Ansys Part of Synopsysの日本窓口であるアンシス・ジャパンは12月11日、半導体と並んで安全保障などの観点から注目されるようになっている宇宙産業に関するプライベートセミナー「宇宙機設計のパラダイムシフト:デジタルエンジニアリングによる設計・開発」を開催。欧米で先行する宇宙機の開発などにおけるデジタルエンジニアリングの活用事例などの紹介を行った。
宇宙機に搭載される各種コンポーネントの開発は、電磁波や放射線、熱、重力などさまざまな影響を加味して進める必要があるが、実際に宇宙に試験機を持ち込んで試験を行うことは打ち上げを行うロケットの確保をはじめ、さまざまな困難が伴う。そこで必要となってくるのがシミュレーションの活用で、海外では米国航空宇宙局(NASA)が率先してAnsysのSTK(System Tool Kit)を活用しているほか、商用宇宙給油サービスを手掛けるスタートアップであるOrbit FabなどもAnsysのシミュレーションを活用しているという。また、日本でもスペースデブリ除去サービスの提供を目指すアストロスケールがSTKを活用して、ミッションの初期段階から精密な軌道設計や通信解析を行っているともする。
欧米の宇宙産業で活用が推奨されているデジタルエンジニアリング
海外、特に米国の宇宙産業でデジタルエンジニアリング(DE)の活用が進んでいる背景には、米国国防総省(DoD)がDEの実装を義務付けた指示書「Digital Engineering Strategy」を発行し、宇宙に近い防衛業界が対応を進めてきたことがある。
宇宙産業も防衛産業ほどのトップダウンではないがDE活用に向けた動きは欧米が先行しており、米国航空宇宙学会(AIAA)も2022年にDoDの取り組みを参考にする形でホワイトペーパーを発行するなど、共通基盤としての活用を推進するようになってきている。
DEを活用した開発を進めると可能になるのが、性能・コスト・安全性・環境など複数の解析領域を統合し、設計の探索や最適化を行う「MDAO(Multidisciplinary Design Analysis and Optimization)」だという。システム的に言うと、専門分野のモデルなどを最初期の段階から連携させることで最適化アルゴリズムを活用してシステム全体として目標とする最適な値を導き出そうという手法で、同社は「従来の手法はプラモデルを部位ごとに組み立てて、組み合わせるようなものだが、MDAOは彫刻のように一括して開発を行おうというもの」だと説明しており、その実現にDEが必要であることを強調する。
また、「製品開発のライフサイクルという観点から見た場合でも、従来手法では各フェーズにおいて分断が生じている。作業や仕事が属人的になっているということのみならず、フェーズごとに使われるツールも連携していない。そうしたフェーズ間の文壇により、開発初期段階で部分最適化が生じてしまい、結果としえt全体的な最適化が図られず、重大な問題を早い時期に発見することが難しくなる」と、分断をなくすことで開発効率を向上させることができるようになるのがMDAOであるともする。
デジタルエンジニアリングの現場への実装に必要なこと
実際にDEを現場に実装していくためには何が重要か。Ansysでは、要求定義の基盤としてのConcept of Operations(CONOPS:運用コンセプト)と、ミッションエンジニアリング(ME)の作法に基づいた可視化だという。そこで重要になってくるのがMBSE(Model-Based Systems Engineering)を用いてミッション・アーキテクチャを記述型モデルなどに変換する必要性と、実際にそうしたモデルが動くのかを確かめるためのシミュレーションとなる。
この記述型モデルと後段のミッションモデルを連携させるためのブリッジツールの存在が重要で、この変換作業によりシミュレーションを活用した解析が可能となる。同社でもその実現のために複数のツールを連携させることを推奨している。例えばSTKは地球周回衛星の軌道計算を行うために開発されたものだが、現在はミッションモデルのベースとしても活用されるようになっているほか、複数のモデルを連携させるツールとして「ModelCenter」を提供している。ModelCenterは、1つごとのツールブロックが連携し、どこかのブロックの内部の変数を変化させると、それと連動する周辺のブロックのアウトプットがどのように変化することが把握できるようになり、全体的な検討を速やかに行うことを可能とするものだという。
こうした連携により「上流のミッション要求にミートしていることを確認、その担保をもとに下流設計を進めることができるようになる」とする。
また、シミュレーションのプロセス管理などができるデジタルプラットフォーム「Minerva」は、デジタルデータを一括管理することでデータの一元化を可能とするものだとする。
MDAO+MBSEがもたらすメリット
こうしたデジタルエンジニアリング、その中でもMDAOとMBSEを組み合わせることでどのようなメリットを得られるのか。「従来の設計プロセスだと、ミッション達成のための解析ツールなどの開発には、計画を立てた後、ツールを開発してみてセットアップと条件ごとの実行、解析を繰り返して最適化を図っていく必要があった。これをMDAO+MBSEというデジタル化により、1回のセットアップだけで条件を自動で変えて検証を順次行っていくことが可能になる。構造のパラメータが物理シミュレーションに連携しており、値の変化がどこにどのように影響を与えるのかをシームレスに分析できるようになる」という。
講演ではエアバスの事例が紹介されたが、パラメトリックマッピングと振る舞いを活用してワークフローに接続をし、ModelCenterで物理モデルを構築し、運用シミュレーションを活用してミッションレベルの運用と対象の可視化を実現。要求が変化した際や、打ち上げ時の軌道がずれたときなども含めた検討ができたという。
なお、こうした事例に限らず、同社としては、国際競争力を確保するためにはデジタルエンジニアリングを基盤とした連携や一貫した開発による開発速度の向上やコスト削減、リスク低減などを図っていく必要があることを強調しており、そうした挑戦を宇宙ビジネスを推進するさまざまな日本の企業に対して提供し、ともに新しい宇宙開発の形を作り出していきたいとしている。










