大阪公立大学(大阪公大)と帝人は9月19日、漢方薬やハーブティーの素材に、認知症を予防し脳を若返らせる作用があることを発見したと共同で発表した。
同成果は、大阪公大大学院 医学研究科 老化・認知症制御学寄附講座の富山貴美特任教授、同教授が起業した大阪市立大学(大阪公大の前身の大学の1つ)発のベンチャーであるセレブロファーマ、帝人との共同研究チームによるもの。詳細は、3本の論文にまとめられ、1本目は老化や高齢期の疾患に関する全般を扱う学術誌「GeroScience」、2本目は栄養学に関する全般を扱う学術誌「Nutrients」、3本目は生物学と医学の全般を扱う学術誌「eLife」に掲載された。
認知症は「アミロイドβ」(Aβ)、「タウ」、「αシヌクレイン」などの異常なタンパク質が脳に蓄積することで神経細胞が変性してしまい、その結果として発症すると考えられている。神経細胞が死んでしまった後では、そうした異常タンパク質をどれだけ取り除いても効果はないため、神経細胞が元気なうちから予防する必要がある。予防は中高齢期から亡くなるまでの長期にわたるため、認知症の予防薬には安全・安価で、さまざまな原因タンパク質に作用でき、傷んだ神経細胞を修復できること、さらには中高齢者が自らの判断で購入・服用できることが望まれる。しかし、単一成分からなる医薬品でこれらの条件をすべてクリアするのは困難だという。
また近年では、認知症や糖尿病など、加齢に伴って発症率が高まる加齢性疾患の背景には、身体機能の衰え=老化があり、特に細胞の老化が病気の発症・進行に重要な役割を果たしていると考えられるようになってきたことから、老化現象を制御することで加齢性疾患を予防・治療する試みも始まっている。そこで研究チームは今回、多彩な成分からなる食品であれば、上述の条件をクリアし、老化を抑制できるのではないかと考察し、研究に着手することにしたとする。
今回の研究では、東洋の生薬や西洋のハーブなど、天然の素材から認知症への効果が期待できるものを探索することにしたという。漢方薬の素材である酸棗仁と石菖葉(通常は根茎が用いられるが、今回の研究では葉が採用された)、ハワイのハーブティーであるママキ葉が着目された。ママキについては、認知症予防食品を開発するために設立されたセレブロファーマ単独で、酸棗仁と石菖は帝人と共同でそれぞれ研究が開始された。
酸棗仁や石菖葉の熱水抽出物(エキス)が、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病・レビー小体型認知症のモデルマウスに投与された。すると、脳のAβ、タウ、αシヌクレイン病理が改善し、認知機能や運動機能が回復することが見出されたという。また、ママキ葉の熱水抽出物でも、種々の認知症モデルマウスにおいて脳の病理が改善し、認知機能が回復することが確認されたとした。
続いて、それらの効果をより強いものとするため、熱水抽出ではなく、単純に破砕しただけの粉末が作製され、その薬効がモデルマウスを用いて調べられた。その結果、酸棗仁の単純破砕粉末はエキスよりも強い脳病理改善効果、認知機能改善効果が示され、認知機能は正常マウスと同等かそれ以上のレベルにまで改善したという。また熱水抽出後の残渣にも、エキスと同程度の活性が残っていることが判明。単純破砕粉末の強い効果は、熱水抽出では回収できない、あるいは消失してしまう有効成分が存在することを示唆しているとした。
さらに、単純破砕粉末がエキスよりも強い効果を持つことは、石菖葉やママキ葉でも示されたとする。加えて、ママキ果実の単純破砕粉末は、ママキ葉のそれよりもさらに強い効果が示され、果実粉末を投与されたモデルマウスの認知機能は正常マウス以上のレベルにまで改善したという。
酸棗仁の単純破砕粉末が、モデルマウスの認知機能を正常マウス以上のレベルにまで回復させるという結果は、この食材が脳の病理を除去するだけでなく、脳の機能そのものを向上させている可能性が示唆されているとする。そこで、正常の老齢マウスに1か月間この試料を与え、認知機能と細胞老化の程度が若いマウスと比較された。その結果、単純破砕粉末は老齢マウスの細胞老化を抑制し、認知機能を若いマウスと同レベルにまで向上させることが確認された。さらに、傷んだ神経細胞の修復に働く脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現や、神経新生も増加させることが明らかにされたとした。
研究チームは今後、これらの食材が腸内細菌に与える影響や、老化の他の指標に与える影響およびその機序を解明すると共に、有効成分の同定も進めていきたいとしている。