「HP Customer Welcome Center Tokyo」(CWC)は、日本HPの品川本社(東京都港区)内に設けられた法人顧客向けの体験型ショールームだ。AI、セキュリティ、コラボレーション(ハイブリッドワーク)など、「未来を見据えて開発されたHPのソリューション」を実機で体験できる拠点となっている。この場所が何を目的として設置され、どのように使われているのか、日本HP マーケティング本部 CWC カスタマーエクスペリエンス マネージャーの佐藤香織氏に話を聞いた。
世界18拠点に設置された体験型ショールーム
この施設は、日本HPの本社が2021年11月に江東区大島から品川へ移転した際、同時に開設された。CWCは世界18拠点に展開されているHPのグローバルショールームの1つで、単なる製品陳列ではなく、HPの提案する働き方やIT運用の考え方を、デモやツアー、対話(Face to Face)を通じて理解することを主目的に設計されている。
佐藤氏はCWCの役割について、「日本HPの強みは、ハードウェア提供を越えて、セキュリティ・AI、そして未来の働き方を支える包括的なソリューションを持つところにあります。次世代AI PCを中心としたハイブリッドAIの普及に力を入れており、クラウドとオンデバイスAIを組み合わせることで、より安全かつ効率的な業務環境を実現しようとしています。また、『Future of Work』という理念に基づき、ユーザーの生産性と創造性を最大化し、より実りある働き方を提案しています。現在行っているキャンペーンである『はたらく人に、こだわる自由を。』は、こうした思想を象徴するものです。CWCにお越しいただく方には、単なる製品の性能だけでなく、HPが目指す未来の働き方を伝えることを重視しています」と語った。
情報システム担当者だけでなく、経営企画部門からも来訪
CWCでは、法人向けPC、GIGA端末、AIワークステーション、Polyのビデオ会議システム、POSレジ、プリンタ、サステナビリティ関連ソリューションなど、PC以外にも日本HPのラインナップを展示している。
CWCの来場者は、従業員1,000名以上のエンタープライズ企業が中心で、情報システム部門に加え、DX推進担当や経営企画部門の担当者が訪れる。年間の来場社数はおよそ150~180社で、エンドユーザー企業だけでなく、HP製品・ソリューションを学ぶためのトレーニング拠点として、パートナー企業が利用することもあるという。
施設内にはセミナースペースも併設されており、個社向けのプライベートセミナーから、複数企業が参加するオープンセミナーまで、柔軟な形で活用されている。製品担当者やプリセールスによる座学やデモンストレーションを通じて、顧客の業界課題に合わせた提案を行う点もCWCの特徴となっている。
「HP Customer Welcome Centerでは、製品の一方的なセールスを行わず、お客様の業界や課題に合わせたカスタマイズ提案を重視しています。例えば、製造業向けには高性能ワークステーションや3Dプリンティング技術を活用したソリューションを提案し、金融業界にはセキュリティ強化やハイブリッドワーク環境の最適化を支援します。また、製品購入後の運用やサポートも視野に入れ、長期的なパートナーシップを築くことを目指しています。さらに、セミナーや実機デモを通じて、最新技術や業界トレンドを学べる場を提供し、来場者が自社のビジネスにどう活かせるかを具体的にイメージできるようにしています」(佐藤氏)
CWCをリアルな場として設けている最大の意義は、製品やソリューションを実際に体験できるだけでなく、HPの人材と直接対話できることにあるという。
「品川本社には、営業担当だけでなく、サポートや検証チームのエンジニアなど、製品の裏側を支える多くの専門家が在籍しています。来場者は、製品に触れながら設計思想や開発背景を直接聞くことができ、HPの技術力や信頼性を深く理解できます。こうしたリアルな接点は、オンラインでは得られない安心感を提供し、長期的なパートナーシップ構築にもつながります。単なるショールームではなく、企業の課題解決を共に考える『対話の場』であることが、CWCの大きな価値です」と佐藤氏は語っていた。
来場者の関心が高い「次世代AI PC」
近年、CWCの来訪者の中で特に関心が高いテーマがAI活用。とりわけ次世代AI PCが注目されているという。
次世代AI PCは、オンデバイスAIを搭載し、クラウドに依存せずリアルタイムで処理を行えるため、セキュリティと業務効率の両立を求める企業にとって大きな魅力となっている。
AI PCの大きな特徴がNPUだ。NPUは、CPU/GPUに次ぐ第三の脳といわれ、AI処理が得意なシリコンチップが入っており、性能がAI処理を行うのに十分な性能を持っている。
来場者からは、「AI PCを導入すると業務はどう変わるのか」「本当に生産性は向上するのか」「既存のITポリシーや環境と両立できるのか」といった質問が多く寄せられるそうで、AIを導入すべきかどうかの判断を迷っている企業にとっても、CWCは“今、何ができるのか”を、デモを通じて確認できる場となっている。
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CWCには、日本国内では未発売だったり販売予定がなかったりする製品・ソリューションも展示される。これはそんな製品のひとつ、ハイエンドモバイルノートPCの「HP EliteBook Ultra G1i」
