東北大学は2月10日、米国航空宇宙局(NASA)の木星探査機「Juno(ジュノー)」が撮影した木星の紫外線オーロラの画像データを解析し、地球からの観測では惑星同士の位置関係の制約により一部しか捉えられなかった、木星を取り囲む高密度な「プラズマトーラス」を360度全方位からカバーすることで、その歪んだ構造を正確に特定することに成功したと発表した。
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ジュノーの紫外線分光装置「Juno-UVS」が捉えた木星の南半球の紫外線オーロラ。イオのオーロラフットプリントは、同衛星の真の位置を示す磁気フットプリントから経度方向にずれており、今回の研究では、この経度差(リード角)が測定された。(出所:東北大プレスリリースPDF)
同成果は、東北大大学院 理学研究科 附属惑星プラズマ・大気研究センターの佐藤晋之祐大学院生、同・土屋史紀教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する惑星科学を扱う学術誌「The Planeatry Science Journal」に掲載された。
木星の衛星「イオ」は、4大衛星(ガリレオ衛星)の中で最も内側を公転しており、太陽系で最も火山活動が活発な天体として知られる。その理由は、木星と他の3つのガリレオ衛星から受ける重力の潮汐加熱により、衛星内部が激しく加熱されているためだ。この火山活動により、イオには二酸化硫黄を主成分とする極めて希薄な大気が存在し、それが宇宙空間へと流出することで、イオの公転軌道に沿ってドーナツ状の「プラズマトーラス」が形成されている。
プラズマトーラスは、木星磁気圏における多様な物理現象を駆動するエネルギー源であり、エウロパやガニメデといった氷衛星を取り巻く環境とも密接に関係しているため、その空間構造の把握は極めて重要だ。このプラズマの環は約10時間という高速で回転しており、本来は真円に近い形状を維持するはずだが、実際には木星周囲の朝夕電場による電磁力の影響を受け、形状が歪んでいることが知られていた。
これまでも、地上望遠鏡による高解像度観測などで歪みの調査が行われてきたが、地球と木星の位置関係という物理的な制約が壁となっていた。具体的には、歪みの向きが「木星の朝(6時)-夕(18時)方向」であると仮定せざるを得ず、真の向きについては不確定な要素が残されていたのである。そこで研究チームは今回、ジュノーの観測データを用いることで、視覚の制約を受けることなくプラズマトーラスの歪みの真の向きを決定することを目指したという。
今回の研究では、2016年から2022年にかけてジュノーの紫外線分光装置「Juno-UVS」が取得した木星紫外線オーロラの画像データセットを用い、「イオフットプリントオーロラ」の位置が測定された。「フットプリント」とは、文字通り足跡を意味する。イオの移動に連動し、その電磁気的な痕跡が遥か下の木星極域の紫外線オーロラに描き出される様子が、あたかもイオが歩いた足跡のように見えることからそう呼ばれている。
この発光の仕組みは、巨大な発電機として機能するイオが、プラズマトーラスと衝突した際に生じるエネルギー塊「アルヴェン波」が、磁力線に沿って木星へと伝わり、最終的に極域で木星大気に電子を注入することで発生する。衛星の真の位置に対応する「磁気フットプリント」に対し、オーロラとして光る足跡は「リード角」と呼ばれる経度差を伴って広報から追いかける形だ。このリード角の大きさは、プラズマトーラスの質量(フラックスチューブ質量柱密度)に依存することが理論的に判明している。
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フラックスチューブ質量柱密度とアルヴェン波の伝播の関係。質量柱密度が大きい場合、アルヴェン波の伝播が遅くなるため、フットプリントのリード角は大きくなる。この物理的特性を利用し、プラズマトーラスの歪みが検出された。(出所:東北大プレスリリースPDF)
研究チームは今回、ジュノーが捉えたオーロラの足跡の位置をシミュレーションで再現し、実測値と最も合致するフラックスチューブ質量柱密度を算出した。プラズマトーラスが真円であれば、この値は常に一定量となるはずだが、歪みがある場合はその形状に沿って数値が変動する。つまり、リード角の変化を長期間にわたって統計解析することで、プラズマトーラスがどの方向に、どれほどゆがんでいるのかを同時に導き出すことが可能になる。この手法は地上観測とは異なり、プラズマトーラスを360度全方位でカバーしているため、向きに関する制約を完全に排除できる利点がある。
そして解析の結果、フラックスチューブ質量柱密度が地方時3時42分に最大、15時42分に最小になることが判明した。これは、プラズマトーラスが地方時3時42分~15時42分方向(決定誤差±53分)に歪んでいることを示している。また、歪みの原因とされる朝夕電場の電磁力も同様の方向に働くことが裏付けられた。さらに、先行研究と比較したところ、この歪みの方向は不変ではなく、長期的な時間スケールで変動している可能性も浮上した。
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(a)算出されたフラックスチューブ質量柱密度の地方時依存性。地方時3時42分で最大値を示し、構造の歪みが反映されている。(b)プラズマトーラスを真上(北)から俯瞰した図。真円を基準とした歪みの向きと量が示されている。なお、歪みの量は、見やすさのため実際の大きさの3倍に拡大されている。(出所:東北大プレスリリースPDF)
今回の研究で確立されたフラックスチューブ質量柱密度の計測手法は、従来技術の制約を克服し、プラズマトーラスの空間構造に新たな光を当てるものだ。この製菓はイオのみならず、将来の探査計画においても、エウロパやガニメデといった氷衛星が周囲のプラズマ環境からどのような影響を受けているのかを解明する鍵となる可能性があるとした。さらに今後は、2023年12月に運用を終えたJAXAの惑星専用の紫外線分光観測衛星「ひさき」の観測データなどと組み合わせることで、木星磁気圏のダイナミックな変動をより詳細に解明することが期待されるとしている。