富士通は12月1日、全固体電池の性能を大きく左右するSEI(Solid Electrolyte Interphase:固体電解質界面層)の形成過程について、これまで困難だった原子レベルでの構造解析を実現するMD(Molecular Dynamics:分子動力学)シミュレーション技術を開発したことを発表した。
この技術はNNP(Neural Netwok Potential:ニューラルネットワーク力場)を用いたMDシミュレーションにおいて、長時間にわたる安定的なシミュレーションを可能にする、知識蒸留技術を用いたNNPの訓練手法の開発によって実現した。
これにより、10万個を超える原子で構成した全固体電池の電解質膜と電極の界面構造の約10ナノ秒という長時間にわたる原子の挙動を、MDシミュレーションにより1週間の計算時間で再現できるようになったという。
開発の背景
近年は材料物性を原子レベルで高速かつ高精度に予測する手法として、NNPを用いたMDシミュレーションが注目されている。特にこの数年ではさまざまな種類の材料を含む数千万件のデータで訓練されたNNPが公開され(公開NNP)、活用が広がっている。
しかし公開NNPを用いたMDシミュレーションでは、全固体電池のような複雑材料はシミュレーション中に材料構造が崩壊する問題があった。さらに、大量のデータで訓練された多くの公開NNPでは、GNN(Graph Neural Network:グラフニューラルネットワーク)と呼ばれる、表現力は高いが計算速度が遅いアーキテクチャが採用されているため、10万原子を超える大規模系の長時間シミュレーションの計算には1年以上を要すると見込まれ、現実的ではなかった。
開発技術について
富士通は大量データで訓練された公開NNPの知識を、MLP(Multi Layer Perceptron:多層パーセプトロン)と呼ばれる計算が高速なアーキテクチャのNNPに転移することで、高精度な訓練を可能にする知識蒸留技術を開発した。
GNNで構成される公開NNPは、計算速度は遅いものの、数千万件ものデータで訓練されているために知識量は豊富だと考えられる。一方、MLPは計算が高速である反面、GNNと比較して単純な構造のアーキテクチャのため表現力に劣る課題があった。
そこで、公開NNPの持つ広範な知識と、シミュレーション対象の材料構造に特化した知識を、計算が高速なMLPで構成されたNNPに学習させることで、10万原子規模の大規模系の安定した長時間MDシミュレーションを高速に実行できるようになった。
開発した技術による成果
今回開発した技術を、次世代電池である全固体電池の電解質膜と電極の界面(原子数12万7296)に適用したところ、複雑な構造であったとしても、10ナノ秒にわたる安定した長時間MDシミュレーションを約1週間の計算時間で実行できることが確認された。
その結果、これまで実験や既存のMDシミュレーションでは困難であった、全固体電池の性能を大きく左右するSEIの原子レベルでの構造解析を実現したとのことだ。SEI形成は全固体電池の充放電サイクル寿命と安全性を決定づける現象であり、そのメカニズムの解明が望まれていた。今回開発した技術により、これまで未解明であった原子レベルでのSEIの形成プロセスが解析可能となり、SEI形成制御手法の開発の加速が期待されるという。

