小脳模倣のリザバーAIチップのプロトタイプを開発
TDKと北海道大学(北大)は10月2日、小脳を模倣したアナログ電子回路を用いたリザバーAIチップのプロトタイプを共同で開発したことを発表した。
低消費電力で高速に情報処理が可能なリザバーコンピューティング
リザバーコンピューティングは、時間的に変化する(時系列変化)情報を低消費電力で高速に処理可能な計算モデルで、ディープラーニングモデルと対になる概念とされている。従来のディープラーニングモデルは、「入力層」「中間層」「出力層」から構成され、入力層で情報を最初に受け取り、中間層でさまざまな計算を膨大に行い、最終的に出力層で学習結果が示されることとなるが、その中間層が多いほど複雑な計算ができることになるが、膨大なデータの演算処理が発生し、電力消費の増大とレイテンシが発生することから、その処理を担うGPUの消費電力も増加傾向にあり、現在NVIDIAの最新世代となる「NVIDIA GB300 NVL72」では1ラックあたりで約150kWの電力が消費されているが、将来的には1ラックあたりで1MWの電力が必要とも言われている。
一方のリザバーコンピューティングは「入力層」「リザバー層」「出力層」から構成され、リザバー層では必ずしも計算を必要とせず時間的に伝播する自然現象を利用する。例えば、複数の水面の波という自然現象を入力層の入力値とし、その次のリザバー層にて水面の波の伝搬や波が互いに干渉した結果を出力層に送り、最後の出力層でリザバー層の状態を適切に読み取り、水面の波がどう動いたかという特徴を推論するというもので、リザバー層は自然現象の結果を送るのみで、計算の必要がないため、学習時に調節するパラメーター数が少なく、低消費電力で高速に情報処理することが可能とされている。
リザバーコンピューティングの実用化に向けた課題
こうした特長からアナログリザバーAIでは大規模な演算処理を必要としない一方、高速処理が求められるロボットやヒューマンインタフェースなど、エッジでの個別の状況に応じた情報処理が必要なタスクでの活用が期待されているが、その実用化にあたっては、リザバーコンピューティングがディープニューラルネットワークのような万能なAIではなく、時系列変化情報処理に特化したAIであること、ならびにデジタル計算でリザバーコンピューティングデバイスを実現すると低電力の恩恵を得るのが困難であるとともに、物理現象を利用したリザバーコンピューティングデバイスにおいても、電力消費や高速処理の用途を検討できるほどの具体的なデバイスがなかったという課題があったという。
TDKでは、今回の研究に先行する形で2024年にスピントロニクス技術で大脳を模倣する形で複雑な計算を低消費電力で計算するニューロモルフィックデバイスを発表済み。今回の研究は、アナログ回路、センサおよび電子部品などのさまざまな物理現象で小脳を模倣したリザバーコンピューティングであり、じゃんけんのような時間的に変化する情報に特化し、センサデータを直接扱うエッジのような超低電力の製品において低消費電力と高速計算を実現するものとなるとする。
CEATEC 2025で人間が絶対に勝てないじゃんけんのデモを実施
なお、同社では10月14日~17日にかけて幕張メッセにて開催される「CEATEC 2025」にアナログリザバーAIチップの特徴であるリアルタイム学習機能と、TDKの加速度センサと組み合わせたデモ機を出展する予定としている。具体的には、リザバーコンピューティングによって実現した、ユーザーが「絶対に勝てないじゃんけん」とのことで、じゃんけんを出し終わる前に指の動きを判断して勝つ手を先に出すという。
同社によると、じゃんけんにおいては指の動きに個人差があり、次に何を出すかを正確に判断するためにはその個人差をリアルタイムで学習する必要があるため、デモ機を体験者の手に装着して指の動きを加速度センサで計測し、アナログリザバーAIチップにおいてじゃんけんで何を出すかというシンプルなタスクをリアルタイムで高速に処理し、ユーザーが絶対に勝てないじゃんけんを実現するとのことで、こうしたユースケースを示すことで、リザバーコンピューティングへの幅広い理解を獲得し、エッジAI向けリザバーコンピューティングデバイスの製品化の加速を目指していきたいとしている。
