油井亀美也宇宙飛行士ら4人を乗せた「クルー・ドラゴン」宇宙船運用11号機(Crew-11)が、2026年1月15日、国際宇宙ステーション(ISS)から地球へ帰還した。

当初、帰還は2月の予定だったが、クルーの1人に医学的な懸念が生じたとして前倒しされた。宇宙飛行士が医学的な理由で予定より早く帰還したのは、NASAの歴史上、またISSの運用上、いずれも初の事例である。

  • クルー・ドラゴン宇宙船運用11号機のクルー (C)NASA/Bill Ingalls

    クルー・ドラゴン宇宙船運用11号機のクルー (C)NASA/Bill Ingalls

Crew-11の早期帰還

Crew-11ミッションは2025年8月に打ち上げられ、ISSに到着して長期滞在ミッションを開始した。

クルーは、NASAのジーナ・カードマン宇宙飛行士(コマンダー)、マイケル・フィンク宇宙飛行士(パイロット)、JAXAの油井亀美也宇宙飛行士(ミッション・スペシャリスト)、ロシアのオレグ・プラトノフ宇宙飛行士(ミッション・スペシャリスト)の4人で構成されていた。

当初、ミッションは2026年4月頃までの滞在が想定されていた。ところが1月7日、油井宇宙飛行士はヒューストンの地上管制局に対し、「クルーの1人に健康問題が発生した」と伝えた。同日にはカードマン宇宙飛行士とフィンケ宇宙飛行士が船外活動(EVA)を実施する予定だったが、延期された。

翌8日、NASAは記者会見を開き、Crew-11のクルー4人全員を早期に帰還させる方針を明らかにした。

NASAはプライバシーを理由に、誰にどのような問題が起きたのか、といった詳細については公表していない。一方で、問題が生じた宇宙飛行士の容態は「安定」していると説明した。さらに、ISSの運用環境や船外活動の準備とは無関係であるとも説明している。JAXAとロスコスモスはいずれも、自国の宇宙飛行士の健康状態に問題はないとしている。

今回の対応についてNASAは「制御された医療避難」(controlled medical evacuation)と位置づけている。ISSの運用には、必要に応じてクルーを短時間で帰還させる「緊急帰還」(emergency return)という手順も用意されているが、今回はその必要はないと説明している。

その後、1月12日にはISS船長(コマンダー)の交代式が行われ、フィンク宇宙飛行士からセルゲイ・クド=スベルチコフ宇宙飛行士へISSの指揮権が引き継がれた。

クルー・ドラゴンCrew-11は、日本時間1月15日7時19分にISSから分離し、同日17時41分にサンディエゴ沖の太平洋へ着水して帰還した。

帰還後、4人の宇宙飛行士は検査のため医療施設に搬送された。その後、4人はヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターに移動し、検査やリハビリを受けている。

Crew-11のミッション時間は166日と16時間57分だった。フィンク宇宙飛行士は今回が4回目の宇宙飛行で累計約549日、油井宇宙飛行士は2回目の宇宙飛行で累計約309日を宇宙で過ごした。カードマン宇宙飛行士とプラトノフ宇宙飛行士は今回が初の宇宙飛行だった。

現在、ISSには「ソユーズMS-28」のクルーであるクド=スベルチコフ宇宙飛行士、ロシアのセルゲイ・ミカエフ宇宙飛行士、NASAのクリス・ウィリアムズ宇宙飛行士の3人が滞在している。

NASAはまた、クルー・ドラゴン運用12号機(Crew-12)の打ち上げ時期について、当初2月15日以降としていた計画を、2月上旬へ前倒しする可能性を検討している。Crew-12は当初、クルー交代を円滑に進めるため、Crew-11の帰還前に打ち上げる想定だった。

Crew-12には、NASAのジェシカ・メイア宇宙飛行士、ジャック・ハサウェイ宇宙飛行士、欧州宇宙機関(ESA)のソフィー・アデノ宇宙飛行士、ロシアのアンドレイ・フェディヤエフ宇宙飛行士が搭乗する。

  • ISSから分離したクルー・ドラゴンCrew-11 (C)NASA+

    ISSから分離したクルー・ドラゴンCrew-11 (C)NASA+

NASAとISSの運用の歴史上初の出来事

宇宙飛行士が医療上の理由で予定より早期に帰還したのは、NASAの有人宇宙飛行の歴史上、またISS運用の歴史上でも初の事例である。ただ、他国の例も含めると、史上3例目のケースとなる。

1976年には、ソヴィエト連邦(ソ連)の宇宙ステーション「サリュート5」に滞在していた2人の宇宙飛行士が、機内の悪臭や頭痛を訴えた。当初、約2カ月と予定されていたミッションは49日で切り上げられ、2人は地球に帰還した。化学物質による空気汚染、推進薬の漏れなどが原因と考えられている。

1985年には、ソ連の宇宙ステーション「サリュート7」に滞在していた3人の宇宙飛行士のうち1人に体調不良が生じた。当初は約半年の滞在が予定されていたが短縮され、クルーは約65日で帰還した。

1987年にはソ連の「ミール」宇宙ステーションにおいて、長期滞在中の宇宙飛行士の1人に心臓の問題が認められたとして、クルーのローテーションを調整し、別の宇宙飛行士と交代させるかたちで早期に帰還させた。これは、今回のCrew-11やサリュート5のように宇宙船自体の帰還時期を早めたわけではなく、宇宙飛行士の交代運用で対処した事例だ。

医療上の問題以外でミッションが短縮された例としては、1997年4月のスペースシャトル「コロンビア」のSTS-83ミッションがある。飛行中に燃料電池の不具合が発生したため、当初は約15日間の飛行を予定していたミッションを打ち切り、約4日で地球に帰還した。これを受けて同年7月、同じクルーでSTS-94として再飛行が行われ、予定していた実験があらためて実施された。

参考文献