DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めたいがうまくいかない――。そういった課題を抱える企業は多い。では、先行してDXに成功した企業は、どう乗り越えたのか。10月28日に幕張メッセ(千葉市)で開催されたサイボウズの総合イベント「Cybozu Days 2025」では、DXのつまづきやすい3つの壁の乗り越え方について、2社の事例が紹介された。

「kintone先輩ユーザー2社に聞く!中堅・中小企業のDX推進の壁と乗り越え方」と題したセッションに登壇したのは、国内外へ自動車部品を届けるロジスティックカンパニーのエクセディ物流 人事総務グループ 有田英司氏と、土木 / 建築工事の請負業をメインとして新築住宅やリフォーム、売買仲介を行う後藤組 DX事業部 笹原尚貴氏だ。

セッションの中では、サイボウズ カスタマーサクセス部 林早織氏がモデレータ―を務めながら、2社のDXの取り組み内容や成功のポイントについて聞いた。

kintoneを使った理想的なDXの進め方とは?

林氏は冒頭、kintoneを使った理想的なDXの進め方を次のように説明した。

「いきなり全社的な大きな成果を目指すのではなく、中長期的に段階的に進めていくことを目指していただきたいです。最初から現場にアプリ作成を期待せず、まずは、身近な業務での活動を続けて(kintoneに)慣れることで、kintoneでこういったことができるというところを実感してもらってから、次にDX人材の育成のステップに進んでいただきたいです」

また、人材育成のステップでは、アプリの作り方だけではなく、業務や組織を改革できる人材を育てる意識が大事で、現場主体の業務改善を検討する必要があるという。それから徐々にDXの範囲を拡大していき、部門を超えた課題解決や、蓄積したデータ、ノウハウを生かして新たな価値創出向けたチャレンジを進めていく。

  • kintoneを使った理想的なDXの進め方(出典:サイボウズ)

    kintoneを使った理想的なDXの進め方(出典:サイボウズ)

林氏は続けて、「最初の利用・浸透がうまくいかない」「管理職層の協力を得られない」「DX人材育成を進めているが、なかなか現場の業務改善が進まない」というDXの3つの壁について、エクセディ物流と後藤組がどのように課題に向き合って解決してきたのかを聞いた。

  • DXを推進する上でつまづきやすい3つの壁(出典:サイボウズ)

    DXを推進する上でつまづきやすい3つの壁(出典:サイボウズ)

つまづきやすい3つの壁を乗り越える、2社のkintone活用例

エクセディ物流はデータドリブン経営に向け、紙やハンコの非効率な管理と運用、Excelでの煩雑な管理、内製ツール(Access)による管理の属人化という課題を解決し、ペーパーレスやデータの共有、ノーコードによるWebシステムを実現するため、kintoneを2023年に導入したという。

まずは、紙で処理をしていた全社員が使う各種申請をkintoneによりペーパーレス化。また、発注管理システムもkintoneによりデータ化を行った。

2024年には、タブレットとフリーWi-Fiを導入して、全社員がシステムを使える環境を整え、アプリ作成の研修を実施。2025年にDX人材育成研修を行ったという。

  • エクセディ物流のkintone導入から現在までの歩み(出典:エクセディ物流)

    エクセディ物流のkintone導入から現在までの歩み(出典:エクセディ物流)

一方の後藤組は、2020年にkintoneを導入。建設業の人材不足の中で、若手社員を1日も早く成長させたいという思いで、データ活用の基盤として導入したという。

同社はkintoneの導入から6年が経過するが、最初の半年~1年くらいは、担当の笹原氏が積極的にアプリを作成し、社員に使ってもらっていた。その後は全員DXに向け、全社員がアプリを作れるようにしていこうと、2021年頃から社内勉強会、DX大会、社内認定資格制度導入などを進めた。作成したアプリはすでに3000本を超え、今後はAIを利用したデータ活用を進めていくという。

  • 後藤組のkintone導入から現在までの歩み(出典:後藤組)

    後藤組のkintone導入から現在までの歩み(出典:後藤組)

「最初の浸透がうまくいかない」壁

エクセディ物流の発注管理システムは、社外の80社も利用するシステムだ。そのため、当初、社内には「本当に変えないといけないのか」という感情があったという。

「社内も社外もちょっと油断すれば、いつでも元に戻ってしまう。そんな気持ちになっていました」と、有田氏は当時の心境を語った。

そのため同社は、「最初の利用・浸透がうまくいかない」という壁を超えるため、質問を受けたらすぐに回答する、ほったらかしにしない、わからないときはフォローすることを心掛けたという。

  • エクセディ物流 人事総務グループ 有田英司氏

    エクセディ物流 人事総務グループ 有田英司氏

一方、後藤組の笹原氏は、担当部署とのコミュ二ケーションが当初うまくいかなかったという。

kintone導入当初は笹原氏がいろいろなアプリを量産して社内に配っていたが、なかなか利用してもらえなかった。

「当時、私は入社4年目くらいの社員で、それが一人で各部門長にアプリを配り歩きました。それが組織としてうまくいかないコミュニケーションになっていました」(笹原氏)

