京都大学(京大)は2月6日、太陽表面の爆発現象である「フレア」などの太陽活動が、地球電離圏に電子数密度の変動(電離圏擾乱)を与えるほど大きい場合、地震発生そのものを促す可能性があることを示す、新たな「静電結合モデル」を提案したと発表した。
同成果は、京大 情報学研究科の梅野健教授、同・水野彰研究員、同・高明慧技術補佐員らの研究チームによるもの。詳細は、日本静電気学会が海外の静電気学会の協力を得て刊行する英文学術誌「International Journal of Plasma Environmental Science and Technology」に掲載された。
2024・2025年の地震と太陽フレアの関係を解析
太陽表面で発生する爆発現象であるフレアには、その規模に応じてA、B、C、M、Xの5つのクラスがあり、最高ランクのXクラスでは、放出エネルギーの大きさを数値化して「X28」のように表記する。Mクラス以上で要注意、Xクラスは大規模なため厳重な警戒が必要とされる。
大規模なフレアに伴い「コロナ質量放出」と呼ばれる大量の荷電粒子の放出現象が発生する場合がある。それが地球を直撃すると、磁気嵐による通信障害や人工衛星の故障、地上で大規模停電といった深刻な被害をもたらす恐れがある。現代文明は衛星インフラに深く依存しているため、宇宙の状態を監視する「宇宙天気予報」の重要性が近年高まっている。
太陽の活動には11年の周期があり、2026年は第25太陽周期の活動極大期にある。そのため、1~2年ほど前から大規模なフレアの発生が増えており、そうしたフレアの発生直後には、大型の地震が発生する事例が確認されている。日本においては、2024年1月1日早朝に大規模なXクラスのフレアが発生した同日の夕刻(日本時間)に、マグニチュード(M)7.6の能登半島地震が発生した。また、2025年12月8日には、午後2時ごろにXクラスのフレアが発生し、同日の深夜(日本時間)にM7.5の青森県東方沖地震が発生している。これら2つのフレアと地震は偶然なのか、それとも物理的な因果関係があるのかという疑問に答えるため、今回の研究を進めたとする。
太陽フレア発生と地震発生の統計的な関連性は以前より指摘されていたが、そのメカニズムは未解明だった。また、大規模地震の前には、高度約60~1000kmに広がる電離圏において、電子密度の増加や高度低下などの異常が観測されることも知られていた。しかし逆に、これらの電離圏異常がどのような物理過程で地震と関係しているのかについては、問題設定すらされておらず、長年未解明のままだった。
従来は、「地震準備活動が電離圏に影響を与える」という一方向の因果関係が主に前兆現象の物理的メカニズムという視点で議論されてきた。しかし、宇宙天気の1つの代表的な現象であるフレアなどによって誘起された電離圏擾乱が、逆に地震発生へ影響を及ぼす「逆向きの因果関係」の可能性については、明確な物理モデルが存在していなかったとする。そこで研究チームは今回、そのメカニズムの構築を試みたという。
今回の研究では、地殻内に存在する破砕帯が、高温・高圧条件下で液体と気体の性質を併せ持つ「超臨界水」を含むことで、天然のコンデンサとして機能し、地表および電離圏の大規模コンデンサと静電的に結合しているとする「容量結合モデル」が基礎とされた。このモデルは、電離圏・地表・地殻内の各コンデンサが直列接続していることと等価であり、通常のコンデンサと同じく電気の擾乱の影響は地殻にも影響を与えることができ、電離圏と地殻との間に因果関係の双方向性を持つとする。
またこのモデルによると、電離圏に負の電荷が集中した場合、その影響が地殻内部に伝わり、ナノメートルサイズの空隙(ボイド)に強い電場と電気的圧力が生じる。数値評価の結果、この圧力は地殻破壊を促進し得る大きさに達することが示されたとした。
この物理モデルにより、前出の2つのフレアと地震の関係においては、偶然フレアの後に地震が発生したのではなく、大規模なXクラスのフレアに伴う電離圏電子数の急激な増加が、地震発生の「引き金」として作用し得る因果関係(フレア→地震の時間の順序に注意)が存在する可能性があることが、初めて理論的に示された。
今回の研究は、地震発生の電離圏由来の物理的発生機構を示すものであり、特定の地震を予知するものではないとする。また、すべてのフレアが地震を誘発するわけではなく、何らかの条件があることが従来の観測結果からも明らかにされている。ただし、これまではまったく関係がないと思われていた電離圏観測に基づく宇宙天気情報を地震研究に組み込むことで、地震発生リスクの理解や評価をさらに高度化できる可能性があるとした。
研究チームは今後、衛星ナビゲーションによる電離圏トモグラフィーの電子数密度の高度別変化や太陽活動データと組み合わせることで、地殻がどの程度「電気的に外力を受けているか」の因果関係や太陽フレアが地震を誘発する場合の物理条件を解明し、新たな指標の開発や、地震発生過程の統合的理解を目指すとしている。

