大阪大学(阪大)は1月5日、AI手法を「走査型プローブ顕微鏡」へ組み込むことで、試料表面の単一原子を自律的に移動・除去することが可能な技術を開発したと発表した。
同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科 システム創成専攻の奥山純矢大学院生(研究当時)、同・DIAO ZHUO助教、同研究科附属極限科学センターの阿部真之教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンス/テクノロジーを扱う学術誌「Nano Letters」に掲載された。
AIによるナノロボット創成が可能に?
現在のものづくりは、素材を加工して作り出した部品を組み上げる「トップダウン方式」が主流だ。それに対し、個々の原子や分子を設計通りに配置・結合・除去することで、物質やデバイスを原子レベルで構築する技術は「原子レベルマニファクチャリング」あるいは「ボトムアップ方式」などと呼ばれる。1986年にエリック・ドレクスラーが著書『創造する機械』で提唱した同方式は、かつてはSF的なコンセプトだったが、近年は実現の兆しが見えつつある。
提唱当時は思考実験の域を出なかったが、その後、走査型プローブ顕微鏡技術の飛躍的な発展により、現実味を帯びてきた。同顕微鏡は、先鋭な探針を試料表面に近づけて相互作用を検出しながら走査することで、原子レベルの分解能で表面構造を観察する装置である。トンネル電流や原子間力を利用した、極めて高い空間分解能が特徴だ。
同顕微鏡の探針と原子の間に働く相互作用を精密に制御することで、原子を意図した位置へ移動させたり、表面から取り上げたりする「原子操作」が可能となってきた。従来のトップダウン方式による微細化には限界があるが、ボトムアップ方式であれば、物理的な限界点である究極の空間分解能を実現することが可能である。
ボトムアップ方式は、量子デバイスや次世代半導体、単原子触などの創製に加え、原子レベルでの構造作製や物性測定などへの応用が期待される究極の加工・制御技術として注目されている。しかし、室温環境での原子操作は熱揺らぎの影響が大きく、極めて困難なことが大きな課題となっていた。そこで研究チームは今回、AI手法を走査型プローブ顕微鏡に組み込み、自律的な原子操作を試みたという。
今回開発された技術は、AIが測定試料表面の状態を原子レベルで把握し、装置自体の状態を判断しながら、必要に応じて修正や調整を行って自律的に個々の単原子を操作するというものだ。従来の自動計測とは異なり、AIが人間に代わって実験を行う形となる。これを用いて、AIが連続的に状況を判断・対応することで、室温下でのシリコン表面上に存在する銀原子の移動やピックアップが実現されたとしている。
AIによる長時間の連続運転が可能になることで、今後は、人手では不可能だった複雑なパターンの作製や大規模データの収集が可能となり、人間の能力を超えた実験が実現するという。また、今回の手法をさまざまな走査型プローブ顕微鏡に応用することで、原子レベルでのデバイスの動作検証や、単原子レベルでの化学反応の誘起など、従来のアプローチでは困難だった新発見や原理解明につながることも期待されるとする。今回の技術は、原子レベルの精密な研究をより効率的かつ再現性の高いものへと変革し、ナノテクノロジー研究をさらに発展させるものとした。
さらに今回の技術は、AIによる大規模な原子操作へ展開させることにより、原子レベルで表面を自由に組み立てる原子レベルマニファクチャリングの実現プラットフォームとなることが期待されるとしている。
