国立天文台、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、京都産業大学(京産大)の3者は、2025年7月に発見された観測史上3番目の恒星間天体「C/2025 N1(3I/ATLAS;アトラス彗星)」について、各機関が個別に実施した最新の観測結果を12月25日までにそれぞれ発表した。
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すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置FOCASが捉えたアトラス彗星。Vバンド(波長550nm)、Rバンド(波長660nm)、Iバンド(波長805nm)を青、緑、赤に割り当てた3色合成画像だ。各バンドで露出2秒の画像が3枚取得されている。画像の画角は2.4分角×1.2分角。(c)国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)
アトラス彗星は2025年7月1日にチリの小惑星地球衝突最終警報システム「ATLAS」によって発見された天体だ。観測史上初の恒星間天体「オウムアムア」(2017年)、2例目の「ボリソフ彗星」(2019年)に続く3例目の来訪者である。すばる望遠鏡による撮影が行われた2025年12月13日(ハワイ現地時間)時点で、同彗星は地球から約2.7億kmの距離に位置し、地球への最接近(12月19日)を目前に控えた時期だった。微光天体分光撮像装置「FOCAS」を用いたわずか2秒の露出ながら、拡がった彗星の尾が鮮明に捉えられたとした。
JAXAが2023年に打ち上げたX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」を運用するチームは、太陽系外からの来訪者が、太陽系内の多くの彗星と同様の振る舞いを見せるのかの検証を試みた。太陽系内彗星のX線放射は、1996年の百武彗星以降、数多く確認されているが、過去の恒星間天体2例では未検出だった。極めて活発な活動を見せていたアトラス彗星は、X線観測の絶好の対象となった。
アトラス彗星が最も輝く近日点付近は、XRISMの構造上観測が不可能だが、同期は11月26日から28日にかけて、太陽から離れ観測可能範囲に入った直後の同彗星を積算約17時間にわたって観測した。移動する彗星を視野内に留めるため、撮影に用いた軟X線撮像装置「Xtend(エクステンド)」の視野の中心付近から外れないよう、衛星の姿勢を約3時間に1回、合計14回にわたる微調整を行う、高度な姿勢制御が実施されたとした。
取得データの解析の結果、同彗星の中心から約40万kmに及ぶ領域に、かすかなX線の輝きが浮かび上がった。この広がりは、望遠鏡の結像性能の限界によるボケだけでは説明が難しく、彗星の周囲を数十万kmにわたって取り巻くガスの雲がX線で淡く光っている可能性が示唆された。ただし、望遠鏡の特性や、検出器ノイズなどの影響も考慮されるため、確定にはさらに慎重な解析が必要としている。
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国際宇宙ステーション搭載の日本の全天X線監視装置「MAXI」によるX線全天マップに投影されたアトラス彗星の軌道。拡大図では可視光画像(DSS)とX線画像(eROSITA)に対し、XRISMの軟X線撮像装置「Xtend」による1回目の観測領域が重ねられている。(c)JAXA/DSS/eROSITA/MAXI(出所:XRISM Webサイト)
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Xtendが捉えたアトラス彗星のX線画像。簡易プロセスを施した赤道座標系のデータから作成された。約300万km四方の広い領域を撮像しており、彗星の周囲約40万kmに広がる淡い放射の兆候が確認された。(c)JAXA(出所:XRISM Webサイト)
すばる望遠鏡の画像でも明らかなように、同彗星の周囲には太陽光で水が蒸発したガスの雲が存在する。ここに太陽風の高エネルギー粒子が衝突すると、「電荷交換反応」が発生し、特有のX線が放出される。炭素や窒素、酸素などの原子に由来すると考えられるX線成分が、通常の背景放射(銀河系のX線放射や地球大気からの放射の重ね合わせ)だけでは説明できない形で確認された。このことは、彗星ガスと太陽風の相互作用によってX線が発生している可能性を示す重要な証拠となる可能性があるとした。
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アトラス彗星の中心付近から抽出された、XtendによるX線スペクトルと背景放射モデル。赤矢印で示した箇所に、太陽風に多く含まれる炭素や窒素、酸素に起因する放射と考えられる超過成分が見られる。(c)JAXA(出所:XRISM Webサイト)
今回の観測を受けて海外のX線天文衛星による追観測も始まっており、XRISMが世界に先駆けて取得した初期データは、X線による追跡観測を方向づける重要な成果となったという。XRISMチームは今後、より精密なデータ処理と解析を通じ、恒星間彗星の活動や太陽風との相互作用の仕組みにさらに迫るとしている。
一方、11月29日夜(30日未明)にアトラス彗星の観測を行った京産大・神山天文台(神山宇宙科学研究所)は、口径1.3mの「荒木望遠鏡」と可視光・低分散分光器「LOSA/F2」による観測を実施した。可視光スペクトルを分析した結果、同彗星は、太陽系の一般的な彗星と酷似していることが判明。これは、同彗星に含まれる氷成分が、太陽系の彗星と大きな差がないことを示すものだという。
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アトラス彗星の可視光スペクトル(実線)。波長分解能は約500で、波長500nm付近では約1nmまで分解可能。縦軸は相対強度、横軸は波長。グレーのハッチングは夜空のスペクトル(主に地上の街灯の光が散乱反射されたもの)の引き残し。参考までに、夜空のスペクトルが点線で載せられているが、スケールは任意となっている。(出所:京産大Webサイト)
具体的には、C2、C3、CNといったラジカル分子や、水由来と推測される酸素原子による発光が確認された。これらは、太陽系の彗星でも普遍的に見られる物質である。例えばCNラジカルは、彗星核から放出されたシアン化水素が太陽紫外線で分解されたものと考えられれた。
唯一の相違点として挙げられたのが、太陽系の彗星で一般的なNH2ラジカルの発光が、アトラス彗星では弱いように見える点だという。アトラス彗星が誕生した星周環境が、太陽系とは異なっていた可能性が示唆される特徴としている。