  • 後藤組 DX事業部 笹原尚貴氏

    後藤組 DX事業部 笹原尚貴氏

その後、日報アプリを全社展開にする際には、コミュニケーションの取り方に気を付け、しっかり社長の口から発信してもらう、利用する人がメリット感じるアプリを作るなど、その部署の人に使ってもらえることを意識した。

「やはり、キーマンになるのは管理職の方々なので、管理職の方には事前に根回しして、角が立たないコミュニケーションを取りました」(笹原氏)

林氏は、「最初の利用・浸透がうまくいかない」壁を乗り越えるポイントについて、2社の経験を踏まえ、「乗り越えたポイントは、立場に合わせてしっかりコミュニケーションを取ったことと、それを地道にコツコツ続けたことではないかなと思いました。コミュニケーションの大切さというのは当たり前のようですが、改めて意識していただきたい部分だと思います」とまとめた。

「管理職層の協力を得られない」壁

エクセディ物流が管理職層の協力を得られない壁を感じたのは、発注管理システムの浸透を乗り越え、現場の業務改善を進めていこうとする時期だったという。

一般社員研修を実施してkintoneの浸透を図ったがなかなか進展しなかったため、経営者・管理職向けに、自部門の業務改善を考えられるように、業務フローの作り方や問題解決思考を身につけるための研修を実施した。その結果、管理職がkintoneによる業務改革を自分目線で捉えるようになり、他人ごとでなくなったという。

  • 管理職向けの研修の内容(出典:エクセディ物流 )

    管理職向けの研修の内容(出典:エクセディ物流 )

後藤組でも当初は、管理職はkintoneによるDXに後ろ向きだったという。そこで同社は、強制的にkintoneアプリを作成する仕組みを作った。具体的には、管理職は社長とワンオンワンで毎月ミーティングを実施するが、その場で必ず作成したアプリを発表することにした。

「最初はイヤイヤやらされていましたが、kintoneアプリは1個の効果はそんなに大きくなくても、積み重なると残業時間も減り、管理職のみなさんの意識も変わり、自分からこういうアプリを作ってみたいという状況に変わりました」(笹原氏)

林氏は2社の事例を踏まえ、「問題解決志向を育成するような研修を実施したり、明確に責任を持たせたり、評価につなげる仕組みを作るなど、自分ごと化を促して工夫を続けたところがポイントだったと思います」と述べた。

「現場での業務改善が進まない」壁

エクセディ物流ではDX人材育成の本格期を迎え、当初はDXを推進するIT人材を育成する方針だった。しかし、なかなかそういう人材が現れなかったため、IT経験がまったくない人でも業務改善を推進できる人材へと育てることに方針を変更した。

そこで、3つの拠点から一人ずつ選出し、1年間DX推進プロジェクトのメンバーとして専任で研修させ、1年後に各現場に戻すという思い切った取り組みを行った。

1年間の研修では、業務改善のEラーニングを全55コース受けたほか、SEによる座学も行った。さらに実践研修として、お題を与えて課題解決したり、参加者が自分で課題を見つけ解決する研修に取り組んだ。その結果、参加者はIT関係の質問を受けたときに自分が答えられるようになり、すごく自信が付いたという。

「今はこの活動をもっと進めていかないといけないという気持ちです」(有田氏)

  • 1年間の研修の内容(出典:エクセディ物流 )

    1年間の研修の内容(出典:エクセディ物流 )

一方、後藤組では全員DXを推進するために、3つの取り組みを行った。1つ目は社内勉強会である「DXワークショップ」の開催。これは社員自身が講師役になって教え合う勉強会で、成績が最下位の受講者が次回の講師になるという。

2つ目が社内資格制度。これは、ペーパーテストではなく実技試験でスキルを認定し、合格すると資格手当がもらえるというもの。

3つ目がDX大会で、全社員が一同に会し推しのアプリをプレゼンする。社員投票によって優勝チームを決定する。

DXを推進するポイントとして笹原氏は2つのポイントを挙げた。1つは、取り組んだ人がきちんとメリットを享受できるような仕組みにすること。2つ目は社長や役員がkintoneを活用していくという方針を示すことだ。

  • 後藤組の人材育成の取り組み(出典:後藤組)

    後藤組の人材育成の取り組み(出典:後藤組)

最後に林氏は、2社の取り組みを踏まえ、「お二人の話の共通点としては、アプリの作り方や機能のインプットだけでなく、現場の課題とひも付けて考えられるような問題解決志向を養成する研修であったり、実践の場作りであったりを大事にされているところです。また、継続的な学習環境を用意されていたことも共通していたと思います」とコメントしていた。