ソフトバンクは通信事業者として世界で初めて、産業用ネットワークの無線化に向けた取り組みのひとつである、「TSN over 5G」技術の接続実証に成功したと発表。5Gネットワーク上で産業用機器が動作することも確認しており、産業分野への5G展開を加速するとアピールしている。

  • 時刻同期評価の構成図

    時刻同期評価の構成図

今回の取り組みは、ソフトバンクと村田製作所、CC-Link協会(CLPA)の3者によるもの。産業用機器で求められる、高精度な時刻同期を可能にする「Time-Sensitive Networking」(TSN)を5Gネットワーク上で実現するTSN over 5Gの接続実証を行い、成功に導いた。

実証はラボ環境で実施され、3GPPで定義されている誤差900ナノ秒(1ナノ秒=10億分の1秒)以下の要求水準に対し、誤差平均122ナノ秒という高精度な時刻同期を5Gネットワーク上で達成。また、CLPAが認証する産業用イーサネット規格「CC-Link IE TSN」のClass Bの仕様に準拠した産業用機器が、5Gネットワーク上で動作することを確認したという。

ソフトバンクはこの成果について、「これまで有線ネットワークが前提とされてきた産業用機器の制御において、5Gを用いた無線化の実現に向けた重要な一歩」と強調している。実証の成果は、スペイン・バルセロナで現地時間3月2〜5日まで開催されるイベント「MWC Barcelona 2026」のMurata Electronics Europe B.V.のブースで展示予定だ。

  • 産業用機器の接続構成図

    産業用機器の接続構成図

工場などの製造現場では、高精度な時刻同期によって複数の機器を正確なタイミングで動作させることが欠かせない。CLPAが認証を行うCC-Link IE TSNにおいても、Class Bは高精度な時刻同期による高いリアルタイム性と、通信の遅延のばらつき(ジッター)の低減による確定性が求められることから、有線ネットワークを前提とした運用が行われている。

一方で、産業用ネットワークの無線化については、設備の柔軟なレイアウト変更や保守性の向上といった観点から期待が高まっている。5Gネットワーク上で、高精度に時刻同期させるTSNを実現するための仕様として、TSN over 5Gが3GPP Rel.16において標準化されたこともあり、有線ネットワークに近いリアルタイム性と確定性を備えた産業用5Gネットワークの構築が求められてきた。

今回の実証では、スタンドアローン構成のプライベート5Gを用いて、ラボ内にTSN over 5G環境を構築し、誤差平均122nsという高い精度で時刻同期が実現できることを確認。

これは、TSN over 5Gで用いられる時刻同期プロトコル「gPTP」(generalized Precision Time Protocol)に基づき、「DS-TT」(Device-Side TSN Translator)と接続する端末側と、「NW-TT」(Network-Side TSN Translator)と接続するネットワーク側の機器の間で時刻差を計測した結果だという。

また、工場内の設備を想定して、実際の産業用機器を用いたエンド・ツー・エンドの制御環境も検証。機器制御に求められるCC-Link IE TSNのClass Bの仕様に基づき、1マイクロ秒(100万分の1秒)以下の精度で時刻同期を保ちつつ、6時間超の連続通信に成功した。

検証環境は、CC-Link IE TSNに対応した入出力制御用ユニット(リモートI/Oユニット)とPLC(制御装置)を5Gネットワーク経由で接続し、PLCからの制御信号がスイッチや表示灯(LED)などの入出力機器へリアルタイムに伝送される構成としたものだという。

上記の実証では、TSN over 5Gにより、3GPPの要求水準を満たす高精度な時刻同期と、CC-Link IE TSNのClass Bの要求水準を満たす機器の制御が可能なことが確認できたとしている。

各者の役割は以下の通り。

  • ソフトバンク:TSN over 5G対応環境の提供(gNB、UE、UPFなど)
  • 村田製作所:DS-TTとNW-TTの提供
  • CLPA:産業用機器の提供、通信内容、産業用機器の動作確認

今回の成果は、産業用ネットワークの無線化だけでなく、AI(人工知能)がロボットや設備と連携し、正確なタイミングで制御することが可能になるため、「フィジカルAI」(ロボットのセンサーやカメラ、外部のシステムから得た情報をAIが解析・判断し、その結果に基づいてロボットが柔軟で複雑な動きを行えるようにする技術)の実現に向けた基盤技術としても重要な意味を持つ。フィジカルAIの実現には、高いリアルタイム性と確定性を備えた通信基盤が欠かせないため、TSN over 5Gはその中核を担う技術として期待される。

ソフトバンクと村田製作所、CLPAの3者は今後、この実証で得られた知見を生かし、5Gを活用した新たな産業用途の創出やフィジカルAIの社会実装に向けた取り組みを進めていく。

ソフトバンク 先端技術研究所 湧川隆次所長のコメント

今回の実証は、これまで有線ネットワークが前提とされてきた産業用機器の制御領域において、5Gの活用の可能性を広げる重要な成果です。ソフトバンクは今後も先端技術の検証と社会実装を通して、産業分野の高度化やフィジカルAIの実現を支える通信基盤の確立に取り組んでいきます。

村田製作所 川島誠氏(執行役員)のコメント

今回の実証は、村田製作所がこれまで培ってきた通信領域の知見を生かし、ソフトウエア技術でTSNに貢献するチャレンジングな取り組みでした。このたび、ソフトバンクおよびCLPAとの協働により、成果が確認できたことに感謝します。村田製作所は高精度な時刻同期がインフラとして普及し、あらゆる機械・機器が協調的に動作する未来社会の実現に向けて、これからも挑戦していきます。

CLPA 事務局長 濱口学氏のコメント

CC-Link IE TSNとTSN over 5Gの連携により、製造業、物流業、農業などの各業界に大きな付加価値を提供できると考えており、早期の商用化に大きな期待を寄せています。