ベゾス氏の再使用ロケット、双子の火星探査機を送り出す
打ち上げられたロケットが、エンジンを噴射しながら垂直に着陸する――。そんなSF映画のような光景を、イーロン・マスク氏率いる「スペースX」が日常のものにして、早10年が経った。
この間、ロケットの回収と再使用をめざし、多くの企業が開発や試験に挑んできたが、そのなかからついに、衛星打ち上げ用ロケットの第1段を着陸回収することに成功した2社目が現れた。実業家ジェフ・ベゾス氏が率いるブルー・オリジンだ。
2025年11月14日5時55分(日本時間)、発射台から飛び立った同社の新型ロケット「ニュー・グレン」2号機の第1段は、打ち上げから9分15秒後、自らのエンジンを噴射しながら減速し、フロリダ沖に待機する着陸船の甲板へと降り立ったのである。
今回のニュー・グレン2号機で打ち上げられた、米国航空宇宙局(NASA)の火星探査機「ESCAPADE」(エスカペイド)については、別記事で取り上げる。
人類を月へ送った「サターンV」に並ぶ巨大ロケット
ブルー・オリジンは、Amazonの創業者として知られるジェフ・ベゾス氏が、2000年に設立した民間宇宙企業で、ワシントン州ケントに本社を置く。ロケットや宇宙船、エンジンの開発・製造、打ち上げサービスなどを手掛け、とくに再使用型ロケットの技術に力を入れてきた。将来、数百万人が宇宙で暮らし働く世界を実現することを目標としている。
これまで同社は、サブオービタル(弾道飛行)用ロケット「ニュー・シェパード」によって、無人・有人の弾道飛行や宇宙旅行、実験ミッションを繰り返し実施してきた。また、メタン燃料ロケットエンジン「BE-4」や水素燃料エンジン「BE-3」などを自社開発し、その一部は他社ロケットにも供給している。
さらに、月着陸船「ブルー・ムーン」や商業宇宙ステーション「オービタル・リーフ」といったプロジェクトも進めている。
そうした構想を支えるロケットとして開発されたのが「ニュー・グレン」である。直径7m、全長98mの超大型ロケットで、かつて人類を月へ送った「サターンV」ロケットと近い大きさを持つ。
ロケットは2段式で、第1段にはメタン(天然ガス)と液体酸素を推進薬に使う「BE-4」エンジンを7基装備する。第2段には液体水素と液体酸素を推進薬とする「BE-3U」エンジンを2基装備している。
打ち上げ能力は地球低軌道に45t、静止トランスファー軌道へ13tとされ、現在運用されているロケットの中でもトップクラスの性能をもつ。
ニュー・グレンの最大の特徴は、第1段を回収し、再使用できる点にある。ブルー・オリジンは、第1段の打ち上げ、着陸、整備を一連のルーチンとして回し、航空機のように繰り返し運用できる宇宙輸送システムをめざしている。
第1段の上部には4つの空力フィン、側面には2つのストレーキ(細長い翼)、さらに窒素ガス・スラスターが備えられており、これらによって飛行を制御する。
大気圏再突入後は、ストレーキとフィンで揚力と姿勢を取りつつ、大まかなコースを調整し、姿勢制御用スラスターとエンジンの再着火で速度と姿勢を細かく制御しながら着陸船へ向かう。とくにストレーキは、降下中の第1段に揚力とクロスレンジ(水平方向への飛行距離)をある程度与えることを意図したもので、推進薬を消費することなく飛行コースを調整でき、着陸精度と安全性を確保できる利点がある。
下部には6本の着陸脚があり、打ち上げ時には折り畳まれ、カバーで保護されている。
機体の上部や下部、ストレーキなどは、同社が開発した「コメット」と呼ばれる茶色の耐熱材で覆われている。フィンやストレーキ、脚周りなど、再突入時に熱負荷が集中しやすい部分を集中的に保護し、何度も大気圏突入と着陸を繰り返せるようにしている。
第1段は、最低でも25回の飛行と再使用ができるよう設計されていると公表されている。初期の構想段階では、最大100回という数字が語られたこともあったが、現在の設計目標としては「最低25回」が明示されており、数十回単位で使い回すことを前提とした構造や点検・整備サイクルが検討されている。
着陸には、洋上に配備した船「ジャックリン」を使う。ジャックリンという名称は、ベゾス氏の母親の名前に由来している。
第1段が着艦すると、まず6本の着陸脚の足元に仕込まれた火工品が作動し、着陸脚と甲板を一瞬で溶着させる。ブルー・オリジンはこの仕組みを「energetic welding」と呼んでおり、荒れた海でも機体が傾いたり滑ったりするリスクを抑えるねらいがある。
クルーを乗せた支援船は数km離れて待機し、人が甲板に上がるのはブースターが安全であることを確認したあとになる。
