フランスの打ち上げサービス事業者、アリアンスペースは2026年2月13日(日本時間)、新型主力ロケット「アリアン6」の4本ブースター仕様を初めて打ち上げた。
ロケットは南米仏領ギアナのギアナ宇宙センターから現地時間2月12日13時45分に離昇し、約114分後に米アマゾンの低軌道インターネット衛星「Amazon Leo」32機を分離して、打ち上げは成功した。
今回の成功により、欧州は大型衛星の打ち上げ能力を取り戻すとともに、多数の小型衛星を一度に投入するコンステレーションの打ち上げにも対応できる体制を整え、自立的な宇宙輸送における重要な節目を迎えた。
“最強形態”のアリアン64、Amazon衛星載せ宇宙へ
アリアン6(Ariane 6)は、欧州の主力ロケットであった「アリアン5」の後継として開発された新型ロケットだ。液体水素・液体酸素を推進薬とする第1段と、同じく液体水素・液体酸素を推進薬とし、再着火可能な上段エンジンを備える上段で構成し、離昇時には固体ロケットブースターで推力を補う。
欧州宇宙機関(ESA)が計画を統括し、機体の設計・製造はアリアングループが主契約者として担う。打ち上げサービス事業者のアリアンスペースは、ミッションの販売・契約と打ち上げ運用を担当する。
アリアン6には、固体ロケットブースター2本の“アリアン62”と、4本の“アリアン64”があり、ミッションに応じて使い分ける。打ち上げ能力は、アリアン62が低軌道へ約10.3t、静止トランスファー軌道(GTO)へ約4.5tなのに対し、アリアン64は低軌道へ約21.6t、GTOへ約11.5tと、いずれも2倍以上の打ち上げ能力を持つ。これにより、重い衛星の打ち上げや、複数衛星を一度に投入するミッションに対応できる。
衛星を覆うフェアリングは直径5.4mで、全長14mと20mの2種類を用意する。従来のアリアン5では全長12.7m、13.8m、17mなど複数の仕様が存在したが、アリアン6では全長14mと20mの2つに整理して標準化し、最大長を20mへ拡大。これにより大型の衛星や、小型衛星を多数搭載する打ち上げに対応できるようになっている。
アリアン62は2024年に初飛行し、これまでに5回の打ち上げ実績をもつ。アリアン64は今回が初飛行であり、全長20mのフェアリングも今回が初使用となる。
ESAは今回の打ち上げを通じて、ブースター4本の同時点火や、燃焼と第1段エンジンとの協調動作を確認できたとし、32機の衛星を展開して上段を安全に軌道離脱させた運用については、Amazon Leoのようなコンステレーション衛星の打ち上げに適した能力を示したとしている。
さらに、小型ロケット「ヴェガC」と中型衛星向けのアリアン62に加え、大型衛星向けの打ち上げ手段もそろったことで、欧州の自立的な宇宙輸送がより強固なものになったと強調する。
今回の打ち上げはまた、アリアン6にとって初の商業顧客向けミッションでもあった。今回のミッション番号はVA267で、Amazon側ではLE-01(Leo Europe 01)と呼ぶ。
搭載された32機のAmazon Leo衛星は、米Amazonが提供するブロードバンド・インターネット接続サービスのための衛星コンステレーションの一部だ。アリアンスペースはAmazonから、Amazon Leo衛星の打ち上げを計18回受注している。
ESAのヨーゼフ・アッシュバッハー長官は、「4本のブースターが離昇時に響かせる力強い轟音とともに、打ち上げ能力は2倍以上になりました。欧州はふたたび、あらゆる衛星をあらゆる軌道へ打ち上げる手段を取り戻しました」と述べた。
「本日の打ち上げで私たちのロケットの陣容はそろいましたが、これで立ち止まりません。将来に向けたアップグレードが進行中です」(同)
改良重ね輸送力増強。商業打ち上げで存在感高められるか
ESAは、アリアン6の次のステップとして、運用開始後も段階的な改良を重ねる「ブロックアップグレード」を進める。コスト低減と打ち上げ頻度の向上に加え、運用の信頼性を高める狙いがある。
まず、固体ロケットブースターのP120Cを、改良型の「P160C」に置き換える。P160CはP120Cより全長を約1m延長し、固体推進薬を14t以上多く搭載できる。この改良により、アリアン6とヴェガCの性能が約10%向上し、衛星コンステレーションの打ち上げ能力がさらに向上するとしている。また、年35本以上を生産できる量産体制の立ち上げも進んでいる。
また、ヴェガCの第1段にもアリアン6のブースターと同じP120Cが用いられており、これをP160Cに置き換えることで、ヴェガCの打ち上げ能力の向上も図る。
ESAは2025年4月24日、ギアナ宇宙センターにある固体ブースター試験設備(BEAP)でP160C認定用モーターの燃焼試験を実施した。その後、解析と審査を経て、地上認定審査を通過したとしている。
さらに、ギアナ宇宙センターの地上設備や支援施設についても、打ち上げ作業を支える設備群の維持・更新が進んでおり、より多くの打ち上げに対応できる体制を整えていく。
加えて、上段に追加するキックステージ「アストリス(ASTRIS)」の開発も進む。アストリスをオプションとして搭載して打ち上げることで、軌道間輸送をより柔軟にし、複数の衛星を異なる軌道へ投入することも可能になる。
アリアン64と全長20mフェアリングの初飛行が成功したことは、アリアン6の”最強形態”を実運用に乗せたという技術的な成果に加え、欧州の自立的な宇宙輸送の体制を強化されたことを示した。今後、P160Cをはじめとするブロックアップグレードが進めば、コンステレーション衛星の大量打ち上げから深宇宙探査まで、アリアン6の対応範囲はさらに広がるだろう。
一方、近年はスペースXの「ファルコン9」ロケットなど、低コストかつ高頻度の打ち上げを実現するロケットが台頭し、衛星打ち上げ市場の価格競争は厳しさを増している。さらに、アリアン6の開発と初飛行の遅れも重なって、2023年7月のアリアン5の退役後から2024年7月のアリアン6の初飛行まで、欧州の大型ロケットによる打ち上げが途絶えた時期も生じた。こうした事情もあり、欧州は商業打ち上げ市場でシェアを奪われつつある。
今後は、政府系ミッションを確保しつつ商業顧客を継続的に獲得できるかに加え、アリアン6の打ち上げ頻度とコスト競争力をどこまで高められるかが、シェア回復の鍵となる。
参考文献



