宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月19日、X線分光撮像衛星「XRISM」が、超新星残骸「カシオペア座A」の観測により、爆発前の星の内部で塩素(原子番号17)やカリウム(原子番号19)といった、誕生の仕方がよくわかっていなかった奇数の原子番号の元素が、効率的に生成されていたことを明らかにしたと発表した。
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XRISMによるカシオペア座Aの観測イメージ。画像は、XRISMのXtendによって得られたX線画像(青色)とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって得られた画像(赤・緑色)を合成画像にしたもの。黄色のX線スペクトルに対し、Resolveの観測結果。(c)明治大学/京都大学/JAXA(出所:XRISM公式サイト)
同成果は、130名を超える国内外の研究者で構成される国際共同研究チームXRISM Collaborationによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
“奇数番号元素”供給源の新説を提唱
宇宙開闢時のビッグバンでは、水素とヘリウムが誕生すると共に、極めてわずかだがリチウムやベリリウムも誕生した可能性があるとされる。元素数はこれだけだったにもかかわらず、現在の宇宙には天然に存在する元素が約90種類も存在する。このうち、原子番号6の炭素から原子番号26の鉄までの原子番号が偶数の元素と、窒素など一部の奇数の元素は、星の中の核融合によって生み出されたことがわかっている。例えば、ヘリウム(α粒子)が3個融合して炭素ができるが、そこにさらにもう1個α粒子が融合すると、原子番号8の酸素となる。このように合成された新しい元素にα粒子が次々と融合する核融合反応が主体となるため、陽子が2個ずつ増える偶数元素が生成されやすいのである。
一方、鉄までの元素の中で合成過程に謎が多いのが、塩素やカリウムなどの奇数元素だ。原子番号7の窒素のように、核融合のCNOサイクルの過程で蓄積したことが判明しているものもあるが、一般的な超新星元素合成の理論計算によると、奇数番号元素を星の内部で効率的に合成するのは難しく、現在の宇宙に存在する量を説明できないという。塩素は生命活動を維持する電解質の1つであり、カリウムは神経や筋肉の働きに不可欠だ。これらが宇宙の歴史の中でどのようにして合成されたのかは、天体物理学の重要な未解決問題の1つとなっている。
XRISMに搭載されている高分解能分光装置「Resolve(リゾルブ)」は、従来の検出器よりも1桁高い分光性能を持つ。そのため、偶数元素に比べて存在量が少ない、奇数元素の探査に適している。そこで研究チームは今回、17世紀後半に超新星爆発を起こした大質量星の残骸として知られるカシオペア座Aを詳細に観測したという。
そして観測の結果、カシオペア座Aの放出物質から塩素とカリウムのX線シグナルを初めて明確に検出することに成功。またこれらの元素が、超新星残骸の南東部や北部などの、酸素が多く存在する領域に集中していることも判明した。このことから、星の進化と元素合成に関する重要な示唆を得られたとする。
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軟X線分光装置Resolveで取得されたカシオペア座Aのスペクトル(青)。従来のX線CCD(灰色)では判別困難だった塩素やカリウムの微弱なシグナルを、高いエネルギー分解能によって捉えることに成功した。上部パネルの拡大図では、カリウムを含む放射モデル(赤実線)が観測データをよく再現している様子が見て取れる。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)
一般に、爆発直前の大質量星は表層の水素からヘリウム、炭素、ネオン(原子番号10)、酸素、シリコン(原子番号14)、そしてコアの鉄まで「玉ねぎ状の元素分布」を示すと考えられている。ただし、各層がすべてその単一元素だけで構成されるわけではなく、実際にはさまざまな元素が混ざり合っている。しかし、この状態のままでは塩素やカリウムは効率的に生成されず、特に酸素が豊富な層にはほとんど含まれないことが元素合成計算により示されていた。
一方、何らかの理由で酸素層に対してすぐ上側のネオン層などが混ざり合うと、新たな核反応の経路が開き、奇数元素が効率的に生成される。つまり、カシオペア座Aにおける塩素やカリウムと酸素の共存は、超新星爆発の前に、酸素層とネオン層が激しく混ざり合ったことが示唆されるのである。なおこの大質量星内の層構造は、中心に向かうほど質量のある元素となるイメージがあるが、どのような元素が合成されるのかという点と、核融合のしやすさで決まるため、原子番号10のネオンが原子番号8の酸素よりも上層に位置すると考えられている。
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爆発直前の大質量星における「玉ねぎ状の元素分布」のイメージ。実際には、各層では多様な元素が混在するが、今回の観測により、本来は分離しているはずのネオン層と酸素層が激しく混合することで、塩素やカリウムが効率的に生成された可能性が示された。User:Rursus, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons(出所:XRISM公式サイト)
このネオンと酸素の層を混合させるメカニズムとしては、恒星内の対流や自転の効果、あるいは別の星との相互作用の影響などが考えられている。どの効果が主要な役割を果たしたのかは現時点では確定されていないが、今回の観測結果は、爆発前のカシオペア座Aの内部でネオンと酸素が混ざる激しい活動が起こった証拠とした。同時に、塩素やカリウムなど、生命維持に欠かせない塩素やカリウムが効率的に生成されるプロセスの理解に大きな手掛かりを得られたとしている。
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XRISMによる元素発見の意義。生命維持や惑星形成に不可欠な「奇数番号元素」の起源が、超新星爆発前の星内部における激しい擾乱にあることを突き止めたとしている。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)
今回の研究により、奇数元素である塩素やカリウムが爆発前の星の内部で効率的に生成されたことが解明された。しかし、今回示された新たな核反応過程の寄与が、現在の宇宙に存在するこれらの元素の量を説明するのに十分かどうかについては、まだ結論が得られていなかい。XRISMは今後、カシオペア座Aの未観測領域や、他の超新星残骸における生成組成を詳しく調べることで、「宇宙のレシピ」の全容解明を目指すとしている。