ラスベガスで開催された「CES 2026」とサンフランシスコで開催された「SPIE AR|VR|MR 2026」。この毎年1月に米国にて開催されている2つのイベントでは、コンシューマ市場に向けたARグラスの最新トレンドを見ることができ、2025年のイベントと比べて明確な潮流の変化が感じられた。
XR(AR/VR)の分野では、2024年から2025年はApple Vision Proに代表される没入型XRの話題が中心であり、ARグラスでもフルカラーのきれいな仮想映像がいつ見れるようになるのかといった開発競争の様相であった。一方、2026年の主役は 「軽量・常時装着型のAI/ARグラス」 である。展示の中心は、フル没入ではなく、必要な情報を、必要な時だけ、最小限に表示するという思想に基づき、ARの世界を早く広めていこうという現実解である。
中国勢は量で攻め、日米台は「解」を提示
CES 2026では、多くの中国系メーカーがメインの展示会場であるLVCC Central会場の目立つ場所で派手な展示を競い合う一方、日本・米国・台湾の企業は周辺に分散して、技術や製品のポイントを地道に訴えていた(図1)。
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図1:CES2026でのARグラス関連の代表的な出展企業。左側に並べた中国企業は、LVCC Central会場の目立つ場所でARグラスの体験デモを中心に派手な展示を繰り広げた。右側に並べた日本のCellidおよびTDK、台湾のGIS、米国のVuzixは、地味ではあるが技術や製品のポイントを訴求することでARの市場を着実に広めていこうという姿勢である (CES 2026会場にてテック・アンド・ビズ撮影)
CES 2026が示したARグラスの「現実解」
以下、今回の取材から、会場で見かけた代表的な出展企業をピックアップして、ARグラスの現在地をレポートする。
まず、日本のCellidである。ARグラスの開発・製造を手がける日本のスタートアップ企業であるCellidは、日本発の「普段掛けられるARグラス」の開発を推し進めている。
2026年春以降の量産・出荷を目指し、jig.jp社、およびデザインを担うボストンクラブ社と協業し「鯖江デザイン × ウェイブガイド × AIソフトウェア」を融合したARグラスについて、白神社長が熱く語ってくれた。
ポイントは、プラスチック製ウェイブガイドによる軽量・薄型設計、翻訳、テレプロンプトなどのAIアシスタント表示などがあり、日常利用前提のARグラスである。「FOVは30度前後で十分」「高解像・広視野は現時点では不要」「バッテリーと重量が最優先」という、現実的な設計思想を強調された。ARグラスは、「夢のデバイス」から「使える日用品」へと、確実にフェーズが変わりつつある。
Cellidが量産化を進める相手は台湾のGISである。GISは、これまでタッチパネルモジュールなどで成長してきたアッセンブリーメーカーであるが、今回のCESでの展示は、ARアッセンブリ企業への転換を目指し、AR Waveguide + Light Engin + 光学部材にフォーカスした「材料〜製造プロセス〜モジュール」まで垂直統合をアピールし、一連の部材や技術仕様を細かく展示していた。
米Vuzixは、いつもながらに着実な実績をベースにした手堅い内容を見せており、今回はOEM Waveguide Solutions(導光板+表示光学のプラットフォーム)を前面に押し出し、ARグラスメーカー/セットメーカー/Tier1との協業を強く意識した展示であった。
また、日本のTDKは、XRキーデバイス統合サプライヤーとしてのポジションを打ち出し、網膜直接投影型のARグラス開発品やMeta-Optic Mirror(レンズ内蔵フラットミラー)の技術アピールを行った。
一方、中国勢は多くの企業が出展しており、総じてLVCC Central会場の目立つ場所でARグラスの体験デモを中心に派手な展示を繰り広げた。代表例をいくつか紹介する。
Rokidが展示した 「Rokid Ai Glass」 は、CES 2026における象徴的な製品の一つだ。翻訳字幕、ナビゲーション、AIアシスタント可視化など、「見る必要がある時だけ、最小限に表示する」という割り切りで、電力・重量・社会的受容性のすべてを意識した設計になっている。
Mojieは、「Meta-Bounds」 というグローバルブランドでARグラスを“表示デバイス”ではなく、「眼鏡の延長」 として捉え、ライフスタイルやファッション文脈に接続しようとする姿勢が明確である。
Emdoorは、AI Display Glasses、AI Audio Glasses、AI Camera Glassesを幅広く展示し、ODM/OEMソリューション の立場から、「AIグラスを作りたい企業のための受け皿」 という立ち位置である。
没入型のARグラスでこの業界を引っ張っているXREALは、世界各地の展示会でARの視野に広がる大画面・高没入の映像をデモ体験する展示を繰り広げており、CESでも多くの参観客を集めていた。エンタメ用途としての完成度は高い。ブースの一画にはゲームブランドのROGとコラボした新機種「R1」も飾られていた。このR1も没入型のゲーミング用ARグラスであり、XREALの路線を継承しマイクロLEDを搭載して大画面の仮想映像を明るく見せている。
TCLは、RayNeoを「ARグラスの量産・商品群」として前面に出し、TV/ディスプレイ群と並ぶ“次世代体験デバイス”として展示デモを行っていた。RayNeo Air 4 Pro(“映像視聴・ゲーム用途”の量産モデル)は、「世界初のHDR10対応グラス」として発表され、もう一つのRayNeo X3 Pro(“本命AR”側のプラットフォーム)も並行して見せ、Airシリーズと「用途の棲み分け」を取った。
METAが旗を振るARの現在地、1億台の市場創出を後押しするAR Alliance
毎年1月後半には、サンフランシスコで「SPIE」が開催されている。SPIEは光学関連の巨大なイベントである。SPIE Photonics Westを中心にSPIE AR|VR|MRなど多くの分野において、国際会議での技術発表と展示が行われている。さらに、SPIE AR|VR|MRではこの分野に関わる世界中の企業が登壇するMain Stageがあり、その冒頭でMETAがPlenary講演を行った(図2)。
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図2:SPIE AR|VR|MR 2026のMain Stage Plenaryで講演するMETA Display and OpticsのVice President, Jason Hartlove氏と講演のメッセージ。ARディスプレイのコストを100ドルにできれば、ARグラス1億台の市場を得ることが出来る。中央の数値4は視力補正(D:ディオプター)を意味しており、±4Dの視力補正対応で「度付きメガネユーザー」を取り込むための光学設計が必要であるとのメッセージ (SPIE AR|VR|MR 2026Main Stage会場でテック・アンド・ビズが撮影)
METAのJason Hartlove氏は、ARグラスの市場・ビジネス視点のポイントから、「100ドルディスプレイ」が分水嶺になると指摘した。昨年までは、業界各社が高性能化を競い合い、高精細・高輝度のマイクロLEDディスプレイや広視野角のウェーブガイドなどの開発をアピールしていたが、結果的にコストも高くなり市場に受け入れられるには至っていない。
同氏の提案は、100ドルのコストで成立させる「最小ディスプレイ仕様」を示し、「超高性能」ではなく「量産可能な最低条件」を明確に定義した点が最大の特徴。そのために、産業構造・ロードマップ作成のメッセージを発信した。
過去の半導体産業、ディスプレイ産業の成長の成功体験をAR業界でも再現するために装置・材料・デバイス全体が協力し、コストを下げ、市場を拡大していく段階に来た。そのために「AR Alliance」がAR表示に特化した“横断ロードマップ”をクリアにして「ディスプレイ・光学・半導体・材料・システム」を束ねるハブになるべき、という明確な提言である。この提言がARの爆発的な普及につながる起爆剤になることを期待する。