準天頂衛星システム「みちびき5号機」を載せたH3ロケット8号機の打ち上げ失敗について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月4日、文部科学省の宇宙開発利用部会(第102回)で原因調査の状況を報告。このなかで、H3ロケットの第1段エンジン/推進系には異常が見つかっていないことから、今年度内に固体ロケットブースターを使わない“30形態”の追加検証(燃焼試験)を実施する考えであることを明らかにした。
H3ロケット9号機の2025年度中の打ち上げは断念
JAXAの有田誠・H3プロジェクトマネージャは、2025年12月22日のH3ロケット8号機打ち上げ失敗以降、みちびき5号機の関係機関である内閣府や準天頂衛星システム戦略室、三菱電機などの協力も得て、全力で原因調査に取り組んでいるとしたうえで、これまでの状況を報告した。
今回は新たな追加報告はなく、以下は「何が起きたのか」のおさらいだ。
H3ロケット8号機はリフトオフ後、固体ロケットブースター(SRB-3)の燃焼終了、分離まで正常にシーケンスを進めていたが、衛星フェアリングの分離時に何らかの要因で衛星搭載構造の一部が損傷・破壊。第1段エンジンが燃焼中であったことから、この事象が起きた後もみちびき5号機を下から押し続けている状況で一体となって飛行継続したと推定している。
その後、第2段エンジンの着火によって、第2段機体と衛星との間に相対距離が生まれ、このタイミングでみちびきは脱落したものとJAXAでは見ている。しかし積み荷を失い、推進系に何らかの異常が生じたと推定される状態でありながら、第2段エンジンは1回目の燃焼を無事に終えていたことがデータから判明。異常事態でもロバスト性を十分発揮したことが判っている(なお2回目の燃焼は、推進系の不具合の影響を受けたとみられ、早期に停止してしまった)。
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H3ロケット8号機の飛行状況を簡素なイメージで表したもの。フェアリング分離時に発生した何らかの異常によって衛星搭載構造が損傷し、みちびき5号機は第1段と第2段の分離時に脱落したと見ている (C)JAXA
今回の説明会では、衛星フェアリングの分離時に何が起きたのか、衛星搭載構造はどうして損傷したのか、といった質問が委員各位から上がったが、JAXAでは引き続き調査・検討を慎重に進めているということで、原因の詳細については現時点で明らかにしていない。ちなみに、同じ22S形態(SRB-3×2本、ショートフェアリング)を採用した過去の機体のデータも改めて確認を行ったが、フェアリング分離で破壊的な問題が起きる兆候は見られず、8号機特有のものと考えているとのことだ。
いずれにしても、H3ロケット8号機打ち上げ失敗の原因究明に加え、後続号機への影響評価を継続する必要もあることから、残る「みちびき7号機」の打ち上げにはまだ進めない。
JAXAは、H3ロケット9号機による「みちびき7号機」の打ち上げを延期すると1月7日に発表していたが、2月3日になって「当初設定した打ち上げ予備期間である、2026年3月31日までの打ち上げは行わない」と発表。H3ロケット9号機の2025年度中の打ち上げを断念した。
なお、H3ロケット8号機打ち上げ失敗の原因調査の詳細については、大塚実氏によるこれまでのレポートもあわせて参照してほしい。
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- H3ロケット8号機はフェアリング分離時に異常発生か? JAXAが最新データ公表
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“30形態”試験機、再度の第1段燃焼試験へ。ふたつの対策を実施
2月4日の宇宙開発利用部会でのもうひとつの報告が、“30形態”の試験機であるH3ロケット6号機の1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)を今年度内に実施する、ということだ。
有田プロマネによれば、「8号機打ち上げ失敗の原因究明はまだ続いているが、これまでの飛行状況の分析から、フェアリング分離時に問題が起きた状況下でも、第1段エンジン/推進系は点火から燃焼終了まで正常に機能した」とみており、「(8号機打ち上げの)失敗の原因である可能性は考えられず、設計変更等の反映も不要」と評価している。
JAXAは、H3ロケットの開発計画の遅れを取り戻したい考えで、同機の打ち上げ再開までの期間を有効に利用することも考慮し、8号機打上げ失敗の原因究明と並行して、1段水素/酸素タンク加圧機能の追加検証を目的とした30形態の再CFTを今年度内に実施することに決めた。
JAXAでは、この30形態試験機の打ち上げに向けた開発試験の一環として、最初のCFTを2025年7月23〜24日にかけて種子島宇宙センターで実施済みだ。ただ、試験は計画通り終了したが、「エンジン燃焼後半になって、1段水素/酸素タンクの圧力が制御圧まで昇圧しなかった」という問題を確認したことが、9月29日に行われた宇宙開発利用部会(第99回)のなかで報告されている。
初回CFTで起きた事象は、30形態特有のコンフィギュレーションに起因するものということが判っている。30形態の第1段は固体ロケットブースターを使わず、3つのLE-9エンジンのみで離昇し飛行するが、エンジン3基の配管はすべて同じというわけではない。
具体的には、No.1、No.2エンジンはエンジンと各タンクをつなぐ加圧配管に加圧弁(バルブ)があって流量を調整できる(大流量/小流量を切り替えられる)のに対し、No.3エンジンからの系統には加圧ガス流量を切り替えるバルブがなく、常に小流量の加圧ガスを供給するという構成になっている。
このような構成のため、加圧ガス量の余裕が元々少なかったことに加え、加圧効率(※)がH3ロケットの22/24形態と比べて低くなったことが、1段水素/酸素タンク圧の昇圧が不足する事象の要因と特定されている。
※加圧効率:計算上の必要加圧ガス流量を、実際の加圧ガス流量で割った数値。1以上であれば少ないガス流量で加圧可能であることを意味する
初回CFTで確認した不具合に対し、JAXAでは取得データの詳細評価を踏まえ、下記2点を変更。再CFTでエンジン燃焼時のデータを取得し、その妥当性を検証することにしている。
1. タンク加圧ガス流量の増加
水素/酸素タンク共に加圧弁がないNo.3エンジン系統のオリフィス穴径(流路の一番狭められたところの穴径)を変更することで、タンクに供給する加圧ガス流量を増やす。
2. タンク圧制御計画の変更
水素タンクの制御圧力の値を、30形態専用に適正化することで、タンク圧制御に必要な加圧ガス流量を低減させる(従来は22/24形態と共通の値を用いていた)。なお、酸素タンクについてはオリフィス穴径の変更のみで対応できるため、タンク圧制御計画の対策については変更しない。





