富士通Japanは11月19日、医療機関のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するAI活用の事例に関する記者説明会を開催した。説明会には代表取締役社長の長堀泉氏が参加し、「当社はヘルスケア特化型AIエージェントの提供や、ヘルスケア領域における日本IBMとの協業、長崎県の医療機関とAIによる病院経営支援の実証などを進めてきた。電子カルテを提供してきた企業として、思いを持って医療機関の課題解決に取り組んでいる」と挨拶を述べた。
富士通Japanはヘルスケア領域で2030年に2500~3000億規模を目指す
厚生労働省の発表(2023年 医療施設調査票)によると、国内の電子カルテ導入率は一般診療所で55%、病院では65.6%だ。電子カルテの市場規模は約3000億円と試算され、その中で富士通は全体として32%、500床以上の病院では56%の市場シェアを持つ。
また、日本の医療機関は人口減少や医療ニーズの複雑化などを受け、医療従事者の疲弊をはじめ、経営危機などさまざまな困難に直面している。これにより、行政と医療と福祉の連携不足や、不安定な医薬品供給などの課題も顕在化している。
こうした課題に対して富士通Japanは、過去50年にわたる医療分野のナレッジ、イノベーションを創出するテクノロジー、社会全体を網羅するクロスインダストリーのノウハウを活用して、課題解決を支援する。
ヘルスケア事業本部長の桑原裕哉氏は「当社はこれまで電子カルテベンダーと呼ばれることが多かったが、その取り組みを一歩進めて、医療機関のパートナーとなることを宣言したい」と述べていた。
同社は今後、2段階のステップで医療機関のDXを支援するという。まずは現時点の電子カルテシステムを中心とした診療支援のDXから、2030年にはセキュリティ支援や業務最適化コンサルといった病院全体のDXをサポートする。このデジタルホスピタル領域は約8800億円の市場が見込める。2030年に同社は、このうち約2500億円から3000億円程度のシェアを狙うとしている。
2段階目のステップでは、コンピュータシミュレーションを活用したインシリコ創薬による新薬開発や、ヘルスケアエコシステムによるオーダーメイド医療など、ヘルスケア全体のDXに挑戦する。このヘルスケアトランスフォーメーション領域は1.9兆円の市場規模が期待できるとのことだ。
医療機関を支援する3つの取り組み
富士通Japanは2020年頃より、複数のユースケースで医療機関の業務効率化を支援するAIサービスを展開してきた。その例として、看護師の配置を最適化するサービスでは、病棟間の応援調整や勤務調整など看護師長の調整業務を月6.6時間削減した。
また、AI問診では問診の確認からカルテに記載する業務を患者一人当たり40%削減したほか、手術のスケジュールを調整する業務は最大40%削減できたという。リハビリにAI運動支援サービスを利用した結果、評価に対応する時間は患者一人当たり88%削減された。
これらの実績に加え、同社は今後、医療機関の経営判断を支援するデータ分析AIサービス、医療文書の作成を支援するAIサービス、重症化の兆候やガイドラインからの逸脱を検知しアラート通知する医療安全AIサービスなど、単一の業務ではなく病院全体の効率化に貢献する複数のAIサービスを提供開始予定だ。
ヘルスケア事業本部 第二ヘルスケアソリューション事業部長の大西享氏は今後の重点領域として、「経営支援」「働き方改革」「新しい患者体験」の3つを上げた。以下にそれぞれ紹介する。
経営支援
地域医療の中核を担う急性期病院では、手術や入院加療が必要な患者をスムーズに受け入れ、適切な期間に高度な治療を実施することが重要となる。そのためには診断から治療、その後のフォローに至るまで、一連のプロセスのデータをつなぎマネジメントしていく必要がある。
これに対し富士通Japanは、病院経営層と現場をつないで経営を完全する「HealthCare Management Platform」を構築する。病院向けには経営課題の発見と意思決定をサポートする「Dashboard360」を2025年10月より順次提供開始しており、医療現場向けには日常業務のバディとしてサポートする「Contents」を2026年4月より提供する。
また、両サービスをつなぎ、経営層と現場の架け橋となる「Navigation Service」を2025年6月より提供開始している。
働き方改革
医療機関の経営が改善し稼働率が向上すると、現場の業務負荷が新たな課題となる。これに対し同社は、人間の業務をAIに任せるタスクシフトによって、現場の効率化を支える。
名古屋医療センターにおいて、退院サマリの作成をAIが行う医療文書作成支援サービスを活用した結果、1患者当たりのサマリ作成時間は約28分から8分へと71.2%削減されたという。これを年間のコストに換算すると、約5000万円の削減効果に相当するインパクトがあるとのことだ。
名古屋医療センターでは医師51人が利用申請し、結果的には16人が142件のサマリ作成に利用した。特に消化器内科、外科、整形外科、腎臓内科での利用が多いという。同センターの佐藤智太郎氏は「どの診療科も出力結果の精度は高い。生成AIの出力を各印して人手で補正や抜粋が必要な場合もあるがおおむね必要な情報は網羅されている」とコメントした。
さらに、「カルテに記載した文書をコピーしてプロンプト画面にペーストする作業は時間がかかる。ワンクリックで操作できれば多忙な医師でも使い続ける可能性が高い。また、生成AIの学習データが古いままだと薬剤の名称や適応、検査名、医療機器などが誤ったままサマリとして生成されるので、最新データへの更新が重要となる」とも述べていた。
新たな患者体験
新たな患者体験の創出に向けては、ヘルスケアMaaS(Mobility as a Service)による通院のサポートが紹介された。これは、電子カルテと乗合型送迎車両(デマンドバス)配車システムとの連携により、病院へのアクセス向上と送迎の待ち時間を短縮する取り組みだ。
医療機関のシステムに蓄積された予約データなどから離院時間をAIが予測し、待ち時間なく送迎車両を配車する。免許返納などに伴って交通手段を持たない高齢者を中心に利用を促し、通院機会を提供するとのことだ。
大西氏は「生成AIは機能としての活用が進み、マルチモーダル化によって業務フロー全体の最適化に進化を遂げている最中。遠くない将来には、エージェント型AIが医師や看護師の業務の中核になるだろうと予想している。AIが一体化された電子カルテなどのサービスが医療機関の経営と現場に溶け込み、当社の目指すデジタルホスピタルに早く到達できるよう取り組んでいく」とビジョンを語った。









