北海道大学(北大)は10月17日、炭素質隕石中に残存していた星間塵の一種である「炭化ケイ素(SiC)星間粒子」に含まれるヘリウム原子の3次元分布をナノスケールで分析することに成功し、個々の星間粒子の一生で、いつ、どこで、どのようにして、本来は含まれないはずのヘリウム原子を捕獲したのかを解明したと発表した。

  • M57において、SiC星間粒子が惑星状星雲の中心星の恒星風を受けているイメージ

    M57において、SiC星間粒子が惑星状星雲の中心星の恒星風を受けているイメージ。今回の研究では、このイメージのような場所で恒星風を受けた太陽系形成以前のSiC星間粒子が発見された。図中のSiC粒子の実際の大きさは約3μm。M57のクレジット:ESA/Webb, NASA, CSA, M. Barlow, N. Cox, R. Wesson(出所:北大プレスリリースPDF)

同成果は、北大大学院 理学研究院の馬上謙一助教、同・圦本尚義教授、米・ワシントン大学の甘利幸子教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

“星間粒子”の起源や進化の解明に光

ケイ酸塩や炭素化合物、氷などの微粒子である星間塵は、惑星の形成時の主要な材料の1つだ。しかし、宇宙で星間塵を直接採取するのは容易ではない。そのため、これまで全体が溶融したことがない小天体由来の「コンドライト隕石」中に、数千分の1~数万分の1の割合で含まれている星間塵が分析に用いられている。

隕石中で最も多く含まれる星間塵がSiCだ。ダイヤモンド、炭化ホウ素に次ぐ硬さを持つSiCが、宇宙のどこで生み出されるのかといえば、主に「星間塵の製造工場」とも呼ばれる「漸近巨星分枝星(ぜんきんきょせいぶんしせい)」(AGB星)の周囲である。

AGB星は、太陽の約0.8倍から約8倍までの小・中質量星が晩年に迎える「赤色巨星」の過程における、最終盤の数百万年ほどの段階を指す。まず赤色巨星になってしばらくすると、ヘリウムが核融合を始める「水平分枝星(すいへいぶんしせい)」に移行し、これが数千万年ほど続く。

そして、その次がAGB星の段階だ。この段階では、主に外層物質を構成する水素やヘリウム、わずかながら炭素などを放出し、惑星状星雲の形成が始まる。その放出物質には、さらにごくわずかだが、窒素や酸素、シリコンなども含まれる。そして星の組成次第では、噴き出す物質の中にSiCも含まれるようになる。

AGB星の終焉により赤色巨星の段階も終了し、この後は恒星として完全に最後の段階である「惑星状星雲中心星」となる。この段階は数千年から1万年ほど続き、恒星風の噴き出し方がより激しさを増す。その結果、外層が放出されきってしまうと、質量喪失の結果として核融合反応が停止する。これにより星は死を迎え、残された炭素や酸素などからなるコアが白色矮星となる流れだ。白色矮星は強い紫外線で「生前」に放出した物質を照らし、惑星状星雲が美しく輝く。やがて、時間の経過と共に放出された物質は星間空間に散逸し、また新たな星の材料となるのである。

このように、星の生と死のサイクルに関わるSiC星間粒子だが、成分とすることができないにも関わらず、最大で約1%もヘリウム原子を含んでいる点が大きな謎とされていた。そこで研究チームは今回、その謎を解明すべく、ヘリウムの三次元分析をナノスケールの分解能で行える2次中性粒子質量分析計「LIMAS」を開発し、詳細に調べたという。

  • 分析装置LIMASの外観

    研究チームが日本電子の協力を得て開発した分析装置LIMASの外観。ヘリウムをイオン化しているフェムト秒レーザーの光が明るく見えている(出所:北大プレスリリースPDF)

LIMASは、1μmに細く絞ったガリウムビームで星間粒子表面を走査する。その後、表面直下から飛び出した中性原子に集光したフェムト秒レーザー光を照射し、誕生したイオンをビーム走査の順番に質量分析を行って並べることで、原子の三次元分布地図ができあがる。これにより、これまで不可能とされてきたヘリウムの局所分析が実現した。

今回の研究に用いられたSiC星間粒子は、約80gのマーチソン炭素質コンドライト隕石をフッ酸などを用いて溶解させ、僅かな溶け残りの中から抽出された。さらに、その抽出物中から比較的大粒(2μm~3μm)の粒子15個が分析された。

そして三次元分析により、ヘリウムがSiC星間粒子の表面下約100nmの層に濃縮していることが判明。これは、惑星状星雲中心星から吹き出した高速の恒星風が、SiC粒子中にヘリウムをイオン注入したことを意味する。さらに、その注入量は星間粒子によって異なり、その多様性からヘリウムが捕獲された場所は、中心星より0.3~30光年の幅があることも明らかにされた。この捕獲場所の違いは、ヘリウムを多く捕獲した時の粒子の誕生からの年齢を表す。解析の結果、その時の年齢は2万~100万歳と、これも粒子ごとに違うことが判明した。

  • SiC星間粒子3個のヘリウムの三次元分布

    SiC星間粒子3個のヘリウムの三次元分布。粒子ごとにヘリウム濃度が異なることがわかる。また、表面下約100nmの層にヘリウムが濃縮していることも見て取れる(出所:北大プレスリリースPDF)

今回の研究成果は、SiC星間粒子がAGB星時代後期の約100万年の間に星の周りで誕生し、その後、惑星状星雲中心星からの強い恒星風を受け、星間空間に拡散したことを示すものだという。そして星間粒子には超新星起源など、他の起源のものも存在することから、今回の研究手法を応用することで、銀河内の星間粒子の進化と多様な恒星の進化との関係の理解が総合的に進むことが期待されるとしている。