千葉大学の研究グループは、高脂肪食(HFD)の摂取などの食習慣が脳機能に与える影響を調べ、長期間のHFD摂取によって記憶能が低下する仕組みを解明できたと9月10日に発表した。
国際学術雑誌「PLOS Genetics」にて、2025年8月18日にオンライン掲載されたもの。HFDの摂取頻度増は、肥満や糖尿病などの生活習慣病を引き起こすだけでなく、認知機能の低下との関連も注目されている。特に、アルツハイマー病などの神経変性疾患では、食事由来の代謝ストレスが発症や進行に関わっていることが示されているが、HFDが記憶形成に与える影響の分子メカニズムは分かっていなかった。
今回の研究では、HFD摂取などの食習慣が脳の神経細胞において、 不要なタンパク質や損傷した細胞小器官を分解・再利用する仕組みである「オートファジー」や、分解酵素を用いて老廃物を処理する「リソソーム」の機能の低下を介して、記憶能を低下させることを解明。前出のオートファジーを活性化すると、HFDによる記憶低下が回復することも見出したという。
研究グループは、その解明手法を次のように説明している。
まず、ショウジョウバエにHFDを7日間与え、記憶機能への影響を調査。HFDを摂取したハエは、学習直後から数分程度維持される一時的な「短期記憶」には変化が見られなかったが、数十分から数時間程度持続する「中期記憶」や、24時間程度持続する「長期記憶」が低下することが分かった。
次に、HFDが神経細胞に及ぼす影響を調べたところ、オートファジー活性が低下し、オートファジーで分解されるタンパク質「Ref(2)p」が細胞内に蓄積していることが分かった。Ref(2)pは哺乳類の場合、神経変性疾患に関わる、p62と呼ばれるタンパク質に相当するものだ。
さらに神経細胞の解析により、HFDを摂取したハエの脳神経細胞では、オートファジーの過程で分解されるはずの、たんぱく質などを包み込む膜構造体「オートファゴソーム」とリソソームの数が増加。一方で、オートファゴソームがリソソームと融合した後の構造体である「オートリソソーム」の数には変化がないことも分かった。
こうした結果から、HFDがオートファゴソームとリソソームの融合を抑制している可能性が示された。
研究グループは、HFDによる記憶障害が神経細胞のオートファジー機能の低下によって引き起こされていることを検証するため、神経細胞内でオートファジーを活性化させる遺伝学的操作も行った。Atg1(オートファジーの開始を制御する因子)の過剰発現や、Rubicon(オートファジーの過程を抑制する因子)のノックダウンといった操作を行うと、HFDによる中期記憶の低下が回復した。
この研究成果は、食習慣が脳機能に与える影響の理解を深める新たな知見を提供するとともに、オートファジー経路を標的とした介入が、記憶障害や神経変性疾患に対する予防・治療の新たな手段となる可能性があることも示している。
食習慣が脳の働きに与える影響を分子レベルで理解するうえで重要な知見であり、研究グループは今後の研究において、オートファジーの制御を標的とした新たな介入方法が開発されることに期待を寄せた。
