DigiKeyは常に現実的な視点からイノベーションを受け入れてきた。人工知能(AI)の普及で産業が大きく変わり始めたとき、誰もが「AIは自分にとってどんなメリットがあるのだろう?」という素朴な疑問を抱いた。これはもっともな疑問だし、真剣に考えるに値する。AIは単なるツールではない。人間の働き方、考え方、協働のあり方をがらりと変える力を秘めた存在である。AIが人間の定めた枠組みに導かれながら安全に自律的な判断ができるようになったとき、どんなことが可能になるだろうか? 改めてここで一緒に考えてみよう。
人間が介在することの意味
AIは驚嘆すべき能力を持っている。コードの生成、ログの要約、さらにはシステム障害の診断までこなす。このようにAIには数々のメリットがある一方で、全体像を把握させることは難しい。火曜日の朝に発生したシステム障害の影響がどのように波及するか? 請求書の未送信によって信用がどの程度低下するか? AIはこうしたことを把握する能力を持っていない。
だからこそ、人間は常にプロセスの中に介在する必要がある。AIが出力したものを承認するだけでなく、正しい問いを投げかけることが人間の役割だ。この決断が顧客に与える影響は? 本当に正しい解決策か? 顧客の他に影響を受ける人は? 失敗した場合、どのようなリスクがあり、自分たちはそれを許容できるか?
AIは状況を察知する能力を持っていない。会議室の張りつめた空気を感じ取ることも、生産ライン停止時の顧客のストレスを理解することもない。微妙な機微を判断したり、政治的な駆け引きをしたりすることもできない。それは私たちの役割だ。私たちの強みは共感力と判断力、信用と経験にある。私たちは常に2つの世界を橋渡しする役割を担ってきた。昔はシステムとユーザーの間をつなぎ、今はAIと現実の世界をつないでいる。
ビジョンはAIに奪われない
率直に言うと、AIはいずれ人間の仕事の一部を奪うようになるだろう。実際、単調で価値を生まない作業はすでに自動化が進んでいる。そもそも、そうした作業は人間が真価を発揮する領域ではなかった。作業の実行は自動化できる。しかし、ビジョンや信頼性、専門性は自動化できない。
私たち人間がかけがえのない存在である理由は、私たちが批判的に考える力、共感をもって導く力、プレッシャー下で適応する力、そして独自の解決策を生み出す力を持っていることにある。AIは決断を下さない。危機の最中に役員たちと向き合うことも、緊迫した会議を和らげることもない。信頼を勝ち取ることもない。それらはすべて人間の能力だ。
私たちの強みは、エラーメッセージをうのみにせずに問題の本質を突き止められる点にある。ひとつの変更がシステム、チーム、顧客にどう波及するかを理解する力にある。トラブル発生時に混乱を収拾する力にある。こうしたことは、AIには真似できない。
技術革新は今回が初めてではない
これまで、大きな技術革新が起きる度に人々は不安を覚えた。Uberが登場したとき、タクシー業界は大きな衝撃を受けた。自動車が登場する前、ニューヨークでは馬の後処理を職業とする人が何千人もいた。こうした職業は消滅したが、その代わりに新しい職業が生まれた。
DigiKeyは常にテクノロジーの最先端を歩んできた。紙のカタログからEコマースへ、物理サーバーからクラウドへ、モノリシックからマイクロサービスへ、そして受動的なサポートから予測型モニタリングへと進化してきた。DigiKeyは技術革新を取り入れてきたが、その度に新しいことへの適応が求められた。そして適応する度に、私たちは強くなった。
私たちは仕事を奪おうとしているのではない。役割を進化させ、チームのスキルを高めているのだ。テクノロジーは互いにつながり合いながら、複数の層が積み重なる形で進化している。しかし、重要な局面で人間のスマートな知見が持つ果たす役割はむしろ増えている。こうした状況こそ、AIを活用することで何が可能なのかを改めて考える良い機会である。単なる自動化に留まらない、大きな飛躍を実現するために。
AIの活用事例 - DigiKeyにおけるAIを活用したセキュリティソリューション5選
DigiKeyでは、すでにAIの導入によってセキュリティを高めている。AIツールはチームの存在意義を奪うのではなく、むしろ高めてきた。AIツールのおかげで対応の迅速化とリスクの低減が実現し、人間はより価値の高い業務に専念できるようになったからだ。
