日本旅行と将来宇宙輸送システム(ISC)は10月28日、両社が2024年9月に締結した「誰もが行ける宇宙旅行事業の実現を目指した業務提携」に基づく共同検討を経て、今般、宇宙旅行事業の“商用化フェーズ”に向けた新たな業務提携契約を締結したことを発表した。
これに際し両社は、10月28日から31日までの4日間にわたり“宇宙産業の集積地”としての場づくりが進む日本橋を舞台に開催中の「NIHONBASHI SPACE WEEK 2025」内にて、メディア向け説明会を実施。提携の目的や今後の展望、将来的な想定サービス価格などについて説明した。
再使用型ロケット開発を進めるISCが“サービス化”に着手
2022年創業の宇宙スタートアップであるISCは、「毎日、人や貨物が届けられる時代。そんな当たり前を、宇宙でも。」というビジョンを掲げ、完全再使用型の単段式宇宙往還機(再使用型ロケット)「ASCA」の開発により、同機を用いた低価格・高頻度宇宙輸送を行うことを目指している。
同社の具体的なロードマップとしては、2028年までに再使用型の人工衛星打ち上げ用ロケット(ASCA 1)の開発を実現し、その後2032年までに有人宇宙輸送を可能にするロケット(ASCA 2)の開発を目指すとのこと。そして段階的な実用化を経て、2040年代には単段式再使用型ロケット(ASCA 3)による高頻度・大量・安価な宇宙輸送を実現したいとする。
ISCの代表取締役社長を務める畑田康二郎氏は、「我々だけで宇宙開発を実現できるとは思っていません」と話し、同社のロケット開発方針として“自前主義からの脱却”を強調する。
これまで国内の宇宙機開発では、可能な限りすべてのコンポーネントを自社で開発し、1機のロケットを開発する方針が一般的だったとのこと。しかしその課題として、難易度の高いロケット開発におけるすべての要求を基本的に社内でクリアする必要があるため、幅広くハイレベルな知見が要求されるとともに、開発期間の長期化やリソースの不足など、さまざまな課題を乗り越える必要があった。
対してISCは、外部企業とのパートナーシップ関係を積極的に構築し、専門的な知見を効率的に獲得。ロケットの主要部であるエンジンについては、自前での技術開発は進めつつ、並行してロケットエンジン開発を専門とする米・Ursa Major Technologiesとの協業も行うなど、スピード感のあるロケット開発を進めている。
そして同社は、ロケット開発の先に見据える“サービス提供”の部分についても取り組みを本格化した。将来的な“宇宙旅行”のサービス化に向けて2024年9月に開始された日本旅行との業務提携により、宇宙旅行事業構想を具体化させてきたといい、いよいよ今般その商用化に向けた本格的な動きを始動するため、今回は新たな業務提携契約に調印。「宇宙旅行サービスの商品化」「最高な宇宙旅行体験に向けた実証」「展示会やイベントなどでの共同発信」の3分野を中心に、協議を進めていくとする。
“Ver 1.0”は宇宙で実現可能なディナーなどを提供
両社によると、今回の連携は、これまで進められてきた宇宙旅行事業構想をさらに進展させ、商用運用に向けた販売・運営・体験設計の体制を構築するとともに、宇宙旅行を「学び・地域・社会とつながる体験」へと拡張することを目的に掲げるとのこと。それぞれが有する知見やネットワークを活用し、各種サービス設計や教育連携、地域観光振興など包括的な検討を行うという。
なお日本旅行の代表取締役社長兼執行役員を務める吉田圭吾氏は、現時点での宇宙旅行の長期的ビジョンとして「SPACE Tour 1.0~3.0」を掲げる。2026年度のサービス具体化を目指す1.0では、「地球上で体感する宇宙」として、教育現場向けのプログラムや国内各地で構想される“宇宙港”など関連施設へのツアーを構想。また、将来的な実現が期待される宇宙での食料生産を見据え、宇宙での生産が可能な食材を使用した宇宙食の体験なども検討される。
なおNIHONBASHI SPACE WEEKの「EXHIBITION」内に展開されたISCブースでは、「The Moon Diner」と銘打った料理のサンプルが展示されている。その総合監修を務めたのは、ルイ・パストゥール先端医療研究所の特任研究員でありながら、ルナロボティクスのCEOも務める岡田拓治氏。これまでにも月面や火星での食体験をデザインしてきた岡田氏によれば、この食事は「月面で生産が可能になりうる食材のみを使用している」といい、米や大豆、トマトなどの“月産食材”8品目を使いつつ、調味料などについても月面での生産が可能なもののみを用いることで、「地球から運搬するペイロードは塩や麹菌など最低限に抑えて、残りは月面で調達・調理が可能なディナーとして徹底的に作り込んでいます」と話す。
日米を60分で移動する高速輸送や宇宙での宿泊も構想
また2030年代の実現を目指すSPACE Tour 2.0では、地球上の2地点間を60分以内で移動する、宇宙経由の地上移動を画策。これが現実となれば、東京‐ロサンゼルス間が約60分で移動可能になる可能性もあるなど、まさに“次世代の輸送モード”となる。
そして2040年代には、ASCA 3によって宇宙空間や軌道上への一般旅行者の滞在を可能にするSPACE Tour 3.0の実現を目指すとのこと。“宇宙ホテル”への宿泊や、研究・観光施設を活用した宇宙滞在など、充実した旅行体験の提供を見据えているとのことだ。
日本旅行の吉田氏は、これらの計画について「決して夢物語などではない」とし、「今後の実運用を見据えた技術開発ロードマップに基づいたものであり、継続性および経済性の観点から段階を分けて社会実装を進めていきたい」と語った。
来年度には“優先申し込み権”の受付を開始予定
なおSPACE Tour 2.0および3.0については、「サービス優先申し込み権」の受付を2026年度中に開始することを目指すとの考えも示され、そのための体制も正式に構築すると発表。この申し込みの詳細については順次発表される予定だというが、吉田氏は現時点でSPACE Tour 2.0にあたる2地点間の宇宙経由移動について、「概ね1億円程度での提供になると想定している」と明かした。そして併せて、「まだ低価格でのサービス提供はすぐには難しいですが、将来的には幅広く手が届く価格帯にしていきたい」とコメント。まずは1桁レベルでの価格低減を目指していくといい、ISCの畑田氏はその実現に向け、「ロケットの繰り返し使用できる回数が増えれば増えるほど、打ち上げにかかる費用は抑えられるため、ASCAの再利用能力を高めることでサービス価格の引き下げを実現していきたい」と語った。
畑田氏は会見の中で「日本国内のさまざまな技術力を結集できれば、難易度が非常に高いとされる宇宙開発、特に高い安全性が求められる有人宇宙輸送についても、必ず実現できると確信しています」と強調した。そして「再利用ロケットによる安全な有人宇宙輸送を実現した上で、サービスとしても顧客に安心感を与え、快適な“旅の経験”をお届けしていく」との意気込みのもと、「宇宙での活動をもっと身近なものにしていけるよう、協力して取り組んでいきます」と語った。






