キリンホールディングス ヘルスサイエンス研究所と富士通は12月17日、食品の新たな機能創出を目指し、AIを活用した創薬DX技術のひとつである「QSP(定量的システム薬理学)モデル」を用いた食品機能性シミュレーションに関する共同研究を開始したことを発表。またその結果、キリングループの協和発酵バイオが製造する「シチコリン」について、腸脳相関に関する新規作用メカニズムを示唆する知見を得たことも併せて明らかにした。
食品業界への展開も期待される創薬DX技術を活用
従来の創薬プロセスでは、多くの時間やコストが必要とされるとともに、ヒトでの有効性の証明確度向上にも限界があることが課題視されている。さらに近年では、医療ニーズの多様化や動物実験に対する制約強化により、創薬分野では効率的な研究開発が求められているという。
そうした課題解決に向けて、現場ではAIやデータサイエンスを活用したDX技術の導入が進んでいるとのこと。特に、DX技術によるバーチャル被験者生成や、生命現象に係る出た解析を駆使してコンピュータ上で生物学的・薬理学的プロセスや機能性を予測する“in silicoシミュレーション”などの手法は、動物実験を実施せずにヒトでの有効性証明確度の向上が見込める技術であり、創薬に限らず食品機能性研究などにも応用が期待されている。
そして今回の研究でキリンは、富士通とそのパートナー企業である仏・Nova In Silicoが有する先進QSP技術に基づくバーチャル被験者シミュレーションおよび細胞モデル実試験を組み合わせ、共同研究を実施。具体的には、シチコリンの代謝動態および作用に関わる受容体などの情報を、キリンが取得したデータや文献調査を基に収集した後、DX技術を活用してシチコリンの機能性を評価するQSPモデルを構築したとする。
そして同モデルを用いたシミュレーションにより、シチコリンの経口摂取が腸‐神経コリン作動性シグナルを高めること、腸におけるシナプス内のアセチルコリン(神経伝達物質)量が容量依存的に増加することが予測されたとのこと。併せて、腸管上皮細胞と神経細胞の共培養系において、シチコリンの腸を介した神経活性化が実試験においても確認されたとした。
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QSPモデルを用いた腸に存在する神経におけるコリン作動性リガンド結合受容体のシミュレーション評価(出所:キリンホールディングス)
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QSPモデルを用いた腸に存在するシナプス内アセチルコリン量のシミュレーション評価(出所:キリンホールディングス)
この結果を受け研究チームは、AI活用によってシチコリンが腸を介して神経を活性化する可能性を予測し、細胞系での実試験で裏付けたとし、また腸の神経が脳と深く結びつくことが知られる中で、シチコリンの腸脳作用メカニズムの一端が明らかになったとする。
キリンと富士通の両社は、食品機能性研究にDX技術を本格活用し得られた今回の先駆的事例について、脳機能サポートに重要なシチコリンの新たな生理機能解明に資する知見であり、シチコリンの健康機能性素材としての価値向上に寄与するとしている。
