沖縄科学技術大学院大学(OIST)は1月2日、量子技術における課題の1つとされてきた現象である「超放射」を制御することで、外部からの駆動を必要とせず自己持続的に、かつ極めて長寿命なマイクロ波信号「自己誘導型超放射メージング(self-induced superradiant masing)」を生成することに成功したと発表した。

  • 今回の研究のイメージ

    今回の研究のイメージ。(c)oliver-diekmann.graphics(出所:OIST Webサイト)

同成果は、オーストリア・ウィーン工科大学のWenzel Kersten博士、OIST 量子工学ユニットのウィリアム・マンロ教授、OIST 量子技術センターの根本香絵教授/センター長らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学を扱う学術誌「Nature Physics」に掲載された。

将来の量子デバイス開発に新たな可能性を示唆

超放射とは、複数の量子粒子が同調して動作する集団挙動の代表例として知られる現象であり、単独の粒子では不可能な強力な信号を放出することがわかっている。しかし、この現象は量子系が蓄えたエネルギーを一気に放出するため、本来は量子状態を乱す制御困難な相互作用であり、量子技術の実現を妨げる障壁となっていた。そこで研究チームは今回、この厄介な現象を逆に制御可能なリソースへと変換し、新たな量子挙動を引き出せるのかどうかについて、詳細な調査を行ったという。

今回の研究では、ダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)中心を高密度に集積し、それらをマイクロ波共振器に結合させることで、スピン系の集団的な挙動が詳しく調べられた。本来、ダイヤモンドは炭素原子の結晶だが、不純物として窒素が入り込み、さらに本来は炭素があるべき場所が空孔となっている「原子レベルの欠陥」として存在しているのがNV中心だ。個々のNV中心はスピンを保持しており、特定の量子状態間を反転することで、ごく小さな磁石のような挙動を示すという特徴を持つ。

この調査の結果、最初に研究チームが予想した通り、エネルギーを一気に放出する超放射バーストが観測された。ところが、そのバーストが収束した直後、予期していなかったことに、細くて寿命の長いマイクロ波パルスが連続して発生することが確認された。今回の系では、一見無秩序に見えるスピン間の相互作用が、逆に放射を促進する方向に働き、極めてコヒーレントな(位相の揃った)マイクロ波信号を持続的に生成していることが判明したのである。

この特異なマイクロ波パルスの発生メカニズムを特定するため、大規模な計算シミュレーションが行われた。その結果、スピン同士の相互作用が自己誘導的に働き、動的にエネルギー準位を満たすことで、外部からの電力駆動なしに放射を持続させていることが明らかにされた。

基本的に、この系は自律的にエネルギーを循環させて自らを駆動している。スピン同士の相互作用が絶えず新たな遷移を引き起こし、量子集団挙動における本質的に新しい現象を見せていることが判明したのである。これにより、外部からのエネルギー供給なしに自発的に発生する長寿命のマイクロ波放射「自己誘導型超放射メージング」が、世界で初めて実証されたとした。なお、メージングとはマイクロ波版レーザーである「メーザー」の発振を起こすことを意味する。

この自己誘導型超放射メージングは、将来的に極めて安定かつ高精度なマイクロ波信号を生成する画期的な主砲となることが期待される。安定した自己持続的なマイクロ波放射は、磁場や電場の微細な変化を検出するための量子センサの性能向上や、盗聴が不可能とされる量子通信インフラの構築など、次世代の量子デバイスの開発に向け新たな道を拓くとする。さらには、超高精度の時計、通信リンク、医療画像、材料科学、環境モニタリング、ナビゲーションシステムなど、現代社会を支えるさまざまな分野の技術革新につながる可能性もあるとしている。