東北大学は1月7日、これまでガラス特有の分子振動を説明するために用いられてきた理論モデルに着目し、このモデルに対して外部から加える力を強くしていくと、ある時点で急に破壊が始まる「降伏」が起こることを理論的に解明したと発表した。

同成果は、東北大大学院 理学研究科の須田誠大学院生を中心に、オランダ・アムステルダム大学のEdan Lerner准教授、イスラエルのワイツマン科学研究所のEran Bouchbinder教授の国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

ガラスはなぜゆれて、そしてこわれるのか?

液体の分子がランダムな配置を保ったまま凍結してしまった状態であるガラスは、建材や光学部品、電子デバイスなど、我々の身の回りにおいて広く利用されている身近な物質だ。しかし、その物理的な性質には未解明な点が多く残されているのが現状である。

特に近年、ガラスの種類に関係なく現れる物理的な共通の性質として、分子振動と降伏の2つが注目されている。分子振動とは、固体中の分子が熱や力を受け振動することを指すが、ガラス特有の現象として、一部の分子のみが大きく振動する「局在振動」のパターンが存在することが知られている。また降伏とは、ガラスにかける力を強くしていくと、ある閾値を超えた瞬間に急激な構造変化が生じて破壊が始まる現象のことをいう。

これらの性質は、これまで実験や分子レベルのシミュレーションにより精力的に調べられてきた。しかし、理論的側面においては、どちらか一方の現象を説明できる枠組みは存在しているものの、分子振動と降伏の両方を1つの物理的視点で統合的に説明することはできていなかった。そこで研究チームは今回、ガラス特有の分子振動を説明するために以前から使われてきた、「連続変数を持つ平均場スピングラスモデル」に着目したという。

連続変数を持つ平均場スピングラスモデルとは、磁性体の理論モデルである「スピングラス」を基に、ガラスの連続的な振る舞いも扱えるように拡張された数理モデルだ。このモデルは実在のガラスの分子を直接再現するものではないものの、ガラスが持つ構造のランダムさや、多数の準安定状態(エネルギー的に安定した状態)といった物理的特徴を簡潔に表現できることを利点を有している。

今回の研究では、この理論モデルに一定の振幅を持つ周期的な力を加え、その振幅の大きさを変えた複数の場合について、モデルの振る舞いが詳細に比較された。その結果、外力の振幅が小さい場合には、1周期ごとにモデルが元の状態に戻る可逆的な振る舞いが現れ、一方で、振幅がある一定の値を超えると、モデルが同じ状態へ戻らなくなる不可逆的な振る舞いへと転移することが明らかにされた。このような可逆から不可逆への振る舞いの移行は、まさにガラスの破壊が始まる降伏の特徴であり、この理論モデルが降伏を扱えることを明確に示した形だ。

  • 理論モデルにおける降伏の様子

    理論モデルにおける降伏の様子。(左)外部から加えた力と、構造の安定性の指標であるポテンシャルエネルギーの関係。点線で示された降伏する力の大きさを境に、モデルの構造は不安定化へ向かう。(右上)繰り返し力を加えた時のサイクルごとの変形量。加える力が小さいと、変形量はゼロに収束する可逆的な応答を示す。(右下)加える力が大きいと降伏が起こり、変形が持続する不可逆的な状態へ転移する。(出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の成果により、ガラスの微視的な分子振動と、破壊の始まりである巨視的な降伏を結び付けて考える道筋が示された。研究チームは現在、この理論モデルで降伏が起こる微視的な仕組みや、熱の影響を受けた時の振る舞いも並行して調べているという。今後、実験や分子シミュレーションの結果と照らし合わせることで、ガラスという物質状態の理解をさらに深め、将来の材料設計や耐久性評価につながる基盤を築くことが期待されるとしている。