筑波大学とアサヒ飲料の両者は2月20日、無糖の強炭酸水を飲みながら3時間のeスポーツを行った結果、真水摂取時より疲労感が抑制され、楽しさが向上することに加え、認知疲労に伴う判断力の低下や瞳孔径の縮小、さらにはプレイ中のファウルも抑えられることが確認されたと共同で発表した。

同成果は、筑波大 体育系の松井崇准教授、同・大学 体育科学学位プログラムの髙橋史穏大学院生、アサヒ飲料 研究開発本部 研究開発戦略の安本賢治部長らの共同研究チームによるもの。詳細は、人とコンピュータの相互作用と、心理・行動への影響を探る学術誌「Computers in Human Behavior Reports」に掲載された。

デジタルデバイスの長時間利用に伴う脳疲労の検知や回復、予防については、実用的かつ安全な方策がまだ整っていない。学習や仕事、ゲームといった座位での集中活動が増える現代において、パフォーマンスと健康を両立させるための指針が強く求められている。

デジタルデバイスの長時間利用の代表例がeスポーツだ。ビデオゲームを用いて勝敗を競うこの競技は、若年層を中心に急普及しており、国内でも多くの大会が開催されるようになった。

eスポーツでは注意や判断、不要な反応を抑える「抑制制御」といった実行機能を高水準で持続させることが勝敗に直結する。しかし、プレイの長時間化により認知疲労が生じやすい上に、その対策としてカフェインや糖分を含む飲料に依存しがちな点が課題となっていた。これらは一時的な覚醒効果はあるものの、日常的な過剰摂取は健康面の懸念が生じる。

そこで最近、糖分やカフェインを含まない炭酸水が注目されている。炭酸水は咽頭への刺激を通じ、脳の覚醒を支える神経活動を喚起する可能性が示唆されていた。代謝負荷を増やさずに認知疲労を軽減できると考えた研究チームは、強炭酸水の摂取が長時間のeスポーツに伴う認知疲労を軽減するという仮説を立て、真水との比較によって主観指標や実行機能、生体反応、ゲーム内行動の変化を検証したという。

今回の研究では、eスポーツの題材としてバーチャルサッカーが用いられた。長時間プレイにおける認知疲労を軽減するという仮説のもと、認知疲労の主観指標(疲労感)や客観指標(実行機能)、脳活動の間接指標である瞳孔径の変化(瞳孔収縮)などが着目された。

解析対象は、日常的にゲームをライトにプレイする若年成人カジュアルプレイヤー14人(22.9±2.4歳、女性1名含む)。参加者は、強炭酸水または真水を摂取しながらバーチャルサッカーを3時間プレイするセッションを、別々の日に2回実施した。

  • 実験プロトコル

    実験プロトコル。参加者は、真水または強炭酸水を飲用しながらバーチャルサッカーを3時間プレイし、1時間ごとに主観評価と実行機能評価を受けた。プレイ中は瞳孔径、心拍数、皮下間質液中の決闘値が連続測定された。(出所:筑波大プレスリリースPDF)

プレイ前を基準とし、プレイ後は1時間ごとに主観的疲労と楽しさを測る「VASスコア」と、実行機能を評価する「フランカー課題」が行われた。プレイ中は瞳孔径、心拍数、皮下間質液中の血糖値が連続測定された。なおフランカー課題とは、周囲の刺激に惑わされず、連続する矢印列の中央にある矢印の向きにできるだけ速く正確に反応する認知課題であり、不一致な刺激に対する反応遅れ(干渉時間)から抑制制御の能力を測定する。さらに、唾液中のコルチゾル濃度によるストレス評価に加え、ゲーム内のファウル回数や得点、シュート、パス、といったパフォーマンス指標も記録された。

