国立天文台は1月15日、すばる望遠鏡を用いて、天の川銀河の衛星銀河の1つである「こぐま座矮小銀河」の周辺に広がる暗い星々を観測した結果、矮小銀河にはないと考えられてきた銀河同士の衝突や合体の痕跡に酷似した特徴を持つ新たな構造を発見したと発表した。
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HSCで観測されたこぐま座矮小銀河の天体画像(3視野分)。楕円は矮小銀河の中心部。非常に淡い天体のため、目視での判別は難しいものの、画像の端までこぐま座矮小銀河の星が広がっている。(c)国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)
同成果は、総合研究大学院大学の佐藤恭輔大学院生を中心に、国立天文台、法政大学、東北大学の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
矮小銀河でも銀河衝突が起きていた可能性を示唆
銀河には大小さまざまなサイズがあり、円盤部の直径が約10万光年に及ぶ天の川銀河は大型の部類に入る。局部銀河群においては、アンドロメダ銀河と並び最大級の規模を誇る存在だ。天の川銀河は巨大な重力を持つため、大・小マゼラン雲を始めとする多数の矮小な衛星銀河を従えており、中には天の川銀河本体に落下中のものも存在する。
こうした矮小銀河は、宇宙初期に誕生したことから「銀河の化石」とも称され、その構造を調べることで、銀河の成長過程に関する情報を得ることが可能だ。従来、矮小銀河のような小規模な銀河は、ガスの流入や内部での星形成といった比較的単純な過程で形成されると考えられており、大型銀河のような銀河同士の衝突や合体はほぼ起きないとみなされてきた。
ところが近年、欧州宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」による観測で、一部の矮小銀河が本来の領域(潮汐半径)を超えて星を分布させている例が報告され、注目を集めていた。しかし、ガイアが捉えられるのは比較的明るい赤色巨星に限られ、外側に広がる暗い星々の詳細な分布までは把握が困難だった。そのため、外縁部の構造が天の川銀河の潮汐力によって引き伸ばされたものなのか、あるいは過去の銀河合体によって形成された固有の構造なのか、判別がついていなかったという。
そこで研究チームは今回、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム)」(HSC)を用いて、天の川銀河の衛星銀河の1つで、約10万分の1の質量しかない「こぐま座矮小銀河」を撮像し、その星々を周辺部まで詳細に調べたという。
そして観測の結果、ガイアでは捉えられなかった多数の暗い主系列星が検出され、外縁部の星の分布をこれまでにない精度で描き出すことに成功したとのこと。その後の解析の結果、星の広がりは従来知られていた長軸方向だけでなく、短軸方向にも存在することが判明した。また短軸方向の構造は、天の川銀河から受ける潮汐力で説明される長軸方向の伸びとは異なる特徴を示しており、矮小銀河同士の合体で形成された可能性が浮上したとする。
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こぐま座矮小銀河に属する主系列星の空間分布(中央)と、銀河の長軸方向・短軸方向それぞれに沿った星の数密度プロファイル(左右)。中央パネルのカラーマップと等高線はどちらも星密度を表し、破線はこぐま座矮小銀河の長軸・短軸方向を示す。左右パネルの黒線は、広がった構造がないと仮定した場合の予測される数密度プロファイル。実際の観測から求められた数密度(青・緑点)は、長軸・短軸共に予測を上回っており、外縁部まで恒星構造が存在していることを示している。(c)国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)
今回の観測成果は、極めて質量の小さな矮小銀河の形成においても、衝突や合体が関与していた可能性を示す重要な知見となるという。天の川銀河の衛星銀河で銀河衝突の痕跡が見つかる例は希であり、今回の成果は、矮小銀河の成り立ちに新たな視点を提示するものとした。
今回、こぐま座矮小銀河の外縁部に潜んでいた恒星構造が確認されたことは、矮小銀河の形成史を探る上で大きな一歩となった。ただし、この構造が天の川銀河の潮汐力によるものなのか、合体の痕跡なのかを確定させるには、星々の運動や化学組成のさらなる調査が不可欠だ。今後は、「オーノヒウラピーエ」(ハワイ語で「私たちの起源を解き明かす」という意味)と命名された、稼働を開始した超広視野多天体分光器「Prime Focus Spectrograph(プライム・フォーカス・スペクトログラフ)」(PFS)を用いた観測により、その起源が解明されることが期待されるとしている。