九州大学(九大)は11月12日、「ハダニ」の天敵として知られるものの、これまで生息種やその分布が不明瞭だった日本産の「ダニヒメテントウ」族(Stethorini)について、国内外に所蔵される約1700個体の標本を詳細に解析した結果、日本には8種のダニヒメテントウ類が生息し、そのうち2種は新種であることを明らかにしたと発表した。

  • マツダニヒメテントウの成虫と生息環境の様子

    (左)マツダニヒメテントウの成虫。(右)九大 箱崎サテライト(九大 総合研究博物館前)での生息環境の様子(出所:九大プレスリリースPDF)

同成果は、九大大学院 生物資源環境科学府の関崚大大学院生と九大 総合研究博物館の丸山宗利准教授の共同研究チームによるもの。詳細は、昆虫に関する研究を扱う学術誌「Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae」に掲載された。

“天敵”としての害虫防除にも期待!

ハダニは、体長が約0.3~0.5mmと微小で、植物の葉に寄生して汁を吸うダニの仲間。野菜や果樹など、多くの作物に被害を及ぼす害虫である。高温・乾燥条件で繁殖が盛んになり、吸汁により葉が白い斑点や黄変を生じると、植物の光合成能力が低下して生育が悪化してしまう。そして、ハダニは薬剤抵抗性を容易に獲得することから、ダニヒメテントウやカブリダニ類などの天敵を利用した「生物的防除」が有効とされる。

生物的防除とは、農業や林業などにおいて、ハダニにとってのダニヒメテントウなどのような天敵を利用し、害虫を駆除したり、病害を抑制したりする防除法を指す。化学農薬とは異なり、環境への影響が少なく、作物や人への安全性が高いことが特徴で、持続的で環境調和型の害虫管理に貢献する。

当然ながら、ダニヒメテントウ族を生物的防除に利用するためには、この昆虫のことをよく知る必要がある。しかし、これまで日本に何種生息し、北海道から南西諸島にかけての各地域でどのように分布し、その種構成がどうなっているのかなどは不明だった。

十分な研究が進んでいない理由としては、ダニヒメテントウの成虫が体長約1~1.5mmと非常に小型で、体色もほぼ黒一色のため、外見による識別が極めて困難であることが大きいとのこと。加えて、雄交尾器など、微細な内部構造の観察が不可欠なことから、分類学的な整理が長年停滞していた。そこで研究チームは今回、全国各地および海外で収集された標本を精査し、形態的特徴を詳細に比較・検討することで、日本産ダニヒメテントウ族の全体像を明らかにすることを目指したという。

今回の研究では、九大 総合研究博物館を中心に、全国や海外の研究機関に所蔵されている1700個体以上の標本を詳細に調査した結果、日本には8種のダニヒメテントウ族が生息していることが判明した。またこのうちの2種は日本初記録種、2種は新種であることも明らかにされた。

特に注目されたのが、日本から初めて記録されたニセダニヒメテントウ属(Parastethorus)の新種「マツダニヒメテントウ」(Parastethorus pinicola)だ。同種は東京都、岡山県、福岡県、沖縄県で確認されており、マツ類に発生するハダニ類を捕食する重要な天敵である可能性が示唆された。

また、福岡県では九大 箱崎サテライトの敷地内に植栽されたクロマツからも採集されており、九大構内の緑地が、多様な生物の生息環境として重要な役割を果たしていることも示されたとのこと。そして、大学キャンパス内の自然環境で新種発見がなされることは、生物の生態研究の場となり得る。この点は、都市部での緑地保全の重要性を再認識させる成果といえるとした。

今回の研究により、日本に生息するダニヒメテントウ族の多様性が初めて体系的に明らかにされた。今後は、各種の生態的特性や捕食行動を解明し、ハダニ類などの農業害虫に対する天敵としての有効性を評価することで、生物的防除への応用など、実践的な研究の発展が期待されるとする。また、ダニヒメテントウ族は形態のみでの識別が難しく、世界的にも種多様性が未解明なグループであるため、今後はDNA解析などの分子系統学的手法も活用し、種の同定精度の向上や、新たな有効天敵種の発見を目指すとした。

さらに、アブラムシ類やカイガラムシ類を捕食するヒメテントウ族など、他の微小テントウムシ類についても未解明な点が多く、包括的な分類学的再検討が求められているものの、こうした研究の推進には、キャンパス内外の緑地や自然環境の維持・保全が欠かせない。そのため研究チームは、生物多様性を育む場を身近な環境として守りながら、その中で新しい発見を積み重ねていくことこそが、今後の昆虫研究の発展にとって極めて重要としている。