米ラスベガスで開催された展示会「CES 2026」の会場は、大量のヒューマノイドロボットであふれかえり、来場者の目を引いた。その背景には、AI技術を物理的に現実世界へと反映するフィジカルAIの登場があり、最もわかりやすい例として出展者の多くが選んだのが、ヒューマノイドロボットであった。
ヒトのように働くロボットの量産化がはじまる
中でも高い完成度を見せたのが、Hyundai Motor Group(Hyundai)傘下にあるBoston Dynamicsのロボットたちだ。
1992年にMITからスピンアウトで設立されたBoston Dynamicsは、2013年にGoogle Xを経てソフトバンクの子会社になり、2021年にHyundaiが正式に買収した。主力である四足歩行ロボット「Spot」(スポット)は、日本を含め40カ国以上で稼働しており、2023年に導入された倉庫向けロボット「Stretch」(ストレッチ)は、作業の自動化を大きく進めた。
CES会期前日に開催された、メディア向け発表会で公開された「Atlas」(アトラス)は、既存の施設や作業環境との高い親和性を備えた産業用途の人型ロボット。56の自由度(56DoF)の大半を完全回転式ジョイントにすることで、驚くほどスムーズに動き、それでいて体の軸だけで前後を切り替えられ、しゃがんだ状態からぬるりと起き上がる。
最大110ポンド(約50kg)の荷物を持ち上げられ、触覚センサーを搭載した4本指の手で器用に作業をこなす。自動バッテリー交換や連続稼働などの機能も備え、防水設計でー20度から40度の環境でフルに性能を発揮する。ほとんどの作業は1日で覚えられ、安全性と信頼性、予測可能性を最優先に開発されている。SF映画で見たロボットがいよいよ実体化したという印象だ。
Boston Dynamicsは、AIの強化に関してGoogle DeepMindと提携し、自社開発のロボット制御向けAIモデル「Gemini Robotics」をAtlasに適用すると発表。AtlasのアクチュエーターはHyundai傘下の自動車部品メーカーHyundai Mobisと開発する。また、2025年1月からNVIDIAとの戦略的協業関係を強化しており、NVIDIAが基調講演で発表した次世代AIプラットフォーム「Rubin」を活用することも見込まれている。
Atlasは量産化を進めるため、2026年には米国に中核拠点となるRMAC(Robot Metaplant Application Center)を開設。2028年までに年間3万台を製造可能にし、2030年にはより複雑な組立工程へと展開する計画を立てている。
年内には米国内にあるHyundaiの工場で試験的に導入を進める予定で、会場ブースでは働くAtlasのデモが披露された。その様子があまりにもヒトの動きに近いことから、さっそく労組から反発の声が上がっている。
器用な腕を持つホームロボットが家電の一部に
産業用ロボットと並んでホームロボットたちも進化している。
LG Electronics(LG)は、ロボット工学と同社のコネクテッドホーム「ThinQ」エコシステムと連動するAIホームロボット「LG CLOiD」を発表した。同社がめざす「家事労働をゼロに」を実現する。
本体は高さ約150cm、重量は約50kg。7の自由度(7DoF)をもつ腕は、片手で約5kgの重さを持ち上げられる。足下は二足歩行ではなく、自動掃除機の技術を用いた自律ナビゲーション機能を備えた車輪ベースになっており、各種センサーと連動してスムーズに移動しつつ、転倒や衝突を防ぐ。同機で採用した専用のロボットアクチュエーターは新ブランド「LG Actuator AXIUM」として今後も開発に力を入れる。
VLM(ビジョン言語モデル)とVLA(視覚言語行動)で動きを学習し、5本指で細かな作業が可能。展示ブースでは実際に家の中で操作できることを見せていた。
深圳のロボットメーカーSwitcBotも、器用に家事をこなすヒューマノイドロボット「onero H1」を発表している。全身22の自由度(22DoF)の駆動域を持ち、各種センサーと視聴覚と深度、触覚を統合処理する「Omni Sense VLA」により、操作を覚えて人の手のような繊細な判断と動作を可能にする。こちらも二足歩行ではなく足下はモーターで移動する。
会場では他にも、Hisense(ハイセンス)が複数のヒューマノイドロボットを展示していたが、二本足のサービスロボットを動かして見せただけ、という印象だった。2025年に人型ロボットを発表したSamsungは、LVCCでのブース展示そのものをやめており、家電メーカー内でも開発への取り組みはばらつきがありそうだ。業界として2027年の発表がどうなるのか、今から気になるところである。
高度化に向け、開発技術の競争と協働が激化
ロボットが活躍する範囲が広がり、開発技術の競争もはじまっている。
CESで目立っていたのはQualcomm(クアルコム)で、次世代ロボティクス向け包括的スタックアーキテクチャを発表し、ヒューマノイドおよび高度な自律移動ロボット向け最新プロセッサ「QualcommDragonwing IQ10 シリーズ」を発表した。会場ではIQ10を搭載したベトナムのロボティクスメーカーVinMotionの最新ロボ「Motion 2」が公開され、歩いたり、サンドイッチを作ったりするデモが披露された。
Qualcommはヒューマノイドロボット開発で注目される米Figureをはじめ、さまざまなロボット開発企業と連携しており、ロボット開発プラットフォームのエコシステムを構築することをめざしている。
研究開発に必要なリソースの多さと複雑さを考えると、協業だけでなく買収の動きが加速する可能性があり、出展していた多くのスタートアップはそうした売り込みのためにCESへ出展していたようにも見えてくる。実際、世界からスタートアップの展示が集まるエウレカパークではロボット開発のためのロボット技術がいろいろ見られた。
2026年に新設された、ディープテック系が集まる「CES Foundry」でもロボットが展示されており、次回も会場が置かれるとすれば、高度なヒューマノイドロボットはそちらにブースが集中するかもしれない。
現時点ではまだ大きく突出した技術やアイデアは見られないが、次回は何か新しいものが登場するのか、そもそもロボットの展示が続くのか、今後の動きが気になるところだ。