その後、ジャックリンはタグボートに曳航されて港に戻り、岸壁でクレーンと治具を使ってブースターを水平に倒し、整備施設へ運び込む。そこで外装やエンジン、配管系統などの点検と必要な交換作業を行い、ふたたびロケットとして組み立て、そして打ち上げる。
2回目の飛行で回収成功。映画にちなんだニックネームも
ニュー・グレンの1号機は2025年1月16日に初飛行し、軌道への投入には成功したものの、第1段の回収には失敗した。
続く2号機は、日本時間11月14日5時55分(米東部標準時13日15時55分)、フロリダ州ケープ・カナヴェラル宇宙軍ステーションの第36発射施設から飛び立った。
第1段は正常に分離し、その41秒後、7基のBE-4のうち3基に再着火し、ブレーキング・バーンを実施して減速し、大気圏内を降下していった。さらに1分9秒後、中央のBE-4に着火して、着陸に向けたランディング・バーンを実施した。
第1段は4つの空力フィンとエンジンを巧みに操作し、発射場所から約600km沖合に浮かぶジャックリン着陸船の上空に到達した。着陸船や機体へのリスクを抑えるため、船から約100m離れた場所でいったんホバリングしたあと、打ち上げから9分15秒後にゆっくり着陸した。
なお、ニュー・グレンの第1段にはニックネームを付けることが慣習になりつつある。1号機の機体には、コメディ映画『ジム・キャリーはMr.ダマー』(原題:Dumb & Dumber)に登場する名台詞にちなみ、「So You’re Telling Me There’s a Chance」(チャンスがあるってことだよね)と名付けられた。今回の第1段機体には、映画『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』でハン・ソロが発した台詞「Never Tell Me The Odds」(確率なんて知るか)の名が与えられた。
第1段機体の回収と再使用という技術は、スペースXが「ファルコン9」ロケットで先鞭をつけた。ファルコン9は、いまから10年前の2015年に初めて第1段の回収に成功し、2017年には回収した機体を再び打ち上げて着陸させる再使用にも成功した。現在では、一部のミッションを除き、ファルコン9の回収と再使用は当たり前のものとなっている。
ブルー・オリジンは、衛星打ち上げ用ロケットの第1段の回収に成功した2番目の企業となった。
とくに、スペースXがファルコン9の第1段の回収に初めて成功したのは、海上への軟着水試験やドローン船への着陸試行など、複数回の試験を重ねた末の結果だった。それに対し、ブルー・オリジンはニュー・グレンの2回目の飛行で回収に成功しており、その達成は十分に賞賛に値する。
スペースXとは異なる技術で回収したニュー・グレン
ファルコン9とニュー・グレンを比べると、いくつかの違いがある。たとえば、ファルコン9はミッションによって着陸場所を洋上の船と陸上で使い分けるのに対し、ニュー・グレンは船への着陸のみを想定しており、陸上への着陸は現時点では計画されていない。
また、着陸時の挙動にも違いがある。ファルコン9は着陸場所に向けて減速しながら連続してエンジンを噴射し、そのまま一気に着陸するのに対し、ニュー・グレンは着陸船からいったん離れた場所でホバリングしたあと、横方向に移動しながら、よりゆっくりと着陸する。
ブルー・オリジンがこのような着陸プロファイルを選んだ背景には、安全性を重視していることに加え、ニュー・シェパードで培ってきた「ホバリング着陸」の経験があるとみられる。ニュー・シェパードのBE-3エンジンは深いスロットル能力を持ち、ブースターは着陸パッド上空でしばらくホバリングしたのち、横方向にわずかに移動してから静かに着地する。
一方、ファルコン9のマーリン1Dエンジンは、スロットルを最低にして状態でも、ほぼ空になった第1段の質量を上回るためホバリングができず、着陸と同時に速度をゼロに合わせるようにして着陸する方式(ホバー・スラム)を採らざるを得ない。ニュー・グレンは、ニュー・シェパードと同様にホバリングと横移動が可能な設計とすることで、まず船から離れた位置で安全を確認し、そのうえで船の動きに合わせて横方向にスライドしながら着陸するという、より慎重なプロファイルを実現していると考えられる。
ファルコン9による回収と再使用は、ごく一部の失敗例を除けば成功率がきわめて高く、再使用がすでに「日常」となっている。一方でニュー・グレンの試みはまだ始まったばかりであり、実際に第1段を何回まで再使用できるのか、回収から再打ち上げまでのターンアラウンド日数がどれくらいになるのかについては、今後の実績の積み重ねを待つ段階にある。
参考文献





