東北大学は2月9日、粗い機械研磨によりステンレス鋼の耐食性が低下する要因を詳細に解析した結果、従来から指摘されていた保護膜「不働態皮膜」の厚さの不均一化だけではなく、不純物である「硫化マンガン(MnS)介在物」の変形や鋼中への埋没といった形態変化が最も重要な要因であることを解明したと発表した。

同成果は、東北大大学院 工学研究科の王思奇大学院生、同・西本昌史助教、同・武藤泉教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料の劣化を扱う学術誌「npj Materials Degradation」に掲載された。

耐食性に優れたステンレス鋼は、鉄(Fe)に約11%以上のクロム(Cr)を添加した合金であり、用途に応じてニッケル(Ni)なども加えられる。幅広い分野で活用されているものの、海水などの塩化物イオン濃度が高い環境下では、材料の一部に腐食が集中し、短時間で貫通や破断などの損傷をもたらす危険な「孔食」が発生する可能性があることが課題だ。

ステンレス鋼の耐孔食性は、表面に形成される厚さ数nmほどの薄い酸化皮膜である不働態皮膜の性質や、鋼中に存在する不純物である介在物の状態に大きく左右される。不働態皮膜は材料表面を保護して耐食性を維持する重要な役割を担う一方、介在物は腐食の起点になりやすい性質を持つ。

実用上、ステンレス鋼には平滑化や美観性・清浄性の向上のための機械研磨などによる表面加工が施されるが、研磨後の表面が粗いほど耐孔食性は低下する。この現象は、主に不動態皮膜の組成や膜厚の変化が原因だと議論されてきたが、介在物の特性変化まで含めて系統的に解析した例は限られていた。そこで研究チームは、代表的な「Type304ステンレス鋼(Fe-18%Cr-8%Ni合金)」を対象に、粗い機械研磨による耐孔食性劣化の真の要因解明に取り組んだという。

まず、塩化ナトリウム水溶液中で粗い研磨を施した試料の孔食発生位置を調査したところ、孔食はMnS介在物と研磨傷が交差する箇所で集中的に発生することが見出された。MnS介在物とは、製造工程で微量に添加されるマンガン(Mn)と、除去しきれなかった硫黄(S)が結合して生じる不純物粒子である。

対照的に、MnS介在物が存在しない領域では、粗い研磨を施しても不働態皮膜は破壊されず、孔食も発生しなかった。これらの結果は、粗い研磨による耐孔食性低下が、不働態皮膜の特性変化のみでは説明できず、介在物の存在が不可欠であることを示唆している。

そこで、MnS介在物と研磨傷の重複が孔食を誘発する詳細なメカニズムを探るため、不働態皮膜およびMnS介在物の特性に着目した詳細な解析が行われた。その結果、不働態皮膜では顕著な組成変化は見られなかったものの、研磨の影響で膜厚が不均一になっていることが確かめられたとした。

一方、MnS介在物は、粗い研磨により亀裂や変形が生じるほか、鋼中へ部分的に埋没するといった劇的な形態変化を起こしていた。マイクロスケールの電気化学特性解析を用いた調査では、こうした変形したMnS介在物において、特異的に孔食が進行しやすくなることが明らかにされた。

  • 平滑なステンレス鋼表面のMnS介在物および粗い機械研磨を施したステンレス鋼表面のMnS介在物の走査型電子顕微鏡画像および元素マップ

    (a)平滑なステンレス鋼表面のMnS介在物の走査型電子顕微鏡画像と、エネルギー分散型X線分光法による元素マップ。(b)粗い機械研磨を施したステンレス鋼表面のMnS介在物の走査型電子顕微鏡画像および元素マップ。研磨によりMnS介在物が変形し、一部にき裂や鋼中への埋没が生じている。また、研磨傷とMnS介在物が交差箇所で孔食が観察された。(出所:東北大プレスリリースPDF)

従来、機械研磨後の表面の粗さと耐食性の相関は経験的に知られていたが、その物理的メカニズムは未解明だった。今回の研究は、不働態皮膜の不均一化とMnS介在物の損傷という2つの側面から耐孔食性低下の主要因が特定された。これにより、不働態皮膜改質だけでなく、MnS介在物の無害化を目的とした研磨後の化学処理などが、耐孔食性の維持に極めて有効であることが示された。今回の成果は、研削加工が必須となる化学プラントや医療機器など、ステンレス鋼製品の耐食性および信頼性の向上に貢献することが期待されるとしている。