東北大学は12月24日、地下開発において流体を注入する際に生じる、被害を伴うこともある誘発有感地震を抑制する新技術として、強い力が加わると瞬時に年生が増大する「せん断増粘流体(ダイラタンシー流体)」を、断層の模擬粉末に付与して摩擦特性を検証した結果、断層滑りを安定化させて地震発生を抑制できる可能性を示したと発表した。
同成果は、東北大 流体科学研究所の椋平祐輔准教授、同・Lu Wang特任助教(研究当時)、東北大大学院 理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センターの矢部康男准教授、同・理学研究科 地学専攻の澤燦道助教、同・武藤潤教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する地球科学を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
“地震抑制技術”の誕生に光の兆し
地下開発における流体の注入などは、断層の応力状態を変化させ、微小地震だけでなく、時には地上の建造物に被害を及ぼす誘発有感地震を引き起こす要因となる。これまで、流体注入量の削減や断続的な注入などの対策が講じられてきたが、経済性や技術的な制約から抜本的な解決には至っていない。日本は世界でも圧倒的に地熱資源が豊富だが、地下開発で人為的な地震誘発を起こすことは社会的受容性が高いとはいえず、重大な環境影響として地熱開発の普及を阻害してしまっていた。
そこで研究チームが注目したのが、外力に対して瞬時に硬化する性質を持つダイラタンシー流体だ。同流体は、流れのせん断応力が流れの速度勾配に比例しない非ニュートン流体の一種であり、コーンスターチ水溶液のように、素早く叩くと固く反応し、ゆっくり触れると沈み込む特性を持つことで知られている。
これまでの研究から、ダイラタンシー流体は岩石の破壊様式を変化させるほどの強い影響力を持つことが判明していた。今回の研究では、この特性を誘発地震発生時の断層滑りに対する「ブレーキ」として活用し、誘発地震を抑制するという新たな着想に基づき、実験による検証を試みたという。
実験では、通常の模擬断層粉末と、それにダイラタンシー流体を付加したサンプルのそれぞれに対し、断層の滑り特性を評価するための低速摩擦試験が実施された。この試験により、滑りの加速や減速といった挙動を決定づける摩擦パラメータの算出が行われた。
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今回の研究で使用された実験装置の低速摩擦試験機(東北大大学院 理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター)。サンプルホルダーに模擬断層粉末とダイラタンシー流体を付加したサンプルをセットして実験が行われた(出所:東北大プレスリリースPDF)
ダイラタンシー流体を付加したサンプルでは、断層粉末のみのサンプルとは対照的に、断層滑りが加速しにくい摩擦挙動が確認されたという。これは、流体の介在によって断層滑りにブレーキがかかる現象が起きたことを示唆する結果とされた。
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摩擦パラメータの1つである「臨界滑り量」の滑り速度に対する変化。黒のプロットがダイラタンシー流体付加サンプル、白のプロットが模擬断層粉末のみの結果を示す。ダイラタンシー流体付加サンプルは、滑り速度の増加に伴い臨界滑り量も増大している。地震発生の閾値となる臨界滑り量が増加したことは、断層滑りが安定化し、地震が発生しにくくなったことを意味する(出所:東北大プレスリリースPDF)
さらに、実験室スケールで微小な地震を連続的に発生させる摩擦試験も行われた。その結果、ダイラタンシー流体を付加したサンプルでは微小破壊振動がほぼ発生せず、これは同流体が断層滑りを安定させる極めて有効な手段であることの証左だとした。
最後に、電子顕微鏡による実験後のサンプル観察が実施された。すると、摩擦パラメータに影響を及ぼす1つである「せん断帯」が、通常よりも厚く形成されていることが判明。この構造的変化が、地震抑制につながる特徴的な摩擦特性を生み出した要因と推測された。
今回の成果により、地下開発で大きな障壁だった誘発地震を直接的に抑制する手法を確立できる可能性が示された。今回の手法を適用すれば、開発中にリスクを伴う断層が発見された際も、事業規模を縮小することなく安全に開発を継続できる可能性があるという。これは、地熱開発やシェールガス開発、二酸化炭素地下貯留といった、持続可能な社会の実現に不可欠な地下開発の社会受容性に大きく貢献する技術となる。
研究チームは今後、より地下開発環境に近い条件での実用性の検証やフィールド実証、技術の特許化を進めるという。将来的には、人為的な地震のみならず、広範な地震抑制技術の礎となることも期待されるとしている。