東京都立大学(都立大)は12月18日、順方向と逆方向で熱の伝わり方が異なる、熱制御技術の一種である「熱ダイオード」は、超伝導体と常伝導体の接合部が大きな熱抵抗を持つことが課題だったことから、高純度の鉛線を部分的に曲げて超伝導転移温度7.2K(約-266℃)以下の極低温まで冷却することで、接合部を持たない構造の熱ダイオードを作製することに成功したと発表した。

  • 実際に作製された鉛製の熱ダイオード

    実際に作製された鉛製の熱ダイオード。曲げ比率は50%となっている(出所:都立大プレスリリースPDF)

同成果は、都立大大学院 理学研究科 物理学専攻の増子優幸大学院生、同・Poonam Rani特任研究員、同・水口佳一准教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国物理学会が刊行する材料科学を扱う学術誌「Journal of Physics:Materials」に掲載された。

電子デバイスの高性能化・高集積化に伴い、熱流を自在に操る優れた熱制御技術が求められている。例えば、熱伝導率(物質の熱の伝えやすさを示す物理量)の大きさを変化させて熱流のON/OFFを切り替える熱スイッチング材料や、熱流方向に依存して熱の流れやすさを整流する熱ダイオード材料などだ。

超伝導体を用いた熱ダイオードは2013年に理論的に提案されたが、超伝導体-常伝導体接合において実験的に明確な熱整流が観測された報告は最近まで存在しなかった。研究チームは2025年10月に、鉛-アルミニウム接合による熱ダイオードの作製に成功したことを報告している。

しかし、接合部には熱伝導率の高いスズ-鉛ハンダが利用されたにもかかわらず、接合部の熱抵抗は非常に大きく、超伝導体を用いた熱ダイオード設計における課題となっていた。そこで今回の研究では、純度99.999%(5N)の高純度鉛線を加工して一部を曲げることで、接合部を持たない熱ダイオードの作製を試みたという。

このように鉛線を曲げて磁場を印加すると、線のおよそ半分には長さ方向に平行な磁場が、残りの部分には垂直な磁場が加わることになる。鉛船の熱伝導特性は、磁場の印可方向が長さ方向に対して並行か垂直化によって、超伝導転移温度約7.2K以下で大きく異なることが見出された(印加磁場H=400Oeでの熱伝導率の温度依存性)。つまり、鉛線を部分的に曲げることで異なる磁場応答を誘起し、その結果として熱整流が実現すると考えられた。

  • 鉛線の熱伝導率の温度依存性

    磁場400Oe下における、鉛線の熱伝導率の温度依存性(出所:都立大プレスリリースPDF)

実験では、測定端子を配置した4端子法により、資料の向きを反転させて順方向と逆方向の熱伝導率(κ)が測定された。ヒーターによる温度差と熱流量から、熱伝導率の温度依存性が測定された。その結果、複数の磁場条件下で熱整流が観測され、鉛-アルミニウム接合型熱ダイオードと同様に、印加磁場によって熱整流比(順方向の熱伝導率を逆方向の熱伝導率で割った比率)が最大となる温度が変化することが観測された。これは、磁場印加による鉛の超伝導転移温度の変化に起因するという。

  • 熱伝導率の測定セットアップと順方向と逆方向で期待される熱伝導率の差

    熱伝導率の測定セットアップと、順方向と逆方向で期待される熱伝導率の差(熱整流)(出所:都立大プレスリリースPDF)

さらに、曲げ率を40%と60%に変えた試料(40%-bentおよび60%-bent)についても、同様の測定が実施された。その結果、40%-bent試料では、熱整流比最大値が2を超える値が記録された。これは、順方向が逆方向の2倍も熱を伝えやすいことを意味する。

  • 順方向・逆方向の熱伝導率、順方向と逆方向の熱伝導率差、熱整流比の温度依存性

    50%-bent試料における(a)順方向・逆方向の熱伝導率、(b)順方向と逆方向の熱伝導率差(Δκ)、(c)熱整流比(TRR)の温度依存性(出所:都立大プレスリリースPDF)

  • 各試料におけるTRRの最大値の温度依存性と作製された試料の画像

    (a)曲げ率が40%、50%、60%の各試料におけるTRR(熱整流比)の最大値の温度依存性。(b)作製された60%-bentおよび40%-bent試料の画像(出所:都立大プレスリリースPDF)

現時点では、動作温度は鉛の超伝導転移温度約7.2K以下に限定されている。そのため研究チームは、さまざまな超伝導体での曲げ方や最適化により、動作温度の上昇や熱整流特性の向上を目指すとした。また、制御に要する磁場が数百Oeという弱磁場(一般的なフェライト磁石の1/10程度)である点は応用上のメリットであり、実用化の可能性も探索していくとした。

熱ダイオードは、熱制御技術分野で開発競争が激化している材料だ。今回の研究で接合なしの設計指針が示されたことは、今後の新材料開発の幅を広げる成果であるという。鉛の超伝導状態を利用するため動作は極低温に限られるが、微小な磁場と温度差で高効率に動作する点は特筆すべき優位性とする。今後、さらなる熱ダイオード開発が進むことで、低温動作電子デバイスの高性能化に貢献することが期待されるとしている。