宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月20日、文部科学省の宇宙開発利用部会/調査・安全小委員会において、H3ロケット8号機の打ち上げ失敗に関する原因調査状況を報告した。フェアリング分離時に異常が発生したというのはこれまでの報告通りだが、そのときに衛星やロケットで何が起きたのか、より詳しい状況が明らかになってきた。
衛星は第1段と同じ海域に落下か
今回の報告内容を要約すると、まずフェアリング分離時に、衛星搭載構造の一部が損傷。このときはまだ第1段エンジンが燃焼していて加速中のため、衛星はロケット側に押しつけられて一体となって飛行していたが、燃焼が終了すると押す力がなくなり、ロケットから脱落、第2段は空荷の状態で飛行していた模様だ。
JAXAがそう推定したのには、複数の根拠がある。まず、第1段/第2段分離後の映像に、衛星本体と思われる物体が映っていること。そして、第2段エンジンの1回目燃焼は推力が20〜35%も低かったのに、燃焼時間は5%程度長くなっただけだったこと。これは、空荷で軽かったと考えれば、説明が付く。
さらに、衛星分離部(PAF)に搭載されていた加速度・温度センサーのデータは、第1段エンジンの停止までは正常に取得できていたのに、その後、第1段/第2段分離時に断線したことを示していた。これらのフライトデータを総合すると、第1段/第2段分離時に、壊れた衛星搭載構造ごとロケットから脱落したと考えるのが妥当だ。
そのため、衛星は周回軌道には乗っておらず、第1段と同様に、第1段の落下予想区域に落下したものと見られる。事前に通達している海域であり、被害に関する報告などは確認されていないという。
加速度データから見えてくる異常
衛星搭載構造は、前述のPAFと衛星搭載アダプタ(PSS)で構成されている。PAFは衛星を固定しておく場所で、衛星を分離する機能も持つ。その下にあるのがPSSで、これが衛星の荷重を支えつつ、第2段機体に結合している。またPSSはバルクヘッドという部材により、衛星側とは空間的に隔離されている。
ではフェアリング分離時に、ここで何が起きたのか。まず手がかりとなるのは、加速度のデータだ。火工品点火の直後、大きな加速度を検出しているが、これは従来の分離衝撃と同等で正常。しかし今回は、そのあと0.3秒程度の間に、大きな加速度の変動が見られており、JAXAはこのときに問題の起点となった事象が発生した、と見る。
そのあと、さらにプラス側に特徴的なピークが連続しているが、これは2次的に発生した事象と推定。この連続したピークは、構造物が複数回衝突したものと考えられており、まだ断定はできないものの、衛星と衛星搭載構造の一部が第2段側に落ち込み、ぶつかった可能性が高い。
この推測を強く裏付けるのが、フェアリング内の映像だ。フェアリング分離前後の衛星の位置を比較すると、分離後は、衛星がカメラ側に近づき、傾いているように見える。これは、衛星が落ち込んで、カメラ側に傾いたと考えると矛盾がない。
加速度とタンク圧力がナゾの連動
今回の打ち上げでは、フェアリング分離後に第2段の水素タンクの圧力が下がったことが分かっていたが、これは、衛星が落ち込んだときに加圧配管を壊したと考えれば、つじつまが合う。今回公開された加圧ラインのデータを見ると、加圧バルブを開いたのにタンク内の温度変化がなく、加圧ガス(ヘリウム)がタンクに届いていなかったと見られる。
また非常に特徴的なのが、前述の加速度のピークと、タンク圧力のピークが、連動しているように見えることだ。この理由についてはまだ解析中なものの、JAXAの有田誠・H3プロジェクトマネージャは、想定されるシナリオのひとつとして、落ち込んだ衛星と衛星搭載構造が水素タンクを凹ませ、それにより圧力が上昇した可能性を指摘した。
水素タンクのドーム部の弾性によって跳ね返され、何度かバウンドしたと考えると、この動きと一致する。有田プロマネによれば、定量的にも、タンク圧力にこのくらいの変動があってもおかしくないことが分かっているそうだ。
なおフェアリング分離後の映像で、衛星が内部からの圧力で壊れたようにも見えていたが、加圧配管が壊れ、そこから漏れた高圧ガスが衛星側に流入したとすれば、衛星の多層断熱材(MLI)や構体パネルが吹き飛ばされてもおかしくはないだろう。
FTAによる原因究明を開始
衛星の重量や重心位置などはこれまでと大きな違いはなかったのに、なぜ衛星搭載構造が壊れたのか。この点が今後の大きな焦点となるが、現時点で原因は分かっていない。衛星搭載構造の破損が、原因なのか結果なのかも不明だ。
JAXAは、フェアリング分離開始直後に発生した異常な加速度をトップ事象として、故障の木解析(FTA)を展開。1次要因として外的荷重、内部構造の損傷というふたつをあげ、外的荷重の下では、さらに力学的や化学的などエネルギー分類を2次要因として、慎重に評価を進めている。今後、必要に応じて、追加試験も実施する予定だ。











