東京科学大学(科学大)は11月20日、次世代の低消費電力素子である「分子素子」の実現へ向け、固体酸化物中の有機分子に電気的に配線する手法を開発したと発表した。
同成果は、科学大 理学院 化学系の相場諒大学院生(研究当時)、同・西野智昭准教授、科学大 物質理工学院 材料系の西室碩人大学院生、同・金子哲准教授、物質・材料研究機構 ナノアーキテクトニクス材料研究センターの鶴岡徹博士、同・寺部一弥博士、産業技術総合研究所のマリウス・ビュルクレ博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノ/マイクロスケールを扱う学際的な学術誌「Small」に掲載された。
低消費電力の分子素子実現に光
AIの利用増加などにより世界の電力消費量が増加する中、持続可能な情報化社会の発展には、電子素子の省エネルギー性の向上が不可欠である。低消費電力素子として注目を集めるのが、分子の性質そのものをエレクトロニクスに活用した分子素子だ。これは従来の半導体とは異なる動作原理を持ち、軽量性、可撓性(かとうせい)・柔軟性、そして材料種の多様性の点で優れるとされる。
中でも、単分子が2つの金属電極に接続された「単分子接合」は、その金属-分子-金属構造体における電子輸送計測の結果、量子力学的電子輸送に由来する興味深い物性が報告されており、機能性の活用が期待される。しかし、これらを実際に素子として活用するために必要な、電極から素子への安定的な配線技術は実現しておらず、実用化への大きな課題となっていた。
こうした背景から研究チームは以前より、単分子接合の電子輸送特性の解明と構造解析に取り組み、単分子・単原子スケールでの構造と物性の解明に成功してきた。そして今回の研究では、固体電解質中でイオンの酸化還元反応と輸送を制御する「原子スイッチ」に着目。銀イオンのフィラメントを用いて、最も単純な炭化水素であるアセチレン分子への配線を試み、その状態の分光的な検出に取り組んだという。
原子スイッチは、固体電解質中で印加電圧により金属の酸化還元反応を引き起こし、イオンの溶出、固体電解質中でのイオン輸送、そして核形成反応を制御する仕組みである。その結果、固体電解質中でナノサイズの金属フィラメントの形成と破断を制御することが可能となる。
今回の研究では、原子スイッチを活用した単分子接合を作製するため、白金-タンタル酸化物-銀-白金の積層構造を持つ素子を作製し、タンタル酸化物薄膜中にアセチレン分子の吸蔵が行われた。この状態で、印加電圧により銀の酸化還元反応を誘起させ、銀原子によるアセチレン分子への配線が試みられた。
さらに印加電圧操作により、アセチレン分子導入時に特有な電気伝導度状態を観測し、対応する電気伝導度状態における「非弾性トンネル分光法」を適用。これにより、アセチレン分子の振動に由来したスペクトルを取得することに成功したという。
続けて、これらの結果に基づいた量子化学計算によるシミュレーションが実施された。その結果、観測された電気伝導度と振動エネルギーは、アセチレン分子が銀フィラメントに接続された状態に対応していることが明らかにされた。このことから、今回用いられた新しい手法は、有機分子への配線を実現するのに有効であると確認された。
今回開発された手法は、半導体プロセスを適用した素子作製技術を応用することで、固体中に保存した分子への配線を可能とする。今後、この技術を機能性分子へと応用すれば、低消費電力素子などの新たな分子素子の創生が期待でき、持続可能な社会の実現に貢献することが考えられるとした。
今回の研究は、最も単純な有機分子であるアセチレン分子への配線が実現された。研究チームは今後、今回開発された手法を発展させ、機能性分子への配線を実現し、機能性を有する新たな分子素子の開発に取り組んでいくとしている。

