明海にいることが分かった。2010年、これに「アリアケアカエイ」という和名をつけたが、学名をつけて新種として記載するにはまだデータが足りなかった。

山口教授は2013年、オランダのライデンにあるナチュラリス生物多様性センターに保管されているアカエイの標本を調査した。シーボルトらが日本各地で採集し、1841年にアカエイ(学名ヘミトリゴン アカエイ)として記載された6つと、その後の調査で追加された1つだ。7つの標本は同一種と見なされ、シーボルトが長崎で採集したもの(標本の写真a)が記載の基準である「タイプ標本」に指定されている。

  • alt

    標本の写真。アカエイとしてオランダで保管されてきた7つの標本。同一種と考えられてきたが、新種のアリアケアカエイなど少なくとも3種が混在しているという(長崎大学提供)

7つの標本の細かい形態などを詳しく調べた結果、そのうちの1つ(写真b)が「ヘミトリゴン アカエイ」の特徴を持たないことがわかった。この標本とタイプ標本(写真a)はいずれも長崎沖で採れた幼魚で、全体的な見た目はそっくりだが、異なる種である疑いが濃厚になった。

また、残りの5個体ははく製なので種を特定することはできなかったものの、やはり「ヘミトリゴン アカエイ」とは異なる種が混じっていると考えられた。同一種とされてきた7つの標本には、少なくとも3種が混在しているという。

その後、山口教授らは「ヘミトリゴン アカエイ」のタイプ標本(写真a)と一致するエイを探し、有明海をはじめ日本各地の海で様々な種類のエイを採集。成長に伴って現れる体表の色や手触りなどの特徴の違い、オスとメスで異なる点などを細かく観察して記録した。

  • alt

    アカエイ(左)とアリアケアカエイ。地元の漁師も違いに気が付かないほどそっくりだが、細かく分析すると違いがある(長崎大学提供)

これらの研究から、タイプ標本の「ヘミトリゴン アカエイ」と有明海を含む日本沿岸に広く生息するアカエイが同一種であることを改めて確認した。また、アリアケアカエイという和名を付けたエイが「ヘミトリゴン アカエイ」と異なることがDNA解析などで裏付けられ、「ヘミトリゴン アリアケンシス」の学名で新種として記載し、学術誌に掲載された。

山口教授は「10年近くにわたって、成魚や(まだ種の特徴が十分に発現していない)幼魚を調べ続けた。アカエイとアリアケアカエイはよく似ているものの、成長の過程で異なる特徴を示すというのが分かり、今回の研究成果につながった」と振り返る。

アリアケアカエイはアカエイと違って、尾の裏にあるヒダが黒く、縁は白色をしており、腹側の5番目の鰓孔(さいこう)と呼ばれる穴の近くに横溝がある。こうした特徴から両者を正確に区別できるようになったことで、それぞれの生態や分布、資源量評価などを精密に実施することが可能となり、食卓にのぼる水産資源の維持や管理にもつながるほか、生物多様性の保全にも役立つという。

  • alt

    アカエイとアリアケアカエイの尾にある特徴の違い。細く白い縁取りの有無で見分ける(長崎大学提供)

例えば、近年、食用二枚貝の漁獲量が減っているのはナルトビエイなどによる食害のせいだとして、エイが駆除対象になっている地域もある。ナルトビエイは絶滅が危ぶまれるほど減少している。山口教授は「ナルトビエイは確かに貝を食べるが、水産資源となる貝をどれほど食べているのかは明らかになっていない。事実、エイを捕獲しても貝の漁獲量は増えていない」と、食害を断定するには科学的根拠が必要だと訴える。

山口教授は今回とは別の研究で、有明海に300種類以上の魚がいることを明らかにし、どの生き物がどのように捕食されているのかを示す生態系モデルを構築している。こうしたモデルをつくり、種と種の間の関係を定量的に評価するためにも、今回のように種を正しく記載して分類することは重要だという。

「海の環境と水産資源の持続性を考えるとき、温暖化に議論が集中する一方で、水産資源を守るためにサメやエイといった捕食者を駆除することが推奨される。しかし、食物連鎖の頂点あるいは高次捕食者であるエイやサメを駆除しても、貝やノリといった人間が食べる魚介類の漁獲量が増えるわけではない。複雑な食物網で成り立つ生態系に、捕食者がいることでバランスが保たれている。生態系モデルは、特定の種を増減させるといった部分的な介入だけでは生態系全体を望ましい状態に維持できないことを教えてくれる」。山口教授は、そう強調している。

研究は環境再生保全機構の環境研究総合推進費、文部科学省と日本学術振興会の科学研究費助成事業等によって進められた。成果は日本魚類学会の英文誌「イクチオロジカル リサーチ」電子版に2025年12月19日に掲載され、同25日に長崎大学が発表した。

関連記事

アザラシ、ひげで水流を捉えて魚を探す 極地研など解明