熊本大学は2月20日、北海道むかわ町穂別地区に分布する中生代後期の白亜紀カンパニアン紀中期(約8000万年前)の地層から産出した、エビやカニと同じ甲殻類に属する微小な節足動物「介形虫(かいけいちゅう)」の化石を調査した結果、1新属を含む6新種を発見したと発表し、その新属・新種は和名「ホベツシセレイス・オオタツメアイ」と命名したと発表した。

  • 「ホベツシセレイス・オオタツメアイ」の復元イメージ

    介形虫の新属・新種「ホベツシセレイス・オオタツメアイ」の復元イメージ。後方は、一緒に算出した二枚貝「イノセラムス科」の「スフェノセラムス・オリエンタリス」(Sphenoceramus orientalis)。(c) Takumi(出所:熊本大プレスリリースPDF)

同成果は、熊本大 くまもと水循環・減災研究教育センターの田中源吾准教授、北海道むかわ町穂別博物館の西村智弘学芸員の共同研究チームによるもの。詳細は、地球科学を扱う学術誌「Geological Journal」に掲載された。

介形虫の仲間は現在、極域から赤道域、深海から淡水域までの多様な環境に生息していることが知られている。最初期の化石は、古生代オルドビス紀最前期(約4億9000万年前)の地層から出土しており、これまでに約4万種が記載済みだ。また日本国内においては、新生代(約6600万年前~現在)のものが約900種知られていた。

また、日本の介形虫に関しては古生代(約5億3880万年前~約2億5200万年前)の研究も進んでいるが、新生代と古生代の間に位置する中生代(約2億5200万年前~約6600万年前)からは化石の発見例が少なく、これまでは北九州および北海道穂別地域から極めて少数が報告されるにとどまっていた。

北九州のものは白亜紀(約1億4310万年前~約6600万年前)の淡水性の介形虫で、中国大陸や韓半島の種と共通するものが多く、当時の日本がアジア大陸の一部だったことを示す証拠とされる。一方、穂別地域で報告された介形虫化石は、主に微化石の「有孔虫(ゆうこうちゅう)」を抽出した残渣に含まれていたわずかな個体だった。また、これまでに国内のみならず、西太平洋においても中生代の浅海層からは新種の介形虫化石は発見されていなかった。

そこで研究チームは2010年、北海道の白亜紀系の地層から西太平洋の浅海性介形虫化石群を明らかにする目的で、むかわ町穂別地域の野外地質調査を行ったという。

収集した約3kgの試料を調査した結果、651個体の介形虫化石が抽出され、文献による詳細な分類学的検討の結果として、1新属を含む6新種が発見された。これらの標本は、一緒に産出した二枚貝「イノセラムス科」の年代指標に基づき、白亜紀後期の「カンパニアン期」(約8360万年前~約7220万年前)の中期に由来することが見出された。

  • 新たに記載された白亜紀の介形虫6新種の電子顕微鏡像

    今回新たに記載された白亜紀の介形虫6新種の電子顕微鏡像。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

化石の1点は、蝶番の特徴からトラキレべリス科に含まれると考えられるものの、殻に見られる腹縁に沿って顕著な直線縁が発達している点や、尾突起が発達していない点、側方から観察した時に2列の節が腹縁と平行に走っている点など、既存のトラキレべリス科のどの属にも見られない独自の形態的特徴を有することが確認された。そこで新属・新種として、学術名「Hobetsucythereis ohtatsumei gen. et sp. nov.」と命名された。

  • 「ホベツシセレイス・オオタツメアイ」の電子顕微鏡像

    介形虫の新属・新種「ホベツシセレイス・オオタツメアイ」の電子顕微鏡像。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

また和名の「ホベツシセレイス・オオタツメアイ」は、まず属名のホベツシセレイスは、トラキレべリス科の一種で近縁な白亜紀のシセレイスに産出地の穂別が関せられたものだ。種名のオオタツメアイは、穂別地域の地質調査を精密に行った故・大立目謙一郎教授に因んでいるとした

この他に発見された5新種の和名と学術名(カッコ内)は、「シセレラ・エゾエンシス」(Cytherella yezoensis sp. nov.)、「シセレロイデア・ヘトナイエンシス」(Cytherelloidea hetonaiensis sp. nov.)、「ハプロシセリデア・マエダアイ」(Haplocytheridea maedai sp. nov.)、「シセレイス・ホッカイドエンシス」(Cythereis hokkaidoensis sp. nov.)、「シセレイス・キムン」(Cythereis kimun sp. nov.)とされた。

ホベツシセレイス・オオタツメアイの眼の相対直径を指標とした解析により、当時のむかわ町穂別に分布する中部カンパニアン階函淵層堆積時の古水深が150±20mと推定された。さらに、海底の垂直光の減衰係数も0.108±0.018と算出された。この値は、大西洋沿岸域、北極域、および南大西洋の表層海洋の栄養豊かな高生産域の値に匹敵するという。

世界27地域の群集データを対象としたクラスター分析により、カンパニアン期の介形虫群集は5つの地域(A~E)に。さらに地域Bは3つの亜地域(Ba~Bc)、地域Cは2つの亜地域(CaとCb)に区分された。このうち、東アフリカの赤道付近の群集を代表する地域Aは、高い固有性を示し、カンパニアン期の介形虫群のホットスポットが示唆されたとする。

亜地域Bbは、アフリカ大陸の北岸と南岸に分布するゴンドワナ群集に相当し、亜地域Baはインド亜大陸、イラン、北アメリカ南岸に分布している。亜地域CaとCbはテチス海北部の沿岸に分布し、亜地域Dはオーストラリア、亜地域Eは高緯度の太平洋岸に分布していることが判明。北海道はこの地域Eに属していたと推定される。

  • カンパニアン期の浅海性介形虫の古生物地理区

    カンパニアン期の浅海性介形虫の古生物地理区。北海道は地域Eとして示されている。黒矢印は当時の海流、白枠は大河川による地理的障壁が示されている。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

大半の亜地域は、一般的に深海や大河川によって区切られた、明確な生物地理学的地域が形成されている。今回の研究では、新属・新種の介形虫の発見により、当時の海の深さや環境まで推測することに成功した。今後、これらの生物地理学的地域を理解するため、古地理や古気候学的なデータと共にさらに深く考察する必要があるとしている。