その結果、強炭酸水を摂取した場合、真水に比べて主観的疲労感の増加が有意に抑えられ、楽しさが有意に高まることが判明した。また、強炭酸水条件ではフランカー課題における判断の速さと正確さの低下が起こりにくく、長時間プレイ中の実行機能が維持されることがわかった。干渉時間は注意のコントロール能力を示す指標であり、強炭酸水がこの能力の低下を食い止めた形だ。

  • 強炭酸水摂取による主観指標の変化

    強炭酸水摂取による主観指標の変化。(A)疲労感VASスコアの変化量。(B)楽しさVASスコアの変化量。真水条件と比較して、強炭酸水条件では疲労感の増加が抑制され、楽しさが向上している。(出所:筑波大プレスリリースPDF)

  • 実行機能(フランカー課題)の結果

    実行機能(フランカー課題)の結果。(A)不一致刺激による反応の遅れ、(B)正答率。強炭酸水条件では判断速度と正確さの低下が起こりにくい傾向が示された。(出所:筑波大プレスリリースPDF)

瞳孔径については、真水条件では時間経過と共に収縮が認められたが、強炭酸水条件ではこの収縮が抑制された。瞳孔の縮小量とフランカー課題の判断の遅れには相関が認められたため、瞳孔収縮が認知疲労の客観的サインとなり得ることも裏付けられたという。

一方、血糖値と唾液コルチゾルは条件間で差がなく、過剰な代謝・内分泌反応を伴わずに覚醒を支える可能性が示されたとしている。特筆すべきはゲーム内行動の変化であり、強炭酸水条件ではファウル数が真水より有意に少なく、冷静なプレイが維持されていた。

  • 生体指標の推移

    生体指標の推移。(A)瞳孔径の変化量。(B)心拍数の推移。(C)皮下間質液中血糖値。(D)唾液コルチゾル濃度。強炭酸水は瞳孔の収縮を抑える一方で、糖分摂取やストレス反応の増大を伴わずに覚醒を支える可能性が示された。(出所:筑波大プレスリリースPDF)

  • 瞳孔径の変化量と判断の遅れ(干渉時間)の相関図

    瞳孔径の変化量と判断の遅れ(干渉時間)の相関図。が大きい。瞳孔径の変化量と、フランカー課題の判断の遅れの関係。(A)全データ、(B)真水のみ、(C)強炭酸水のみ。全体および真水条件では、瞳孔の縮小が大きいほど判断が遅れる負の相関が認められ、瞳孔収縮が認知疲労の客観的サインになることが確認された。(出所:筑波大プレスリリースPDF)

これらの結果から、長時間のeスポーツによる認知疲労に対し、強炭酸水の摂取が主観的な感覚、認知機能、生体指標、およびゲーム内行動のすべておいて改善効果を持つことが示された。これは、実行機能を維持し、フェアプレイを支援する、糖分やカフェインに頼らない安全で持続可能な脳疲労対策になると考えられるとした。

  • ゲーム内行動の比較

    ゲーム内行動の比較。(A)自チーム得点、(B)相手得点、(C)シュート数、(D)パス数、(E)インターセプト数、(F)ファウル数。強炭酸水条件ではファウル数が真水条件よりも少なかった。(出所:筑波大プレスリリースPDF)

研究チームは今後、産学連携の枠組みのもと、現場実装を見据えた検証と開発を加速させるという。具体的には、実際の練習環境や大会環境に近い条件での再現性検証に加え、摂取する量やタイミング、温度、頻度などの運用要素を体系的に検討し、競技現場への実装指針を整備するとした。

また、瞳孔径などの生体指標を用いた客観評価を組み合わせて脳疲労の兆候を早期に把握し、介入の効果を最大化する仕組み作りにも取り組むとした。個人差(体格、習慣、競技レベル、疲労感の出やすさ)も考慮し、eスポーツのみならず、学習や仕事といった幅広い長時間のデジタル活動にも応用可能な製品・サービス設計へと展開するという。これらを通じて、糖分やカフェインへの過度な依存を避けつつ、実用的で持続可能な戦略の社会実装を目指すとしている。