量子の基本が学べる指針「量子リテラシー標準(QSS-L)ver.1.0」を発表

一般社団法人量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)は、多くのビジネスパーソンが、量子の基本が学べる指針として「量子リテラシー標準(QSS-L)ver.1.0」を発表した。2026年度中にQ-STAR会員企業を対象に、試行的に検定を実施し、2027年度には一般向けに検定を実施する予定だ。

量子リテラシー標準検定については、Q-STARのほかに、スキルアップNeXt、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所(IMI)が参加しており、実施については、量子科学技術研究開発機構(QST)、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)とも連携する。

  • 量子リテラシー標準の位置づけ

    量子リテラシー標準の位置づけ (資料提供:Q-STAR、以下すべて同様)

量子リテラシー標準が目指すもの

量子リテラシー標準は、すべてのデジタル人材が、さらに身につけるべき量子技術のリテラシーと位置づけており、社会人や将来の産業人材として期待される学生など、幅広い層を対象に、量子時代に対応するために必要な基礎的知識を体系化し、量子人材の裾野拡大に貢献することを狙う。

  • 量子リテラシー標準の策定方針

    量子リテラシー標準の策定方針

具体的には、「なぜ量子技術か(Why)」、「量子技術とは(Waht)」、「量子技術の社会実装(How)」、「量子技術の社会実装を推進するために必要な意識や姿勢(Mind/Stance)」を定義する4つの「リテラシー項目」と、リテラシー項目を理解するための詳細要素である「小項目」、項目を学習するための例示である「学習項目例」、各項目における目指す度合いを示す「学習到達度」と、項目の学習によって活用するシーンを例として示す「活用シーン」で構成されている。

  • 標準策定の狙い

    標準策定の狙い

情報処理推進機構(IPA)が、すべてのビジネスパーソンが身につけるべきデジタルスキルを定義する枠組みとして公開している「デジタルリテラシー標準(DSS-L)」との連携を前提としており、量子に関する部分だけを量子リテラシー標準でカバーすることになる。

Q-STARで人材育成ワーキンググループのリーダーを務める、スキルアップNeXtの小縣信也取締役CTOは、「Q-STARでは、『+Q』というコンセプトを掲げ、量子人材の拡大とともに、デジタル人材にQ(Quantum=量子)を加えることを目指している。今回の量子リテラシー標準は、人材育成や人材採用の担当者が、デジタルリテラシー標準と量子リテラシー標準を組み合わせて、量子人材の育成および採用ができるようになる点がメリットだ」と述べた。

  • 小縣信也氏

    スキルアップNeXt 取締役CTOの小縣信也氏

非エンジニアも含まれる量子リテラシー標準の対象者

量子リテラシー標準は、ITスキル標準(ITSS)レベル1に準拠しており、「量子技術の重要性を理解し、基礎知識を有している」ことをレベル定義としている。

  • 量子リテラシー標準の策定レベル

    量子リテラシー標準の策定レベル

対象は、エンジニアだけでなく、非エンジニアも含めており、スキルを認定したエンジニアのイメージとしては、自分の専門領域外の知識と実装への留意点やマインド、スタンスを再確認し、業務遂行が行える「量子専門のエンジニア・技術職」、既存業務で量子との接点が生まれた際に適切に学び、連携、活用、設計判断に対応することができる「非量子専門のエンジニア・技術職」を見込んでいる。

また、エンジニア以外では、社内で量子技術を活用した企画や商品の検討を行い、社内外への説明や推進を行う「民間企業の非エンジニア層(企画・運用・営業など)」、顧客や社内に量子技術の可能性、限界、リスクを説明し、意思決定支援を行う「技術と社会の橋渡し役(商社・コンサル・政策調査など)」、将来的に量子技術に関わる可能性のあるキャリア選択や学問分野を選ぶ「高校生・大学生(非理系含む)」、高校や大学で量子技術に関する授業、広報活動を行う「教育者・広報・メディア関係者」を想定している。

