東京大学(東大)は1月31日、「双対性」の手法を用いることで、これまでの理論では困難だった「非可逆対称性によって守られたトポロジカル相」の分類と、具体的な構成法を確立することに成功したと発表した。

  • 双対性がつなぐ新奇量子相と対称性の破れ

    双対変換により、非可逆対称性に守られたトロポジカル相(SPT相)、群対称性の自発的対称性の破れ(SSB)と対応することが示された模式図。(c)Image created by Cao, Yamazaki, Li using ChatGPT and Gemini(出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 理学系研究科 物理学専攻の山崎雅人教授(東大 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU) 特任教授兼任)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

現代物理学において「対称性」は、物質の状態を表す「相」を理解するための最も基本的な概念の1つとして理解されている。特に、「非可逆対称性によって守られたトポロジカル相」(SPT相)と呼ばれる物質群は、量子コンピュータなどへの応用も期待される注目の存在である。

そして「トポロジカル」とは、形状を破壊したり新たなパーツを追加したりしない限り、伸び縮みなどの変型をさせても変化しない性質を指す。位相幾何学(トポロジー)の世界では、穴が1つ開いたドーナツと、取っ手がある(穴が1つ開いている)コーヒーカップは、変型させることで相互に移行できるため「同じ形」と見なされる。対して、穴のないボールは、変型のみではドーナツやコーヒーカップにはできないので、トポロジカルに異なる状態とされる。

トポロジーは元々数学から始まった学問だが、これが物理学の「相」の概念に導入されたことで、不純物や微細な歪みに影響されない「図形的な構造によって守られた究極にタフな性質」が明らかにされた。中でもSPT相は、特定の対称性を保っている限り、その量子的な性質(トポロジカルな性質)が変化しない物質の状態を指す。この相は、エッジ(境界)に特徴的な状態が現れることが知られており、その代表例が、内部(バルク部分)は電気を通さない絶縁体でありながら、表面や端などは電気を通すトポロジカル物質というわけである。

近年、群論で記述される従来の対称性を拡張した「一般化された対称性」の研究が進んでおり、中でも逆操作が存在しない「非可逆対称性」が注目されている。しかし、非可逆対称性は従来の群の対称性に比べて構造が複雑であり、それによって守られるトポロジカル相(非可逆SPT相)をどのように分類し、理解するのかは未解決の難問だった。そこで研究チームは今回、異なる物理系を数学的につなぐ「双対性」に着目したという。

双対性とは、一見するとまったく異なる物理系や理論が、ある変換を通すことで、実は数学的に等価な関係にあることを指す。今回の研究では、双対変換を行うことで、SPT相が「従来の群対称性が自発的に破れている相」(SSB相)と一対一の対応にあることが突き止められたとした。

この双対変換は、1990年代初頭に田崎晴明氏らにより発見された手法を一般化したものだ。この変換により得られる「自発的対称性の破れ」(SSB)は、磁石の性質などを説明する、物理学で古くから理解されている現象の一種である。今回の研究は、「Rep(D8)」と呼ばれる近年注目を集めている非可逆対称性の代表例において、双対性の辞書を用いることで、難解な非可逆SPT相の分類問題を、既知のSSB相の分類問題へと“翻訳”することに成功したとする。

具体的な成果としてまず挙げられるのが、任意の次元での分類だ。任意の時空次元において、「Rep(D8)型」のSPT相の分類が与えられた。これにより、これまで知られていなかった新しい量子相の存在が予言された。また、空間1次元および2次元において、これらの新しい相を実現する具体的な格子模型が構成されたほか、構成した模型の境界(エッジ)に現れる特異な量子状態の解析により、非可逆対称性に特有の物理現象を明らかにした。

今回の研究は、近年爆発的に研究が進む「非可逆対称性」を持つ物質相に対し、物理的かつ直観的な理解を与えるものとする。双対性を用いる今回の手法は極めて強力であり、今後、非可逆対称性を持つさらに多様な量子相の発見や、その性質の解明に応用されることが期待されるとした。また、今回の研究で構成された模型は、将来的な量子シミュレーションや、トポロジカルな性質を利用した量子デバイスの設計や量子計算のリソース状態としての利用など、量子技術への応用にも理論的な示唆を与える重要な成果としている。