名古屋大学(名大)は2月19日、便秘は極めて一般的な消化器疾患でありながら詳細な発症メカニズムは未解明な部分が多かったが、特定の腸内細菌がタッグを組み、腸の内壁を保護する「腸管粘液(ムチン)」を過剰に分解することで発症させる仕組みを初めて解明し、新たな疾患概念として「細菌性便秘」を提唱したと発表した。
同成果は、名大 学術研究・産学官連携推進本部の浜口知成特任講師、同・大野欽司 名誉教授(現・名古屋学芸大学 教授)、宜保 内科 消化器・肝臓内科クリニックの宜保憲明医師、名大大学院 医学系研究科 消化器内科学の川嶋啓揮教授、東京大学大学院 医学系研究科 消化器内科学の藤城光弘教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、腸内細菌叢と宿主の健康・疾患における相互作用を扱う学術誌「Gut microbes」に掲載された。
排便回数の減少や硬い便を特徴とする便秘は、多くの人が経験するありふれた消化器疾患だ。その原因は従来、主に「腸の動き(蠕動運動)の低下」にあると考えられてきたが、腸の動きに異常が見られない原因不明の「慢性特発性便秘症」や、運動症状の異常が現れる数十年も前から便秘に悩まされるパーキンソン病患者において、なぜ便秘が起こるのか、その全容は謎に包まれていた。
そこで研究チームは今回、腸の内側を覆う粘性物質である腸管粘液に着目。この成分は、便の水分を保持して腸内を滑りやすくするだけでなく、腸壁を細菌から守るバリアの役割も担っている。この腸管粘液が、腸内細菌によって過剰に「食べられて(分解されて)」しまうことで、便秘が引き起こされるのではないかという仮説を立て、検証を行ったという。
今回の研究では、パーキンソン病患者231名、慢性特発性便秘症患者54名、健常者147名の便が解析された。その結果、便秘患者では「Akkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)」と「Bacteroides thetaiotaomicron(バクテロイデス・シータイオタオミクロン)」という2種類の腸管粘液分解菌が増加していることが突き止められた。
ただし、これらの細菌の増加が便秘の“原因”なのか、あるいは便秘になった“結果”としてこれらの細菌が増加したのかを判断する必要があったため、次に無菌マウスを用いた細菌の移植実験が実施された。その結果、いずれか一方の菌だけを定着させても便秘にはならなかったが、2種類の菌を同時に定着させると、マウスは便が硬くなり、回数も減るという便秘症状を発症することが確認された。
通常、大腸の腸管粘液は、硫酸基によって修飾されており、簡単には分解されない構造を持つ。詳細な解析の結果、まずB. thetaiotaomicronが、保有する「スルファターゼ(脱硫酸化酵素)」を使って硫酸基を外すことで腸管粘液の「バリア」を解除し、それを受けてA. muciniphilaが粘液を一気に分解するという「細菌同士の協調関係」が明らかにされた。つまり、一方が鍵を開け、もう一方が中身を食べるという役割分担がなされていたのである。
この協調作用により、便の保水力が失われて乾燥するだけでなく、腸管上皮を覆う粘液層が薄くなることでバリア機能が低下。その結果、腸内の物質が腸管外へ漏れ出しやすくなる「腸管壁侵漏(リーキーガット)」の状態が生じていることも解明された。
続いて、B. thetaiotaomicronの遺伝子を操作し、脱硫酸化能力(腸管粘液の鍵を開ける能力)を欠損させた株が作製された。これをA. muciniphilaと共にマウスへの定着させたところ、腸管粘液は分解されにくくなり、便秘症状および腸管バリア機能が改善した。これにより、細菌が持つスルファターゼの働きが便秘の直接的な原因であることが証明されたとした。
-

(左2点)腸管粘液分解菌の増加データ。controlは健常者、PDはパーキンソン病、CICは慢性特発性便秘症患者を示す。(右2点)マウスを用いた移植実験の結果。ASFは定着する細菌の種類を限定したノトバイオートマウス、B.t.はバクテロイデス・シータイオタオミクロンノトバイオートマウス、A.m.はアッカーマンシア・ムシニフィラノトバイオートマウスを示す。2種類の細菌が揃った時のみ便秘を発症している。(出所:名大プレスリリースPDF)
今回の研究により、腸の機能低下とは別に、腸内細菌が腸管粘液を減らすことで起こる「細菌性便秘」という新概念が確立された。この成果は、従来の下剤や消化管運動改善薬では十分な効果を得られなかった患者に対し、腸内細菌のスルファターゼの阻害や、特定の細菌数を制御するファージ療法といった、まったく新しいアプローチの治療薬開発につながる画期的な発見としている。