1. HUMAN
DigiKeyのサイトは悪質なボットによって四半期で17億回もの攻撃を受け、検索機能が損なわれていた。そこでHUMAN社のボット対策プラットフォームを導入したところ、徐々にボット側の負担が増し、攻撃に必要なコストが大幅に上がった。その効果は直ちに現れ、ボットトラフィックは3分の1に減少。阻止した不正なアクティビティの数は導入前の100倍に達している。現在、DigiKeyのウェブとモバイルの各プラットフォームはHUMAN社のソリューションによって完全に保護されている。
2. Sift
DigiKeyではクレジットカード取引のチャージバックによる決済処理能力の低下に悩まされていたため、アカウント作成や取引を数千のシグナルでスコアリングするソリューション「Sift」を導入した。その結果、2024年だけで約5,000万ドルの不正注文を阻止。それだけでなく、手作業の審査にかかる934時間を節約した。2025年にはすでに5,000件以上の不正顧客を発見している。ミリ秒単位でスコアを更新するSiftのお陰で、不正顧客よりも先に対応することが可能になった。
3. Abnormal AI
DigiKeyでは不正メール対策として従来型の電子メールフィルタを使用していたが、万全ではなかった。そこでAbnormal AIを導入し、送信者の履歴、メッセージ内容、添付ファイルを分析して脅威を検知するようになった。Abnormal AIは3つのモデルを用いて受信メールを脅威、プロモーション、フィッシングに分類する。その結果、3か月間で請求と支払いを要求する詐欺メール825件をブロック。これらは件数こそ少ないが大きな損失につながる攻撃だ。今では受信箱に届く前にAbnormal AIによって自動で排除されている。
4. Snyk
従来のコードスキャンツールは誤検知が多く、開発者からの信頼も低かったため、Snykに移行した。SnykはAIによって以前よりも高速にコードをスキャンし、修正案を提示する機能を持ったツールである。修正案はワンクリックで適用できる。Snykによってサードパーティライブラリ内の脆弱性も検出されるため、安全性がより高まった。
5. PingOne Protect
アカウントを乗っ取るための攻撃が急増していたため、多要素認証に加えてPingOne Protectを導入した。PingOne Protectはユーザーの行動(位置、デバイス、ログインパターン)を基準化し、リスクスコアを付与する。低リスクのユーザーはそのまま通過させ、中リスクのユーザーには追加認証を求める。高リスクのユーザーは今後完全にブロックする予定だ。こうした多層的なアプローチにより、正規のユーザーを守り、不正ユーザーを排除できることになる。
ここで紹介した具体例はごく一部だが、DigiKeyでは他にも多くのAIツールを導入して顧客を保護し、従業員が本来の業務に専念できるようにしている。
AIに力を借り、人間が物事を動かす
AIは常に変革をもたらしてきた。学習の負担や人員の増加を伴わずに私たちの能力を高めてくれる。能力を増幅するツールとして、業務の高速化とスマート化、チームの連携強化をもたらす。実際、Siftを導入したことで経理とサイバーセキュリティのチームが「事業を守る」という共通のミッションの下で結びついている。
私たちは今、自律的な意思決定の新しい時代を迎えようとしている。AIは、人間が定めた枠組みの中で、リアルタイムで意思決定できるようになった。それは、人間が主導権を放棄するという意味ではない。むしろ、安全かつスマートで拡張可能なシステムを構築することにつながる。
DigiKeyではAIをただ利用しているだけでなく、新しい使い方そのものを考案しようとしている。私たちが重視しているのは成果であり、人間であり、そして本来成すべきことだ。ITの未来を決めるのはAIではない。私たち人間なのだ。
本記事はDigiKeyが「AUTOMATION.COM」に寄稿した記事「AI Is Not Replacing Us — It’s Elevating Us」を翻訳・改編したものとなります