「量子技術に関する計算能力を求めるものではなく、量子もつれなどの概念を知っていることを求める内容となっている。量子技術が今後の社会や経済の基盤技術として広く活用されていく可能性があることを知っていること、量子技術の社会実装がどのような産業や社会課題に対して始まっていることなどを知っているスキルを求めるものになる。量子技術はこれまでの技術とは大きく異なる部分がある。自ら進んで学び続け、分からないことや新しい領域も自発的に調べ、自己成長につなげる姿勢も大切である」とし、「とくに重要だと考えているのが、民間企業の非エンジニア層である。日々進化する量子技術を自社の製品のどこに組み込めば、うまくアップデートできるのかといった企画をする立場にある人たちは、量子技術を正しく理解する必要があり、最新技術をキャッチしつづける必要がある。そした人たちに、量子リテラシー標準を活用してほしい」とした。

量子人材育成の課題

まずは、ver.1.0として公開するが、量子技術の進化などにあわせて定期的に改訂を加えることになる。

政府では、「量子未来社会ビジョン」のなかで、2030年には量子利用者が1000万人に達する社会づくりを掲げている。量子技術を社会で活用するには、量子技術を開発する人材だけでなく、量子技術を活用し、ビジネス課題を解決する人材が求められている。今回の量子リテラシー標準(QSS-L)は、すべてのデジタル人材を対象としたものであり、量子利用者の育成にもつながるものになる。一方で、量子技術の開発などに取り組む人材の育成では、量子プロフェッショナル標準(QSS‐P)の策定を計画しており、Q-STARでは、2026年度中に公開する予定だという。

Q-STAR 事務局長の土田悦道氏は、「2025年度に政府がまとめた『量子エコシステム構築に向けた推進方策』では、日本独自の量子エコシステムの早期立ち上げが盛り込まれ、そのなかで重要視されているのが量子人材育成の裾野拡大である。量子リテラシー標準は、政府の方針とも連携しながら、産業界として未来の量子産業を支える人材基盤づくりに活用することを目指す」とした。 また、今回の取り組みは、内閣府が推進する「研究開発とSociety 5.0 との橋渡しプログラム(BRIDGE)」事業における「量子人材教育エコシステムの開発と試行」のひとつに位置づけており、テーマ1である「量子スキル標準」の取り組みの一環として策定。産学共通の学習基盤を作り、裾野拡大を支える中核的役割を果たすという。

  • Q-STAR 事務局長の土田悦道氏

    Q-STAR 事務局長の土田悦道氏

量子人材の育成においては、「共通言語の不在」、「専門人材前提の教育」、「教育と産業がつながらない」という3つの課題が指摘されており、今回の量子リテラシー標準の策定は、これらの課題を解決するものになるという。

土田事務局長は、「企業や大学によって、『量子を理解している』という基準が異なり、育成や採用の目標が揃えにくいという課題がある。また、高度物理中心の教育体系であるため、産業に必要とされる『判断できる人材』や『つなぎ役となる人材』が育たず、裾野が広がりにくい。そして、大学で養う知識と、企業が実務で求める理解や役割との間にギャップがある。量子リテラシー標準は、これらの課題解決に貢献できる」とした。

Q-STARは、量子技術を中核とした新たな産業の創出を目的に、2021年9月に設立し、2022年5月に一般社団法人化。現在、152法人が参加している。代表理事には、東芝の島田太郎社長CEOが就いている。

  • Q-STARのこれまでの歩み

    Q-STARのこれまでの歩み

日本が強みを持つ材料、デバイス、計測技術、コンピュータ、通信、シミュレーションなどの基盤技術を生かし、サービスの創出と社会実装につなげる産業化の土台づくりを、企業横断で進めており、研究開発やテストベッドによる連携のほか、政策提言や標準化連携/提案、人材育成などの活動に取り組んでいる。