東京慈恵会医科大学は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック後の、日本における受療行動の変化を全国規模で調査。診療所や一般病院への受診はパンデミック期に大きく減少し、収束後も完全には回復せず約6割に留まっていることがわかったと、10月31日に発表した。

  • Ecology of Medical Careモデルによって可視化した受療行動の変化。過去1か月間に生じた健康問題に対する受療行動を図示している(住民1,000人当たりに換算) <br />(出所:東京慈恵会医科大学ニュースリリースPDF)

    Ecology of Medical Careモデルによって可視化した受療行動の変化。過去1か月間に生じた健康問題に対する受療行動を図示している(住民1,000人当たりに換算)
    (出所:東京慈恵会医科大学ニュースリリースPDF)

同大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部の青木拓也准教授、松島雅人教授の研究チームによる調査で、研究成果は英文誌「Journal of General and Family Medicine」へ2025年10月30日に掲載されている。

この研究では、全国約3,000人を対象とした住民調査を行い、パンデミック前とパンデミック期、パンデミック収束後の3時点を比較。「症状出現時の受療行動」がどのように変化したかを調査した。その結果、外来受診が大きく減少し回復していない一方で、救急外来の利用はパンデミック前より増えており、受療行動の長期的・構造的な変化が生じている可能性も示唆している。

同大では、この研究は「レセプトデータでは見えにくい『症状出現時の受療行動』を直接調査した点に特徴がある」としており、「パンデミック後の受療行動の変化を正確に把握することは、プライマリ・ケア体制の構築や医療アクセスを確保するための政策立案に不可欠。アフターコロナの持続可能な医療提供体制を検討する上で、ひとつの科学的基盤を提供するもの」と研究意義を説明している。

研究の詳細

COVID-19パンデミックは、感染への不安や外出制限により、世界的に受療行動を大きく変えた出来事だった。先行研究では、パンデミック期の短期的な受診減少が報告されてきたが、感染症法上の分類が見直され、社会が日常を取り戻しつつあるパンデミック収束後において、「医療利用がどの程度回復したのか」、また「どの層で受診控えが続いているのか」についてはわかっていなかった。

今回の研究では、特定の集団における一定期間中の受療行動パターンを可視化する「Ecology of Medical Careモデル」に基づき、パンデミック収束後の医療利用状況を調査。日本におけるパンデミック前およびパンデミック期の結果と比較することを目的とした。さらに、住民の社会人口統計学的要因や、臨床的要因別に、パンデミック期とパンデミック収束後の医療利用変化の差異についても調査した。

今回は、「National Usual source of Care Survey(NUCS)」の2021年(パンデミック期)と2024年(パンデミック収束後)のデータを用いた反復横断研究という手法を用いて調査。NUCSは、約7万人の全国一般住民パネルから層化抽出法を用いて抽出された成人を対象に実施された郵送調査であり、2021年は1,747名、2024年は1,245名の計2,992名が解析対象になっている。

主な評価項目は、過去1カ月間に生じた、症状や外傷といった健康問題に対する受療行動。具体的には、診療所や一般病院外来、大学病院外来、救急外来のほか、往診の利用や、補完代替医療の利用、入院について評価した。

また住民属性としては、年齢や性別のほかに、教育歴、世帯年収、慢性疾患の有無を調べた。受療行動は、前出のEcology of Medical Careモデルを用いて記述的に分析を行い,パンデミック前に日本で実施された研究の結果とも比較した。

その結果、症状出現時の診療所受診は、パンデミック期の2021年の月間1,000人当たり113件から、パンデミック収束後の2024年には165件へと増加したことが判明。

しかし2024年の診療所受診は、パンデミック前の2013年の月間1,000人あたり265件の62.2%に留まっている。同様に、パンデミック前と比較した2024年の一般病院受診は71.7%であり、診療所と一般病院を合わせた受診は64%に留まった。

一方で、救急外来受診は2021年の月間1,000人当たり2件から2024年には10件に増加し、2013年を上回った。なお、その他の医療利用については、2021年から2024年にかけて有意な変化は認められなかったとのこと。

このほか、年齢や性別、学歴、世帯収入、慢性疾患の有無によるサブグループを解析した結果、2021年から2024年にかけての診療所受診の回復は、若年層、女性、低学歴層、高所得層、慢性疾患のない層で小さい傾向が認められたと説明。こうした層では、診療所受診の回復が特に遅い傾向があるとみている。

こうした結果を受け、研究チームは「感染不安の持続、軽症時の自己判断、OTC薬などのセルフケア志向が背景にある可能性があり、受療行動の長期的・構造的変化を示す結果だ」と指摘している。