ソフトバンクは、通信業界向けの生成AI基盤モデル「Large Telecom Model」(LTM)の開発において、データの学習から運用まで日本国内で完結する国産AIモデルに発展させたと10月29日に発表。モバイルネットワークの運用業務の効率化や高度化を目的に、国産AIモデルに発展させたLTMの社内利用を開始した。
同社では、モバイルネットワークの運用業務の効率化・高度化を実現するLTMの開発を2024年から進行中。LTMの活用で、ネットワーク運用プロセスの設定変更などに要する時間を数日から数分へと大幅に短縮できるようになり、属人化の解消や人為的ミスの防止、作業時間の大幅な削減が期待できるとみている。
国産AIモデルに発展させた今回のLTMは、SB Intuitionsの国産LLM「Sarashina」(さらしな)を組み合わせることで実現。ソフトバンクが持つ通信ネットワークのデータや、設計・管理・運用ノウハウといった独自のデータを、国内のデータセンターで学習・推論させることで、安全性や主権性を兼ね備えた生成AI基盤モデルに仕上げたとのこと。
従来のLTMは、汎用的なLLMをベースに構築しており、ライセンスの取り扱いに課題があったという。また、英語データを中心に学習したLLMでは、日本語の複雑なニュアンスや文脈を正確に理解・表現することが難しかった。
そこで国産LLMのSarashinaを組み合わせ、データの学習から運用までを国内で完結させ、機密情報を安全に取り扱える国産AIモデルを実現。日本語の複雑な文脈や専門用語などを正確に理解し、高度な表現で運用業務を支援することが可能になったほか、高いセキュリティー環境下で利用できることから、将来的に外部の事業者へのサービス展開を検討することもできるとしている。
通信品質向上に向けた検証、花火イベント時の通信集中を高精度で予測
同社ではこのLTMの社内利用をはじめ、さらなる高度化と応用範囲の拡大に向けた取り組みを進めており、特に基地局の設定の最適化や、通信品質の向上を目的としたユースケースを検証している。
一例として挙げているのが、大規模イベント開催時の基地局の設定の最適化だ。急激に変化する通信状況を事前に予測し、当日の環境を正確に把握する必要がある。
そこでLTMをファインチューニングし、任意の時点における基地局の通信品質を予測する「通信品質予測特化型モデル」を開発。対象エリアで予想される端末接続数や基地局の周波数、設定変更の対象となるパラメーターなどを入力することで、通信品質の予測結果を生成できるという。
ソフトバンクは実際の活用事例として、東京・北区で9月27日に開催された「北区花火会」の通信品質予測について紹介。このエリアはトラフィックが集中しやすく、複数の基地局からの電波が重なるため、1,000件以上の基地局の状態をLTMに入力し、各基地局の接続数の変化などを予測した。当日の実測データと比較すると、周波数ごとの通信品質を90%以上の精度で予測できることを確認できたという。
LTM自体による“専門家以上の運用高度化”に期待、思考過程の“見える化”も
ソフトバンクではさらに、強化学習の導入によるLTMの高度化も進めており、AIが最適な通信環境を実現するために自律的に学習を行う環境を構築。LTMの高度化に向け、Chain of Thought(CoT、AIが最終回答を導き出す前に、途中の思考過程を段階的に生成する手法)や、強化学習の知見を取り入れた推論モデル(Reasoningモデル)へとアップグレードした。
後者は、数学的な計算や論理的分析といった、従来の非推論モデルが苦手としていた高度な推論が行えるという。思考過程の可視化することで、LTMの判断根拠を人間が確認して分析することもできるという。
さらに、推論モデル化に使用される強化学習を応用した、新しいLTMのユースケースの創出にも取り組む。
そのひとつとして、電波伝搬シミュレーターから得られた結果を基に強化学習の報酬を設定することで、LTMが最適な電波環境を実現するために自律的に学習を継続する環境を構築。これにより、従来の教師あり学習(あらかじめ正解データを与え、モデルの出力が正解に近づくように学習させる手法)による専門家の判断の模倣ではなく、LTM自体が専門家以上の運用高度化を行うことが期待できるとのこと。