筆者が訪れた際には、AI PCの活用イメージとして、「ScribeAssist」というAI議事録作成ツールがセットアップされていた。このツールは、インターネット接続なしで音声録音から文字起こし・編集・要約までをワンストップで実現するもの。PC単体だけでなく、HPのビデオ会議ソリューション製品群「Poly」のマイクやスピーカーと合わせて体験できるようになっていた。
「セキュリティといえばHP」という印象を持ってもらうための場にしたい
佐藤氏は、CWCを「セキュリティといえばHP」という印象を持ってもらうための場にしたいと語る。施設内には、HP Wolf Securityをはじめとする多層防御の仕組みや、ハードウェアレベルでの改ざん検知、BIOS自己回復といった技術が、実機デモを通じて理解しやすく示されている。
「巧妙化するサイバー攻撃からエンドポイントを守るため、HP Wolf Securityなどの高度なセキュリティ技術を搭載し、企業の安心を支えています。セキュリティに対する重要性はみなさんの共通認識になっていますが、HPがなぜ20年以上にわたり研究機関であるHP Labsを持ち続けているのか、その背景を伝えたいと考えています。HP Labsでセキュリティを中心とした業界を革新する未来のテクノロジーを創り出すため、最先端の技術研究に挑み続けています。その成果が製品やソリューションに反映されています」(佐藤氏)
セキュリティの部分で好評なのが、のぞき見防止のためのプライバシースクリーンだという。プライバシーフィルターを外付けすることはよくあるが、プライバシースクリーンは、PC内蔵機能として利用できる。デモを見せる場合には、機能オフにすることもでき、顔が2人以上カメラに映ると、勝手にオンになる機能もある。


プライバシースクリーンがオフの状態(左)とオンの状態(右)。一瞬で、プライバシーフィルターを装着したかのように、正面以外からは画面が真っ黒に見えるようになる。キー操作でオン/オフを切り替えられるほか、カメラの画角に2人以上が映った際に自動でオンにする機能もある
そのほか、BIOSの自己回復機能である「HP Sure Start」や「HP Protect and Trace with Wolf Connect」も紹介されていた。
「HP Sure Start」は、PCの電源がオンになるたびに、自動的にBIOSコードの整合性を検証し、攻撃があった場合、隔離されたBIOSのコピーを使用して自己修復するもの。「HP Protect and Trace with Wolf Connect」は、PC紛失時に電源オフ時やインターネットに接続されていないときでもPCの位置を探索し、遠隔からのロック、データ消去が可能なソリューションだ。このようにCWCでは、業務に応じてどのようなセキュリティ機能を選択すればよいのかが判断できるようになっている。
プロフェッショナル向け製品や環境配慮についても展示
AI PCに加え、より高度な処理能力を必要とする業務向けに、HPワークステーションの展示も充実している。動画編集/レンダリングなど、プロフェッショナル用途を想定したデモが行われ、動画編集用のキーボードや日本にまだ2台しかないデジタルスキャナー「HP Z Captis」も展示されている。
サステナビリティ展示エリアでは、オーシャンバウンド・プラスチックを再利用した部材や、紙素材を活用した簡素な梱包など、製品設計から物流までを含めた環境配慮の取り組みが紹介されている。
さらに、使用済みPCをHPが買い取り、データ消去後にリユース・リサイクルへ回す「HP PCリユースプログラム」も説明されていた。このプログラムは、IT管理者の負担軽減と循環利用を両立する仕組みとして関心を集めているそうだ。
また、数千台~数万台のPCリプレイスを行う企業では、キッティングサービスも気になるところだ。これに関連しては、顧客仕様のカスタマイズPCをHP工場で生産するサービスである「CDS(コンフィグレーション&デプロイメントサービス)サービス」が紹介されていた。
CDSは、OSおよびデバイスドライバーがプリインストールされたイメージを提供したり、BIOSのパラメーター設定、資産管理ラベルの貼り付け、アセットタグ記載情報、ネットワーク設定(コンピュータ名/ワークグループ名/IPアドレス/サブネットマスク/デフォルトゲートウェイ/優先DNSサーバーの設定)なども、HPの工場で設定し出荷できる。輸送に利用するダンボールや梱包材の指定もできるという。
このように「知らなかった」「こんな便利なものもあったのか」という発見があるのが、CWCを利用するメリットのひとつといえる。
今後力を入れたいテーマは「ハイブリッドAIの普及」「オンデバイスAIの活用」
佐藤氏によれば、今後CWCとして特に力を入れたいのは、ハイブリッドAIの普及とオンデバイスAIの活用だという。
「クラウド依存から脱却し、リアルタイムで安全かつ高精度な処理を可能にするオンデバイスAIは、今後の働き方に不可欠な技術です。HPは、AI PCやデータサイエンス向けワークステーションなど、AIを軸にしたソリューションを強化し、企業のDXや業務効率化を支援します。また、サステナビリティやセキュリティといった重要テーマについても、最新情報を積極的に発信し、来場者が未来の働き方を具体的に描ける場を提供していきます」(佐藤氏)
今後、ショールーム自体をまるごと改装する計画もあり、CWCを「Future of Workをどのように実現していくかを共に考える場」として進化させることを目指しているという。











