東京大学(東大)、京都大学(京大)、福井県立大学の3者は12月11日、地球のような岩石惑星の誕生に不可欠とされるベリリウム-10(10Be)、アルミニウム-26(26Al)、塩素-36(36Cl)、カルシウム-41(41Ca)、マンガン-53(53Mn)、鉄-60(60Fe)などの「短寿命放射性核種」が、初期の太陽系にどのようにもたらされたのかという天文学の長年の謎を解決する新しい理論として、「宇宙線浴」メカニズムを提案したと共同で発表した。

  • 「宇宙線浴」メカニズムの概念図

    「宇宙線浴」メカニズムの概念図。超新星爆発の衝撃波が、原始太陽系円盤全体を包み込み、円盤内部で核反応を引き起こす様子(出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 総合文化研究科の澤田涼 学振特別研究員(現・東大 宇宙線研究所 特任研究員)、同・黒川宏之准教授(東大大学院 理学系研究科兼務)、同・諏訪雄大准教授(京大 基礎物理学研究所 基研特任准教授兼任)、同・瀧哲朗特任研究員、京大大学院 理学研究科のLEE Shiu-Hang 准教授(東大 カブリ数物連携宇宙研究機構 客員科学研究員兼任)、福井県立大 情報センターの谷川衝准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する学術誌「Science」の姉妹誌「Science Advances」に掲載された。

「宇宙線浴」メカニズムがもたらした新たな理論

地球のような岩石惑星の形成には、原始惑星系円盤内で材料の微惑星が、水やその他の揮発性物質を揮発させるプロセスが重要とされる。このプロセスを進行させるため、微惑星を内部から加熱したのが、短寿命放射性核種の代表格であり、半減期が約72万年の26Alの崩壊熱だ。

短寿命放射性核種とは、太陽系では、約46億年前に形成された最初期にのみ存在した、半減期が500万年以下の放射性同位体のことである。これらは現在は消滅しているが、隕石中にその崩壊の痕跡(娘核種)が残されており、太陽系初期の年代測定や物理環境を知る上で極めて重要な“時計”となる。これらの短寿命放射性核種は、太陽系がまだガスと塵から成る原始太陽系円盤だったころ、近傍で生じた超新星爆発によってもたらされたとする「注入モデル説」が長年有力視されてきた。

しかし、この注入モデルには2つの大きな課題があった。1つは、太陽系の隕石の証拠を説明できる量の短寿命放射性核種を供給するためには、超新星爆発が至近距離で起こる必要があるが、その場合、爆発の衝撃で円盤自体が破壊されてしまうという深刻な問題が生じる点だ。さらに、このモデルでは、隕石で発見されている多くの短寿命放射性核種の存在比率を、1つのシナリオで矛盾なく説明できないという課題も抱えていた。

このように、太陽系の惑星材料の“レシピ”を矛盾なく説明できる統一的なシナリオが存在しないことが、太陽系形成を紐解く上で大きな課題となっていた。そこで研究チームは今回、超新星爆発は物質を注入するだけでなく、その衝撃波の内部に高エネルギーの宇宙線を閉じ込めている点に着目したという。

今回の研究では、原始太陽系円盤が超新星爆発の衝撃波に包み込まれた際、一時的に「宇宙線の風呂」に浸かることで、宇宙線が円盤のガスや塵と核反応を起こし、26Alや10Beなどが円盤内部で「その場」合成されるという新理論「宇宙線浴」メカニズムが提案された。

この理論モデルに基づいた計算の結果、太陽系を破壊しない安全な距離である約1パーセク(約3.3光年)で起こった超新星爆発によって、隕石から推定される10Beから60Feまでのすべての主要な短寿命放射性核種の存在量を再現できることが示されたとした。

  • 各モデルが予測する短寿命放射性元素の存在量の比較

    各モデルが予測する短寿命放射性元素の存在量の比較。隕石から推定される初期太陽系の存在量(グラフ中央の「1」のライン)に対し、各モデルの計算値がプロットされたもの。今回の研究の「宇宙線浴」メカニズムは、主要な全元素を許容範囲(灰色の帯)内で説明できている。(論文の図1aが改変されたもの)(出所:東大Webサイト)

さらに、星が誕生する環境である星団においては、太陽のような星が1パーセク以内の距離で超新星爆発と遭遇する確率が10~50%に達することが、統計的に解明された。これは、太陽系が経験した「宇宙線浴」は例外的な幸運ではなく、宇宙ではありふれたプロセスだった可能性を示唆するものだ。今回の研究成果は、地球の誕生を偶然の奇跡ではなく、星団内で普遍的に生じうる自然な過程として捉え直すものであり、太陽系外における第二の地球探しに新しい理論的基盤を提供するとしている。