アストロバイオロジーセンター(ABC)は9月9日、惑星が主星表面の黒点の前を横切る「黒点通過トランジット」を利用し、系外惑星系「TOI-3884」の主星の黒点の状態や、この星を公転する惑星の軌道の傾きを詳細に明らかにしたと発表した。
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大きな黒点を持つ赤色矮星TOI-3884の前を、スーパーネプチューンTOI-3884bが横切っている際の想像図。生成AIおよび画像編集ツールを使用して作成された。(c)森万由子,アストロバイオロジーセンター(出所:ABC Webサイト)
同成果は、ABCの森万由子若手研究者雇用特別研究員、同 平野照幸准教授、同 リビングストン・ジョン特任助教、東京大学(東大)大学院 総合文化研究科の福井暁彦講師、同 成田憲保教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天文学を扱う学術誌「The Astronomical Journal」に掲載された。
ライトカーブの“こぶ”の異変が示した軌道の傾き
系外惑星が主星の前を横切る際に主星の一部を隠し、その明るさをわずかに暗くするトランジット現象を利用し、波長ごとの減光率の違いを分析することで、系外惑星の大気の成分を調べることが可能だ。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、系外惑星のトランジットにおいて、約0.01%というわずかな減光率の違いも捉えられる。しかし、その高性能さゆえに、従来は問題にならなかった主星表面の黒点の影響などが無視できなくなってきた。そのため、黒点の性質を正確に理解し、その影響を排除することが惑星大気観測の大きな課題となっている。
TOI-3884はりゅう座の方向、地球から約140光年離れた赤色矮星で、地球の約6倍の半径を持つスーパーネプチューンタイプの惑星「TOI-3884b」が公転している。この惑星は、毎回黒点通過トランジットを起こすという極めて希な特徴を持ち、黒点の性質や惑星軌道を同時に調べられる貴重な存在だ。しかしこれまでの研究では、主星の自転軸の傾きや自転速度など、いくつかの重要な物理量が一致しない結果が報告されていた。そこで研究チームは今回、この惑星系に対し、複数の地上望遠鏡を用いたより高精度な観測を実施したという。
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黒点通過トランジット(上)と、その時に得られる恒星の明るさの変化(下)のイメージ。惑星が黒点の前を通過する際に、惑星が相対的に暗い領域を隠すため、減光率が小さくなり、ライトカーブに「こぶ」が生じる。(c)森万由子,アストロバイオロジーセンター(出所:ABC Webサイト)
今回の研究では、米国のラスクンブレス天文台(LCO)がハワイとオーストラリアに所有する口径2mの望遠鏡と、東大とABCが開発し、それらの望遠鏡に搭載した多色カメラ「MuSCAT3」と「MuSCAT4」を用いて、2024年2月から3月にかけて3回、この惑星系の黒点通過トランジットが観測された。
主星の明るさの時間変化(ライトカーブ)の解析から、黒点は主星表面の絶対温度約3150Kよりも約200K低温で、サイズは主星の見かけの面積の約15%もあることが確認された。また、これまでは不明瞭だった黒点通過シグナルの形状の時間変化も確認されたとのこと。ただし1か月で黒点の形状の大きな変化は考えにくいことから、これは主星の自転による黒点の位置変化が示されていると予想された。
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(上段)MuSCAT3/4により観測された、TOI-3884bの3回の黒点通過トランジットにおける、黒点と惑星の位置関係を示すモデル。黒丸が惑星、グレーの丸が黒点。xが主星の極、点線が主戦の赤道、破線に囲まれた領域が惑星が通過する領域。太陽系の惑星のように、惑星の公転軌道が主星の赤道に沿っていないことがわかる。(下段)上段のトランジットにおけるライトカーブ。4色の点は、4つの異なる波長(g、r、i、zバンド)の観測データを示す。(c) 森万由子,アストロバイオロジーセンター(出所:ABC Webサイト)
研究チームは主星の自転を確認するため、世界5か所のLCOの口径1m望遠鏡と撮像カメラ「Sinistro」を使用し、2024年12月から2025年3月にかけ、1日数回、その明るさのモニター観測を行った。その結果、主星の自転周期は11.05日と判明。この自転周期は、MuSCAT3/4による黒点通過トランジットの観測から示唆された黒点位置の変化と整合的だった。この情報を用いて、惑星、主星、黒点の位置関係をモデル化し、一意に決定することができたとした。
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恒星TOI-3884の自転変動を示すライトカーブ。黒い点がSinistroによる観測データ、青い線はモデルを示す。自転周期11.05日のモデルが適合していることがわかる。(c)森万由子,アストロバイオロジーセンター(出所:ABC Webサイト)
そして得られたモデルにより、主星の自転軸と惑星の公転軌道軸が約62度もずれた、大きく軌道の傾いた軌道を持つ惑星系であることが明らかにされた。軌道の傾きの測定は、惑星の形成や軌道進化の過程を理解する上で非常に重要が、従来の手法では赤色矮星を公転する惑星の傾き角の測定は困難だったとのこと。しかし今回の研究により、黒点通過トランジットが有用な手法であることが実証されたとしている。
TOI-3884bは大気が豊富な可能性のあるスーパーネプチューンであり、JWSTなどによる大気観測の主要ターゲットとなっている。今回の研究成果は、この惑星の大気観測を行う際、惑星大気の誤検出を避けるための重要な情報となる可能性があるという。
また、この惑星の軌道が大きく傾いていることを理解することは、惑星の形成や進化過程の解明につながる可能性があるとする。約62度という大きな傾きは、巨大惑星や伴星との重力的な相互作用によって生じると考えられるが、現時点でそれらは確認されていない。そのため、今後も外側の惑星を探すなど、この惑星系の詳細な観測の継続が期待されるとした。
加えて、今回の成果は、恒星の磁場についての理解を深める手がかりとなるという。極に存在する巨大な黒点は、自転が速い恒星の強い磁場によって生じるとする理論があるが、TOI-3884は一般的な自転周期を持つ赤色矮星である。つまり、赤色矮星の極に黒点が存在することは、普遍的な可能性もあるとのこと。そのため研究チームは、恒星黒点の一般的な性質をさらに深く理解することは、今後の大きな課題だとしている。
